Cheese149〜王子、降臨〜
あたしの目の前にいる龍はまるで、体術を構えた戦士のような姿だった。
玲「本気であたしとタイマンする気なの?」
龍「…ああ。オレが勝ったらおまえに話しがある」
玲「その確率は万に一つでもないけどね…」
あたしは手に持っていた野球のボールを目の前に突き出した。
玲「これが地面に落下した瞬間が勝負開始の合図。それでいい?」
龍「わかった。本気で来い」
玲「言われなくてもそのつもり」
そして、重力の通りにボールは地面に落下した。
―――野高宅にて。
優の母「そういえば、優の学校、この時期に校長が変わるんですってね。学校から貰ってきたプリント読んだわよ」
優「え…? そんなこと書いてあった? でも、校長が変わっても変わらなくても、たいして興味がないっていうか…」
優の母「ん? 代々木田篤ってどこかで聞いたことあるような…」
優の父「おお、あのチビヘタレの代々木田か! あいつ、出世したじゃねーか!」
優「父さんの知り合い?」
優の父「ああ。俺の後輩だ。昔通ってたボクシングジムのな! あいつ、やってもやっても強くならねぇから、俺が鍛えてやったもんだ」
優「……」
優の母「お父さん! 優の前でボクシングの話しなんかしないで!」
優の父「なんだ? まだ俺のパンチくらったこと根に持ってんのか?」
優「……」←図星。
――月曜日、学校にて。
龍「……」
(イヤホンを付け、爆音で音楽を聴く龍)
華「お、おはよう。鈴木くん…」
龍「……」
華(そうだよね…聴こえてないよね…)
龍「……今日は早ぇーじゃん、立川」
華「あ、うん! 鈴木くんも今日は早いんだね」
龍「まぁな」
華(なんだろう…ちょっと様子が変……?)
―――ガラッ
(後ろの扉が開き、玲が教室に入る)
華「あ! 玲、おは……どどどっ、どうしたの!? その顔のキズ!!」
玲「負けた。」
華「へ?」
玲「この男に負けたのよ!! このあたしが!! 今まであたしがコイツに負けたことなんか一度もなかったのに……!」
龍「俺が強くなった。ただそれだけのことだ。土曜日に俺が言った場所、覚えてるよな? 今日必ず来いよ」
華(鈴木くん、玲より強くなったんだね…)
玲「…わかったわよ」
(自分の席に向かう玲)
華(もしかして…告、白―――…?)ズキッ
龍「なんだよ、立川。俺の顔に何か付いてるか?」
華「ううん! ぜんっぜん! ツルツルだよ!」
龍「…はぁ?」
華(あれ…なんでだろ…複雑、だな…変なの…)
―――ガラガラッ
(教室の前の扉から轟が入って来る)
轟「僕を殴り飛ばした鈴木! それからこの僕をフった立川華! 君達の処分が決まった!」
玲「ちょっとアンタ! 性懲りもなくまた現れたわね!? そんな大声出して、自分のこと話したりなんかして恥ずかしくないの? プライドってもんがないわけ? どうなのよ!?」
華(玲…なんかすごくイライラしてる…)
轟「そんなものはない。僕は欲しいものが手に入らないことと、僕を侮辱する奴が1番気にくわないんだ。だから、あの二人を退学させることにした」
玲「なっ…!?」
華「たっ、退学!?」
―――ガタッ
(急に立ち上がる圭)
圭「さっきから黙って聞いてれば言いたい放題いって……クラス内迷惑なんだよ!! あっちいけよ! しっ! しっ!」
淳「堤之原の言う通りだな。出鱈目いって立川さん達を困らせるなよ」
華(淳くん…堤之原くん…)
轟「退学になることは決まってるんだ!! 僕は昨日、父に話して了解を得たんだ…。それにこれは立派な暴力事件と侮辱罪の罪だぞ? 父の出した結論は絶対に覆らない。だって……この学校の校長なんだからね……」
華「そんな……」
―――ポンッ
(華の頭に軽く手を置く優)
華「野高…先輩…?」
優「そのことなら大丈夫」
華「!」
優「えっと、代々木くん…だっけ?」
轟「田が抜けてますよ。なんですか? あなたは…」
優「俺は二年の野高っていうんだけど、君のお父さん、立川さんと鈴木くんを退学にはしないって」
轟「ああそうですか…って、えぇ―――!?」
優「俺の父親が君のお父さんに電話してちょっと話したみたいなんだけど、そんな話し知りません…だって。面白い人なんだね。君のお父さん」
轟「そんな……馬鹿な……」
優「嘘だと思うなら、本人に聞いてみるといいよ。最も、君の話しが事実になった場合、俺の父親が何するかわからないけどね…」ギロ
轟「…ヒッ!? 失礼しました!!」
(全速力で教室から飛び出す轟)
優「ここまで言えばもう大丈夫…かな」
華「ぜ、ぜんぱい……ありがどうございまず〜〜!!」ズビッ
(泣きながら優にお礼をいう華)
優「た、立川さん!? あ、お願いだから泣きやんでよ。ね?」
華「はぃい〜〜!!」
優(そんなに泣かれたら俺……)
龍「あざーす。先輩」
優「え? あ、うん…」
優(なんかちょっと意外、だな…)
――――ガラガラッ
(後ろの扉が開き、薄井が教室に入って来る)
薄井「花子!!」
――――ガシッ
(華の肩をがっしりと掴む薄井)
華「先輩、痛いですって…」
薄井「不良少年と駆け落ち退学するというのは本当かッ!? 美化委員の仕事を僕に全部押し付ける気かッ!? Cheese同好会はどうするッ!? 見捨てるつもりかぁぁぁ―――――!!??」
華「―――」ブクブク
(口から泡を噴く華)
薄井「あ゛」
玲「ちょ…!! 金髪先輩! 華を殺す気!?」
(華のもとに駆け寄る玲)
優「う〜す〜いぃ〜……」
―――ドゴッ
(優の鉄拳制裁をくらう薄井)
華「世界がまわってる〜〜…」パタッ
(華、思考回路停止)
龍「おい、立川!?」
玲「華!!」
優「!」
(華を軽々と抱き上げる優)
龍「あ」
優「俺が保健室まで連れて行くよ。ここのクラスの担任は確か高橋先生だったよね。先生が来たら立川さんのこと伝えてくれるかな」
龍「はい」
優「頼んだよ」
(華を抱えながら教室を出る優)
玲&龍「……」ぽか〜ん
玲(白馬の王子様みたい…)
龍
薄井、未だに教室の隅っこにてノックダウン中。
〜王子、降臨〜 完。