Cheese147〜近づく気配〜
手から擦り抜けるように奪われたバトン。
私を追い抜いて走り去ったのは、あの人だった。
玲「龍!?」
浅井『おっーと……?赤組、選手交代があったようで、徐々に先頭との差を縮めています!!』
華「鈴木……くん……」
―――パタッ
(その場から崩れるように座り込む華)
華「はぁ…はぁ…はぁ…」
―――ポンポンっ
(華の頭を軽く叩く薄井)
薄井「お疲れさん。……コース上なんかに座っていたら蹴飛ばされるぞ?」
華「は、はい……すみません」
(ヨロヨロとコースから退く華)
―――ビシッ
(華に向かって指差す薄井)
華「……?」
薄井「そこで見ていたまえ!僕の勇姿を!!」
華「はい、了解です」
薄井「……まったく、君という奴は、素直で……」
華「先輩っ!!バトンが来てますっっ!!」
薄井「うはははは〜〜♪よこせぇぇえいっ!!」
(バトンをぶん捕る薄井)
華(こんな無茶苦茶なバトンの渡し方、はじめて見た――――!?)
龍「待てコラッ!!金髪―――――!!!!!」
華(もう来た―――!?)
赤組走者「ヒィッ!?」
龍「逃げんなッ!?走れ――――――!!!!」
(バトンを次の走者に投げ飛ばす龍)
華(無茶苦茶―――!?)
浅井『な―――んと―――!?急速な勢いで赤組が2位に浮上しました―――!!!』
龍「ゼェ…ゼェ…ハァ…ハァ」
玲「お疲れ」
(龍にタオルを差し出す玲)
龍「おう、サンキュー……って、なんだよ?その頭。サルみてぇ」
玲「うっさい、バカ」
龍「へへっ」
華
(持ってきたタオルを後ろに隠す華)
浅井『青組、驚異的とも言える激走……赤組、追いつけるか―――!?』
華(薄井先輩、めちゃくちゃ速い……!?)
薄井(彼女が見ているのに、ここでいいところを見せなくてどうする―――――!!!!!)
――――グラッ
薄井(なん……だ……?視界が二重になって……あと少しで優にバトンを渡せるという時に―――)
優「薄井っ!?」
―――ドサッ…
(その場に倒れ込む薄井)
華「―――え?」
薄井「ゲホッ…ゴホッ…」
坪井「おい!?薄井、大丈夫か!?」
(薄井に駆け寄る坪井)
薄井「来るな!!」
坪井「!」
薄井「僕がバトンを回さなくてどうする……」
浅井『青組を……赤組が抜かし、トップに出ました……』
書記「会長?」
浅井「……」
優「薄井……辛いだろうけど、あと少しだから頑張れ」
薄井「メダカのくせに僕を応援とは……10万年早いわぁぁぁ―――!!」
(優にバトンを渡す薄井)
優「生きてないだろ――――――――!!??」
(薄井からバトンを受け取った直後、激走する優)
――――パタッ
(力尽き、その場に俯せる薄井)
「立って下さい。先輩」
薄井「……?」
(顔を上げる薄井)
華「そんなところにいたら、蹴飛ばされちゃいますよ?」
薄井「ははっ、かっこわる……」
(立ち上がる薄井)
華「先輩、怪我してますよ!?血がっ――」
薄井「ああ……唾つけて治るだろう。これぐらい」
華「ダメですっ!!今すぐ洗いに行きましょう!」
薄井「……へ?」
―――むんずっ
(薄井の体操着を掴んで歩きだす華)
薄井「わかったから離したまえ!!」
華「嫌です!水道に着くまで離しませんから!」
薄井「………りょうかい」
坪井(へぇ〜…、頑固な薄井を連れていくとはやるなぁ……あの一年)
―――水道にて
薄井「……」
(脚に付いた土と血を洗い流す薄井)
華「先輩、体調が悪いときになんで無理して走るんですか……?」
薄井「僕が休めば代わりに走る者がいなくなって困るだろう。花子もそう思ったから、二人分走ると決めたんじゃないのか?」
華「わたし、そんないい人にみえますか?」
薄井「ふむ、違うのかい?」
華「本当はヒーロー気取りだったのかもしれません。でも、全然ダメでしたけど……あ、このタオル使ってください」
(薄井にタオルを差し出す華)
薄井「本当に君という奴は、素直で……」
華「?」
薄井「いい子だと思うよ」
華「!」
薄井「タオル、濡らしたら悪いから返すよ」
(華にタオルを渡し、先に歩き出す薄井)
華「………」
??「あのッッ!!」
華「ヒッ!?」
??「立川華さんですよね!?」
華(どっ……どなた―――――――!?)
??「僕、1−Aの代々木田轟といいます」
華(代々木だGO?いってらっしゃ――い!?)
轟「あの手紙、読んでくれましたか?」
華「手紙って……まさか!?」
(ポケットからクシャクシャになった紙を取り出す華)
轟「そんなになるまで読んで下さったんですね」
華「え?ちが――」
轟「さっき一緒にいた方は立川さんの彼――」
華「ちっ、違います!!ただの先輩ですっ!!」
轟「………」クス
華(この人、どこかで見たことあるような……)
轟「ゲーム、しませんか?」
華「ゲーム?」
轟「はい。簡単なゲームです」
華「やらないです」
(轟の前を通り過ぎようとする華)
轟「返事……お待ちしてますよ。立川華さん」
華(……!!)ゾクッ
なぜこの人に見覚えがあるのか、わたしはようやく思い出した。
代々木田轟……彼は同中で有名だった、女遊びの常習犯だ―――…
〜近づく気配〜 完。