Cheese26〜春の思い〜
薄井の家で久しぶりにケーキを食べた。
苺のショートで味は甘すぎず、中に桃が詰まっていておいしかった。
春「味はどう?おいしい?」
野高「はい、うまいですよ」
薄井「まあまあ。」
春「翔がまあまあっていうならまあまあの味かな…」
野高「え?おいしいと思いますけど」
春「ううん、まだまだ!翔が作った苺のレアチーズケーキには遠く及ばないよ」
野高「……チーズ?」
薄井「あはは〜?優はチーズ嫌いだから僕が作ったケーキの素晴らしさは一生わからないだろうね!」
春「チーズ嫌いなんだ?よかった〜!今日チーズケーキ作らなくて」
野高「……。」
あなたが作ったものならチーズケーキだろうが、なんだって食べれる気がしたんだ。
春「…さてと。花子の散歩にでも出掛けようかな」
薄井「何を言ってるんだ!?歩いただけでも息が切れるくせに」
春「だって誰も花子を散歩に連れていってあげないじゃない。」
薄井「それは……」
春「わかってるよ!翔もお父さんもお母さんも犬嫌いだもんね!わたしがちゃんと世話するって決めてたのに……ごめんね」
薄井「姉さんのせいじゃないよ」
野高「…散歩、俺も一緒に行っていいですか?」
春「え、でも…」
野高「行きたいんです。駄目ですか?」
薄井「仕方がないな。僕が家の見張りをするから二人で行きたまえ〜いっ!」
春「……うん。了解。ちゃんと家、見張っといてよ?」
薄井「任せなさい♪」
春「じゃあ、いこっか?野高くん」
野高「…はい」
花子を連れて二人で家を出た。
正直、女の人と二人きりで歩くことが初めてだった俺は緊張していた。
春「ねぇ、野高くん」
野高「はっ、はい」
春「わたし、いくつにみえる?」
野高「18…ぐらいですか?」
春「え〜?それ本当?だったら嬉しいかな」
野高「本当はいくつなんです?」
春「……22」
野高「若いじゃないですか。そんなに小声で言わなくてもいい歳ですよ」
春「だって野高くんはまだ15でしょう?若いよー。わたしと7つも違う」
野高「歳なんてそんなに重要なことじゃないよ」
春「そう?」
野高「そうです」
春「そう…かな?」
花子「ワンッ」
野高「あははっ!ほら!花子だって…」
春「はぁ…はぁ…」
野高「春さん!?」
春「ごめん、ちょっと息が切れただけだから…」
野高「……これ以上歩かないで下さい。」
春「なんでっ…」
病人扱いされたくない!
野高「どうして無理ばっかりするんですか?」
春「野高くんにはわからないよ!」
わたしだって皆と同じように普通に生きたいんだよ…。
野高「…乗って下さい。」
春「!」
野高「俺の背中に乗って下さい。家まで送りますから」
春「そんなことして恥ずかしくないの…?」
野高「全然」
春「……」
わたしは黙って野高くんの背中につかまった。
花子「ワンワンッ」
野高「花子のリード、ちゃんと持ってて下さい」
春「……うん」
野高「じゃあ、行きますよ」
…………………………時が止まったような感覚に陥った。
彼の背中は大きく感じて、やっぱり男の子なんだと思った。
恥ずかしくないと言ってくれた彼の気持ちが嬉しかった。
今のわたし達は人にどんな風に見られているんだろう…?
野高「………」
春「……ありがとう」
野高「………」
『ありがとう』なんて言わないで。
今の俺はあなたを乗せなければよかったと後悔している。
身体の重さを感じない。空気みたいだ…。
そんな彼女を乗せて家まで歩いた。
春「ありがとう。野高くん。おんぶなんて久しぶり……」
野高「――――…」
見るな……
春「……野高くん?」
俺を見ないでくれ……
春「野………」
気がつくと彼女を抱きしめていた。
あなたは自分の軽さに気づいていますか?
あなたは……ちゃんと生きていますか……?
春「大丈夫だよ。」
野高「!」
春「大丈夫」
彼女の強さが伝わった。
俺なんかが心配しなくても彼女はちゃんと生きている。
野高「何が大丈夫なんですか?」
春「疲れてないから大丈夫って意味!」
野高「春さん」
春「ん?」
野高「また会いに来てもいいですか?」
春「………はい」
薄井「………」
玄関先での二人の様子はまるで……恋人のようだった…。
〜春の思い〜 完。