Cheese150〜やがて嵐は過ぎ去る〜
遠のく意識の中、ほのかに甘い香りを感じた。体がふわふわして、なんだか夢の中にいるみたいだ……
―――ガラッ
(保健室の扉を開ける優)
田中先生「野高く……彼女、どうしたの!?」
優「薄井が前後に揺らして、そしたら急に口から泡が出て、それで……」
田中先生「わかったから、とにかくベットに寝かしてちょうだい」
優「は、はい……」
(華をベットに降ろす優)
優「……」ドキッ
田中先生「呼吸はしてるし、脈も落ち着いてるわね。軽い脳震盪みたいなものだと思うけど、病院とお家には連絡したほうがいいわね」
優(こんな時に何考えてんだよ、俺は……)
田中先生「野高君?」
優「はっ、はい」
田中先生「……」じ〜
優「たっ、立川さんは大丈夫なんでしょうか?」
田中先生「ええ。彼女をここまで運んで来てくれてありがとう。そろそろHRが始まる時間でしょう? 後は先生に任せて、教室に戻りなさい」
優「傍に……居させてもらえませんか?」
田中先生「ここは病院じゃないんだから、駄目に決まってるでしょう」
優「……そう、ですよね……。立川さんをお願いします」
―――ガラッ
(保健室を出る優)
田中先生(野高君があんなこと言う生徒だったなんて……嫌ね、保健医のくせに嫉妬なんて……)
華「ゲホッゴホッゲホッ」
田中先生「あら、気がついたのね」
華「あ、れ? なんでわたし、こんなところに……?」
田中先生「薄井君に散々な目にあわされたんじゃない?」
華「あ゛!! そうなんです!! 薄井先輩に怒鳴られて、頭を揺すられて、それから……世界が回ったんです!」
田中先生「フフ、その調子ならもう大丈夫そうね。後で野高君にお礼を言ってあげて。彼、血相変えてあなたをここまで運んで来てくれたのよ」
華「野高先輩が……?」
田中先生「付き合ってるの?」
華「いえ、そんな!! 滅相もないです!!」
田中先生「……じゃあ、あまり彼に迷惑掛けないでちょうだい」
華「は、はい……すみません……」
田中先生「あ……彼、いつも保健室に来るような子だから、無理をして体を壊さないか心配なのよ。あなたが謝ることないわ」
華「わたし、お礼を……お礼を言いに行ってきます! 失礼しました!」
―――バタバタッ
(走って保健室を出る華)
田中先生「若いって……いいわね」
――2年A組教室前にて
優「え、まだ薄井の奴、帰ってきてないの?」
坪井「うん。つーか、あの人、今朝教室に来たときから様子変だったから」
優「薄井の様子が変なのはいつものことだよ……」
坪井「いや、いつも以上にその、変だった」
優(まさか立川さんの退学の件で気が動転して……?)
優「もしかしたら、まだ立川さんのクラスで伸びてるかもしれないな……HRが始まるまであと何分?」
坪井「あと5分だけど……」
優「十分! 薄井連れて来るよ」
―――ドドド
(走り出す優)
坪井(うわ〜…走るの遅ッ!? なんか心配になってきちゃったよ……)
――1年C組教室にて
華「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ……」
龍「お、帰ってきた。おかえり」
華(野高先輩にお礼を言いに行こうと思ったけど、ゆっくりできる時間がなかった……)
華「ただい―――」
―――バッターン
(何かに蹴つまずく華)
龍「あ、そこに人いるから気をつけろよ」
華「もっと早く言ってください……って、薄井先輩!?」
圭「さっきから突いてるんだけど、全然起きないんだよね〜」
華(堤之原くん、枝で突いてる……虫扱いですか―――!?)
薄井「はなこぉ〜…僕を一人にしたら……許さない……からな……」
華「薄井先輩……わたし、退学なんてしないですよ……ちゃんと話しを聞いてください」
薄井「……」ピクッ
―――むんずっ
(薄井をわしづかみにして持ち上げる優)
優「薄井が迷惑掛けてごめんね、立川さん。この人、連れて帰るから」
華「あ、あの! 先輩、さっきはどうもありが……」
―――ピーゴロゴロ…
(優の腹が鳴り出す)
優「お腹の調子が……急に……」
―――ドタッ
(その場に倒れる優と薄井)
華「野高先輩―――!?」
―――ガラガラ
(前の扉から高橋先生が入って来る)
高橋先生「よーし、HR始めるぞ〜。みんな席に着け〜」
華「高橋先生!! 先輩方二人が倒れてます!! 助けてください〜〜」
高橋先生(無茶苦茶言うな―――!?)
??「フハハハハ……」
華(この間の抜けた笑い声は……)ゾクッ
薄井「花子が退学しないとわかったことだし、もう死んだフリをする必要もなくなった!!」
華(死んだフリって―――!?)
圭「すげぇ――!! 死んだフリしてたんだ!?」
華(感心してる人がいる―――!?)
高橋先生「薄井……頼むから自分のクラスに帰ってくれ……」
薄井「T.Tのくせに僕に命令するとは1年早いわ!! 僕は天下無敵の美化委員長だぞ!? 誰にも僕を止めることはできまい♪わーはっはっは!」
C組クラス全員(うぜぇぇぇ――――!!!)
薄井「花子」
華「ヒッ!?」
薄井「放課後、いつもの場所で待ってるぞ」ニッ
華(あ……Cheese同好会……)
薄井「ではさらばタラバガニだ☆」
華(意味わかりませ―――ん!!??)
―――ズドドドドッ
(野高を担ぎ、全速力で教室を出ていく薄井)
華「先生……」
高橋先生「どうした、立川……」
華「嵐が過ぎ去りました……」
高橋先生「立川、気持ちはよくわかる……席に着け……」
―――保健室にて
薄井「田中ティ―――チャャャャャャ――――――――!!!」
田中先生「ギャアァァァ!?」
薄井「メダカくんが腹痛で顔が真っ青だ。診てくれないか」
田中先生「わ、わかったから、そんな大声出さないでちょうだい……心臓に悪いわ……」
薄井「では、頼む。僕はこれで失礼する」
田中先生「薄井君、何かいいことでもあったの?」
薄井「なぜ?」
田中先生「さっきからずっと、嬉しそうな顔してるわよ?」
薄井「……わかる人にはわかるんだな」
―――ガラガラ
田中先生に背を向け、薄井は保健室を後にした。
〜やがて嵐は過ぎ去る〜
完。