Cheese143〜未来の約束〜
気がつくと涙は、服の袖に付いて消えてしまった……。
華「野高先輩、こんにちは」
優「こんにちは」
華「突然どうしたんですか?びっくりしましたよ〜!」
優「立川さんのことが心配だったから…お見舞い」
(手に持っていたバスケットの中身を華に見せる優)
華「わぁ…!チーズケーキだぁ!!」
優「よかった…。崩れてなくて。立川さん、チーズケーキ好きだったよね?」
華「はい!大好きです!」
優「…うん。俺も」
華「あれ…?確か野高先輩って、チーズ苦手でしたよね?」
優「へ……?あっ、ごめん!今のなし!!何言ってんだろ…俺」
華「??」
優「はい」
(バスケットを華に渡す優)
華「あっ…ありがとうございます」
優「じゃあ、俺はこれで」
華「もう行っちゃうんですか…?」
優「うん。立川さんの元気な顔が見れたからいいんだ。早く良くなって、また三人で同好会やろうね」
華「はいっ!」
優「待ってるから」
華「先輩…」
優「ん?」
華「わたし、先輩みたいな優しい人になりたいです」
優「…俺はそんなに優しい人間じゃないよ」
華「優しいです!だって、わたしが好きなチーズケーキをお見舞いに持ってきてくれたじゃないですか!わたしなんて、いつもトゲのあることを人に言ったりして、全然ダメなんです…」
優「……だよ」
華「え…?」
優「立川さんだからだよ。俺がそんな風に見えるのはきっと」
華「………」
優「立川さんは俺にとってその……特別だから。優しくなれるんだ」
華「特、別…?」
優「かっ………帰ろっかな!うん。じゃあ、また」
華「せんぱいっ!」
優「〜〜〜〜」
(立ち止まらない)
華「ケーキ、ありがとうございました!!大事に食べます!」
優「……うん。またね」
華「はい!また!」
野高先輩みたいに、優しい人になりたいと強く思った。でも、怪我に耐えて生きる氷河真に「ばかやろう」と叫んだわたしはやっぱり……
華「最低だ……」
―――翌日、わたしは朝から荷物の整理をしていた。
華「………」
龍「よかったな。立川。すぐに退院できてよ」
華「……うん」
龍「なんだよ、たりぃな。もっと嬉しそうな顔しろよ」
華「嬉しいよ?でも、鈴木くんのイビキがうるさくて、昨日はあんまり眠れなかったんだからね!」
龍「はぁ?誰がイビキなんかかくか!つーか、寝不足なのは枕が違うから〜とかなんじゃねーの?」
華(それだけじゃない…。元気が出ない理由はもうひとつあるって、自分でもわかってる…)
龍「聞いてんのかよ、立川」
華「あっ、うん…。そういえば氷河真、朝から居ないね…」
龍「どーせ売店でカリカリ梅でも買いに行ったんじゃね?」
華「そっか…。そうだよね!じゃあ、お先に失礼します!!」
(荷物を持って龍に頭を下げる華)
龍「おう。俺もさっさと退院してやる」
華「早く玲に会いたいんだ?」
龍「………」
華「………」
龍「立川……てめぇ……」
華「しっ…失礼しましたぁ――――!!!」
(病室から逃げ出す華)
龍「…ばーか」
―――病室を出たわたしはふと、普通に走れて歩ける自分の脚に目をやった。
華(もしもこの脚が動かなくなったら、わたしは耐えられるのかな…。氷河真みたいに耐えられるのかな……?)
看護師A「朝から頑張ってたわよね。正直、意外だったわ。どんなに言っても反発して聞かなかったから」
看護婦B「そうよね…。まぁ、これも一重にチョコとかあげたりして、なんとか機嫌を良くしようと努力した結果よ」
華(誰の……こと……?)
看護師A「チョコは関係ないと思うけど、頑張ってるのは確かよね。氷河くん」
華「あのっ!」
看護師B「はい、なんでしょう?」
華「氷河真、今どこにいますか?」
看護師B「氷河くんなら……」
―――気がつくとわたしは、無我夢中で走っていた。
『氷河くんならリハビリ室よ。一人で一生懸命、歩く練習をしていたわ。手伝ってあげようと思って声を掛けたんだけど、私の声、彼に届かなかったみたい。あなたの声になら返事をしてくれるんじゃないかしら』
―――リハビリ室にて
氷河「……ってぇ」
華
氷河「動けよ、クソッ…」
華(なんで今になってそんなに頑張るの?わたしなんかの言葉が…あなたを動かしたの……?)
氷河「………」
(棒に掴みながら前に進もうとする氷河)
―――声を掛けちゃいけない。わたしは黙って氷河真の姿を見つめた。
『頑張って』
どうかこの言葉だけは彼に届いて欲しい。
声を出したらすぐに届く距離。でも、わたしには氷河真が遠くに感じる。わたしより遥か遠くに……
何度転んでも立ち上がる彼の姿に、わたしは涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
わたしにも何かできることはあるのかな?
華「………」
(氷河の前に立つ華)
氷河「立川……?」
華「氷河真は、ここまで歩いて来れますか?」
氷河「……上等」
(立ち上がる氷河)
ゆっくりでいいんだよ。
自分のペースで、その脚で、一歩一歩進んでいこう。
諦めなければ、いつかきっと………
氷河「――ッッ!!」
華「!」
(転びそうになる氷河を抱きとめる華)
氷河「かっこわりぃ」
華「そんなことない。すごいよ……」
氷河「立川は…あったかいな」
華「え……?」
氷河「なぁ、立川。鈴木なんかやめて、マジでオレと付き合わない?」
華「うん」
氷河「うん?」
華「歩けるようになったら、1回だけデートに付き合ってもいいよ」
氷河「なんだそれ…。何年先の話しだよ」
華「応援するよ。だから…頑張れ」
氷河「りょ〜…かい」
わたしよりも氷河真の方がずっと……
あたたかい人だよ
〜未来の約束〜 完。