Cheese127〜涙の行く先〜
大好きな人と別れることが、こんなにも辛いなんて思わなかった。
文化祭を楽しむ人達の笑顔が眩しい…。
まっすぐと続く廊下をぼんやりと歩きながら、「これでよかったんだ」と、心の中で強く自分に言い聞かせた。
そうしなければ、今にも涙が溢れ出てきてしまうから……
「立川さん」
華「!」
優「よかった。三回目で気付いてくれたね」
華「野高先輩!ごめんなさい、気付かなくて…」
優「ううん、気にしないで。立川さんに会えてよかった」
華(優しい笑顔…。先輩、怒ってないのかな?ずっと同好会をサボってたのに……)
華「それにしても先輩の恰好…凄いですね。はっぴですか?」
優「こっ…これは薄井が考えたデザインで、好きで着てるわけじゃないんだよ?断じて!!」
坪井「あ゛ーー!?野高くん、発見!!今までどこであぶらうってたんだよーー?」
優「坪井…?ごめんごめん、ちょっとギター同好会のライブ見に…」
華「先輩も見てたんですか?」
優「うん。池本君達、かっこよかったよね」
坪井「はー!?ライブあったの?なんで隠してたんだよ〜…」
優「別に隠してたわけじゃないよ。でも近い将来、チケット買えば見に行けるんじゃないかな」
華「……!」
坪井「い゛。文化祭なのに金取んの?」
優「そうゆう意味じゃなくて…まだ先の話ってこと」
樽本「坪井く〜〜ん!!至急教室まで援護に来てーー!緊急事態発生ーー!」
坪井「オッケー!あ、仕事放棄の罰として、俺の分のビラ配りよろしく!ほんじゃね〜♪」
優「…っておい!こんなにたくさん配れるわけないだろーー!!」
華「大変そうですね。手伝いましょうか?」
優「…ん?いいよ、いいよ。大丈夫。その変わり、このチラシ一枚貰ってくれればそれでいいから」
(華にチラシを渡す優)
華「チーズINタコ焼き…?」
優「うん。うちのクラスで作ってるんだよ。よかったら食べに来てね」
華「はい!もちろん食べに行きます!早速今から買ってきますね。チラシ配り、頑張ってください!!」
(走り去りる華)
優「無理に笑ってるみたいだ…。立川さん…」
―――その頃、2年A組教室では…
坪井「緊急事態ってなに!?まさか材料不足かっ!?ケチケチ金を集めてあれほど買い貯めしたのにぃぃ〜!!」
薄井「材料なら足りてるよ。何を一人で焦ってるんだね?ツボーキサイト」
坪井「ななななんで薄井が焼いてんだよ―――!?おまえ、焼く当番じゃねぇだろーー―!?」
お客A「チーズタコ焼きふたつ下さ〜い」
薄井「INが抜けてるから焼いてあ〜げない」
坪井「営業妨害やめろーーーー!?」
樽本「やっぱり野高くんを連れてくるべきだったかな…。薄井くんを止められるのって、野高くんしかいないよね!?」
お客B「チーズ抜きタコ焼き下さ〜い!あ、マヨネーズたっぷりで♪」
薄井「チーズ…抜き?このとんちあんぽんたんめっ(?)なにがマヨネーズだ!!ふはは、これで十分だ♪ON THE カラ〜〜シィィィ〜〜!!!」
(タコ焼きの上にカラシを撒き散らす薄井)
坪井「ヤメテェェーーー!?」
クラス女子「あ゛!?薄井くん、タコ焼きひっくり返さないと焦げちゃうよ!?」
薄井「む?それはいかんな。とりゃあぁぁ!!」
坪井「ゆっくりやってーーーー!?」
…………ぴゅ〜〜〜
(タコ焼きが宙を舞う)
華「すみません!チーズINタコ焼きをひとつ……」
…………べちゃっ
(華の頭上に落下)
坪井「あ」
樽本「ああ!?」
薄井「あぁ?」
坪井「なんで語尾を下げるんだよ!?語尾をッ!」
華「………あつい」
樽本「だだっ大丈夫!?」
華「あついあついあついぃぃ!?」
薄井「大きな声を出すな!まったくもって、大袈裟だね」
(タコ焼きを掴み取る薄井)
薄井「あちぃっ!?」
坪井「熱いんじゃねーかよ!?」
薄井「これじゃあまるで爆弾焼きだ!?」
坪井(作ったのおまえだーーー!?)
薄井「すまない…花子。念には念だ。保健室へ行こう」
華「うぅ…。平気です」
薄井「いいからついてきなさい」
華(Cheese同好会に行かなかったこと、先輩は絶対怒ってる…)
薄井「ほら、行くよ」
(華の腕を掴んで走り出す薄井)
華「先輩…!?」
薄井「うはは♪人間急患車だ〜(?)」
華(人間急患車って一体??それにしても…走るのが早過ぎる〜〜!?)
―――保健室にて。
薄井「田中ティーチャーはいないようだね」
華「ぜーはーぜーはー…」
薄井「どうした?花子。心不全か?」
華「先輩のせいです!!」
薄井「とりあえず、頭に消毒液を塗るべきか…」
華「遠慮します」
………バチコーーンッ
(突然華の額を平手打ちする薄井)
華「!?!?」
薄井「蚊だ」
(手の平を見せる)
華「………」
薄井「やっぱり痛むんだろう?我慢するな。つむじ君が赤くなってるよ。それともなにかぁ!?さっきの平手が効いてしまったのか!?」
(華の顔を覗き込む薄井)
華「うっ…」
(泣き出す華)
薄井「花子?」
華「わたし、淳くんと……別れてきたんです…」
―――何言ってんだろう…。わたし
薄井「そうか…」
華「でも――これでよかったのかわからなくて…。まだ好きなのに……大好きなのにっ…!」
薄井「………」
――――ぽん
(華の頭に手を置く薄井)
薄井「泣きたい時は我慢するな。思いきり泣けばいいさ」
華「――――っ…」
薄井「……」
泣きじゃくる彼女を、僕は抱きしめて慰めるべきなのだろうか…?
そんなことを少し考えたが、僕には出来なかった。
『大丈夫、大丈夫』
花子の頭を撫でながら、僕は心の中で何度も唱えた。
〜涙の行く先〜 完。