Cheese154〜帰り道、二人きり〜
玲の発言に驚きつつ、わたしはできるだけ冷静に質問した。
華「玲って薄井先輩のこと苦手かと思ってたけど、ちょっと意外だな。どこがいいと思ったの?」
玲「やだ! あたしじゃないわよ? 華とお似合いなんじゃないかって思っただけ!」
華「えぇええっ!?」
わたしはびっくりしすぎて、洗おうとしたお皿を落としそうになってしまった。
玲「あ、ダメ?」
華「そんな風に考えたことないよ〜!」
玲「そっか。でも華は気付いてないみたいだけど、華のこと羨ましがってる子がうちのクラスにいっぱいいるのよ?」
華「え、なんで?」
玲「薄井先輩と野高先輩の2大スターと仲がいいからよ。あたしが思ってた以上に、あの2人は人気者だったみたいね」
華「うん…なんとなくだけど、そう思ってた」
玲「野高先輩のことはどう思ってるの?」
華「へっ!? 野高先輩はっ……先輩だよ!」
玲「じゃあ、堤之原あたりは?」
華「堤之原くんは話しやすいというか、友達…かな?」
玲「じゃあ、池本とヨリを戻すとか…」
華「わっ、わたし、今は好きな人いないよ?」
玲「…ごめん、華。あたし、本当は華に謝ろうと思ってここに来たんだ」
華「玲?」
玲「華は龍のこと好きだったよね。なのに、自分だけ浮かれて喜んでた。華の気持ち考えないであたし、最低だね……」
華「ダメだよ、玲! そんなこと考えてちゃ!」
玲「でも…」
華「わたし、鈴木くんより玲のことが大好きだもん。それに、気にしすぎだよ! 玲にはずっと笑っていて欲しいから……」
玲「あたしも好きだからッ!!」
―――ひしっ
(華に抱き着く玲)
華「わわっ!? 玲、苦しいよ〜!!」
薄井「どうやら向こうでもストレッチ大会が始まったようだね。ならばこちらもヒートア〜〜ップ!!」
(葵の腕を後ろに引っ張る薄井)
葵「イデデデデッ!? つーか俺! あなたにどーしても聞きたいことがあるんですよっ!!」
薄井「なんだっ!? 言ってみたまえ」
葵「正直、姉ちゃんのこと、どう思ってんですか? 遊びで付き合ってるならやめてください!」
薄井「は?」
―――パッ
(葵から急に手を離す薄井)
―――ドタッ
(その場に倒れる葵)
葵「も〜、何すんですか! 痛いっすよ……」
薄井「何を勘違いしてるか知らないが、花子とは付き合ってないし、第一、僕にとって大切な友人だ」
葵「だってさっき、チーズのような関係だって……」
薄井「チーズが好き者同士、という意味で答えたんだ。君は何を想像していたんだ!?」
―――こちょこちょっ
(葵をくすぐり出す薄井)
葵「うっひゃっひゃっ! やめてくださ―――い!?」
玲「それにしても、ずいぶん仲良くなったわね。あの二人」
華「薄井先輩って、なんだかんだ言って人を引き付ける力を持ってるのかも……あ、洗うの手伝ってくれてありがとう! 助かっちゃった」
玲「いいのよ〜、だって鍋もご馳走になったし、これくらいやらせてよ! あ、長居しちゃ悪いし、そろそろ帰ろっかな」
薄井「帰るのかね」
玲「ちょっ……急に話し掛けてこないで下さいよ! 心臓に悪いですから。先輩も早く帰ったほうがいいんじゃないですか?」
薄井「そうしよう」
(そそくさと帰る支度をする薄井)
葵「あの、玲さん」
玲「え? なに、どうしたの?」
葵「本当は会ったときに言おうと思ったんですけど、その髪型……めっちゃ似合ってます!! 思い出をありがとうございましたッ!!」
――――ドタドタッ
(涙を堪えて二階へと駆け上がる葵)
玲「あたし、なんか葵くんの思い出に残るようなことしたっけ?」
華「弟も複雑な年頃なんだよ、きっと……」
薄井「準備は整った。さぁ、帰るぞ! 猿子くん!」
………ガシッ
(玲の服を掴む薄井)
玲「あ、お心づかい感謝します。けど、あたし強いんで自分の身は自分で守れます。華、また明日学校でね」
華「うん、バイバイ」
―――バタンッ
(華の家を出ていく玲)
薄井「ま・待て―――! 猿子―――!! 僕を置いていくな―――!!!」
華「先輩もご両親が心配すると思いますから、早く帰ったほうがいいですよ?」
―――ガシッ
(華の腕を掴む薄井)
薄井「いやだ。一人で帰りたくない」
華「ハイッ!?」
薄井「………」
華(そういえば先輩って、いつも一人になるの嫌がるよね…。実は寂しがりや……?)
薄井「もう二度とおいてきぼりは嫌だ…」ボソッ
華(――え?)
薄井「ああ、スマンスマン! 冗談だよ〜ん。ではまた明日な♪花子」
―――グイッ
(家を出ようとする薄井の服を引っ張る華)
華「待ってください! 途中まで送りますよ!」
薄井「花子…」
薄井先輩の寂しい顔をみていたら、なんだか放っておけなかった。
薄井「星が綺麗だなぁー…」
(空を見上げる薄井)
華「そう、ですね」
―――チラッ
(薄井の横顔をみる華)
薄井「星みてないじゃないか」
華「ぅわぁっハイッ! みてます、みてます! みてますよ〜!?」
―――ずびーッ
(鼻をすする華)
薄井「……」
華(うぅ、寒い…。一枚羽織ってくればよかった…)
薄井「もういいよ、花子。風邪引くよ?」
華「え? でも…」
―――そっ
(華の頬に両手で触れる薄井)
薄井「……」くすっ
華(え…? うそ……な、に……)
薄井「あったかくないかい? 僕の手」
華「あったかい…です」
薄井「冷え症じゃないのが取り柄でね。いつも手がポカポカするんだ。これからは僕のことを人間ホッカイロと親しんで構わないよ♪」
華「本当にそう呼びますよ?」
薄井「やめたまえ」
華「……」
薄井「じゃっ! また明日、同好会で会おう! サラバイキング〜♪」
―――タタタッ
(小走りで帰っていく薄井)
華「サラバイキングって……なんですか……」
華「……」
頬に触れられた瞬間、わたしはキスをされるのではないかと思ってしまった。
ドキドキする心に問いかける。
本当は…キスを待っていたのかもしれない。そんなことを期待していた自分が恥ずかしくなり、頬に帯びた熱がすぐに冷めることはなかった。
〜帰り道、二人きり〜
完。