Cheese141〜成長〜
氷河真からもらった小さなチョコレートは、ちょぴり苦くて、わたしの苦手な味だった。
華「………」
龍「そういえばお前、佐藤に殴られたんだろ?」
華「え…?なんで知ってるの?」
龍「金髪が聞いてもいねぇのにぺらぺら話していったからな。つーかアイツ、とうとう自分が男だってゲロったんだな」
華「うん…」
龍「停学…いや、罰が悪けりゃ退学だな」
華「そんなっ…!!」
龍「だってそうだろ?全校集会で言ったっつーことは、校長が黙ってねぇよ」
華(雅ちゃん……)
雅が男だと告げてから、丸一日が経過していた。そしてその頃、校長室では…
雅「………」
寺島「どうして今まで性別を偽っていたんだ?」
雅「用が済んだら戻ろうとしたさ。ただタイミングがずれただけの話だよ」
寺島「佐藤、昨日から反省する様子がないな…。親を呼び出しても仕事で都合が悪いと言われるし、一体お前の家庭はどうなってるんだ?」
高橋「すいません」
寺島「なんで高橋先生が謝るんだ?」
高橋「僕は知ってたんです。佐藤が男であることを…」
寺島「知ってて黙ってたのか!?高橋先生…こう言っちゃ悪いけど、あんたそれでも教師なのか?」
高橋「……すいません」
雅「先生。この人を悪く言うの、やめてくれます?この人、全然カンケーないんで」
―――カチャ
(校長室の扉が開く)
校長「そろそろ態度を弁えましたかな?佐藤雅くん」
雅「………」フンッ
(そっぽを向く雅)
寺島「コラッ!佐藤!校長に向かってその態度はなんだ!?」
校長「まぁ、いいでしょう。君の親御さんが来て下さったからね。話しをしようか」
雅の母「……」
雅「母さん……!?」
雅の母「だらしの無い恰好…。雅、あなたまだそんな恰好をしていたの?」
雅「あんたがさせたんだろ……」
高橋「……!?」
雅の母「それは昔の話でしょう…?それであなたを傷つけたのなら謝るわ」
高橋「失礼ですけどお母様、佐藤に何を……」
雅の母「武さん、あなたがついていながらなぜ私が呼び出されなければならないの?雅のことはあなたに任せるって頼んだはずよ」
高橋「すみません…」
雅「さすがに親父は来ない…か。そりゃあ、惨めだもんな?息子が女装なんて」
校長「佐藤雅くん、君は高校に入学してから一度も家に帰ってないそうじゃないか」
雅「余計なことまでぺらぺらと…。あんた、そんなことまで話したのか?」
雅の母「親に向かってなんて口の聞き方をするの!?謝りなさい!!」
(雅の髪の毛を引っ張る母)
雅「離せよッ!!」
雅の母「こんなに髪を伸ばしてみっともない……!!どれだけ親に恥をかかせれば気が済むの!?」
『雅は女の子なんだから…』
雅「………ッッ!!」
――――ああ、
胸糞わりぃ…
高橋「やめてください」
(雅の母の手を掴む高橋)
雅の母「私は……何も悪くないわ……」
高橋「……」
雅「そうだな…。悪いのは全部俺だもんな?」
高橋「―――いい加減にしろ!!」
雅「!」
高橋「お前達、親子なんだろ?誰が悪いとかそんなことで争うなんて馬鹿げてる…。お母さん、なんで子供自身をもっとよく見てあげないんですか!?」
雅の母「!!」
校長「ちょっと落ち着きたまえ、高橋くん…」
高橋「校長は黙ってて下さい!!お母さん、あなたはもっと、子供のことを考えるべきだ!!」
寺島
雅の母「校長先生、雅はどうなるんですか…?」
校長「それをこれからゆっくりとお話しましょう」
雅の母「どうか退学だけは許してやって下さい…!お願いします!!」
(頭を下げる母)
雅「母さん……」
雅の母「家に帰ってこない馬鹿息子ですが、学校だけはいつも楽しそうに行っていると娘から聞きました。だから退学だけは絶対にさせたくないんです」
雅(姉貴のおしゃべりが…)
高橋「僕からもお願いします!!」
(土下座をする高橋)
雅「おい!?何考えてんだよ!?やめろよ!!」
高橋「口は生意気ですが、佐藤は本当は根が優しい子なんです。…僕の大切な生徒を退学にすると言うのなら、私も教師を辞めます」
雅「そんなこと言ってもできないくせに…」
高橋「できるさ。お前のためなら」
雅「ばっかじゃねーの…」
校長「高橋くん、土下座なんてやめてくれ。佐藤雅くんの件は、一週間の停学処分とする。これでいいかね?」
高橋「それじゃあ…」
校長「ああ、退学にはしない。ただし、一週間後に身なりを整えて学校に登校しなさい。わかったかね?」
雅「…はい」
校長「高橋くん、学校は辞めないで下さいよ。君がいないと、君のクラスの生徒達が悲しむからね」
高橋「校長、ありがとうございます…!!」
雅の母「よかった……」
雅(ありがとう、母さん…)
その後、昇降口前にて
雅の母「わざわざ送って下さらなくてもいいのに…」
高橋「いえいえ、これくらいはさせて下さい」
雅の母「武さん、雅と梓のこと、よろしくお願いします」
高橋「はっ、ハイッ!恐縮です!!」
雅「そんじゃ。まだまだお仕事、頑張れよ」
高橋「ああ。気をつけて帰れよ!また一週間後に教室で会おう」
雅の母「………」
(お辞儀をして、学校を後にする母)
高橋(強くなれ。雅)
雅の母「あなたとこうして歩くのも久しぶりね」
雅「そうだね」
雅の母「さっきはきついこと言ってごめんね。最近仕事が忙しくてつい、あなたに当たってしまったわ…。私、どうかしてるわね」
雅「全然へっちゃら。気にすんな」
雅の母「雅」
雅「なに?」
雅の母「手でも繋いで帰ろうか」
雅「そんなことはもうしない。俺、男だぜ?」
雅の母「そうね…」
雅「俺、大切な人を傷つけたんだ。だから今から会いに行ってくる」
雅の母「…わかった。いってらっしゃい」
雅「行ってきます」
私の目に映った姿は、いつの間にかたくましくなった息子の背中だった……。
〜成長〜 完。