Cheese126〜さよなら〜
鳴り止まない拍手と歓声の中、わたしの好きな人はステージの上で輝いていた。
―――そう、誰よりも。
「ピンレモ最高ー!!」
「いつか絶対デビューしろよーー!!」
(ステージの幕が完全に降りて、照明が消える)
あ〜あ、終わっちゃったんだ…
もっと見ていたかったな…
貴方の傍でずっと…
玲「はーなっ!最高だったね〜!池本の演奏…」
華「―――」
玲「華?どうしたの?なんで泣いてるの…?」
華「ううん、なんでもないよ。なんかすっごい感動しちゃって…。堤之原くんも鳴海くんも淳くんもみんなかっこよかった」
玲「それで泣いてたわけ?まったくもー!泣き虫ねぇ!」
華「わたし、淳くんに会わなくちゃ…」
玲「あ、そっか!早速演奏よかったよ〜って言いに行くのね?」
華「ううん、ありがとうって…言いに行く」
玲「―――え?」
―――その頃、体育館裏の一室では…
圭「キャー!!ですよ?キャーって…イコール俺達ってイケテるメンズってことっスか!?」
譲「喜んでるとこ悪いけど、お前への声援じゃねぇぜ?」
圭「じゃあ誰だよ?」
譲「俺だ」
圭「う〜わ。淳ちゃん、今の発言聞きました?」
淳「ごめん、ちょっと出るな。俺、行かなきゃいけないところがあるから」
圭「へ?どこに…」
譲「彼女んとこ?」
淳「…うん」
圭「そっか!うん。いってらっしゃい」
淳「いってきます」
―――ガチャ
(ドアを開け、部屋を出る淳)
譲「……」
圭「男二人、むさい空間になっちゃったね」
譲「淳がいたらもっとむさいだろーが」
圭「おぉう!?それもソーダ村(?)」
譲(また…あの女か…)
圭「おぃぃ〜!人がせっかくボケたんだから、ツッコんでよ」
譲「淳とあの女って、似合わないよな」
圭「……は?」
――――体育館に繋がる通路にて。
淳(華ちゃん…どこだ?今、どこに――)
そういえば、前にも同じことがあったな…
君を追い掛けて、ただがむしゃらに走ってた。
君のために作った曲を届けたくて、君に会いたくて―――
淳(そうだ、携帯!メールで…いや、電話の方が早いよな)
――――ピッ
(華の携帯に電話を掛ける淳)
〜〜〜♪
(すぐ側で着信音が響く)
淳(!この曲……俺が華ちゃんに貸したアルバムの中にある曲だ…)
「PINK LEMONボーカルの池本淳の初ステージは、最高でした」
淳「華ちゃん…?」
(少し前にある壁の後方を覗く淳)
華「えへへ…、みつかっちゃった」
淳「会いたかった」
華「わたしも淳くんに会いたかった。会って伝えたいことがあったから…」
淳「ありがとう」
華「え…?」
淳「俺がミスして演奏止めたのに、最高なんてさ」
華「最高だったよ。たった一度のミスでそんな俯いたりしちゃダメ!」
(淳の額を小突く華)
淳「はい」
華「―――もう、邪魔したりしないよ…」
淳「え…?」
華「淳くんはずっと、夢のために頑張ってたよね。淳くんの弾くギターの音が、世界で1番好きだったよ」
淳「華ちゃん…?」
華「夏祭りで見た花火、綺麗だったよね!学校が終わって、淳くんと一緒に帰る道が、いつまでも続けばいいなって思ってた。でもそれが……淳くんから大切な時間を奪った証拠なんだよ…」
淳「そんなこと言うなよ…。そんな風に思ったこと、俺は一度もない」
華「淳くんにはわたしより、堤之原くんと鳴海くんとの時間を大切にしてほしい」
淳「華ちゃんが傍にいたから今まで頑張れたんだ。圭と譲も大事だけど、俺は――」
華「わたしね、淳くんの邪魔をしたくない」
淳「邪魔なんかじゃない!」
華「ずっとずっと、淳くんのこと応援してる」
淳「俺の傍で…1番近くで応援してくれないのか…?」
華「別れよう…。淳くん」
淳「―――」
――もう、決めたんだ…
――夢を追い掛ける貴方の背中を、遠くから応援するって
―――でも
―――苦しいよ…
華「―――」
淳「後悔するなよ」
華「!」
淳「本当はなに考えてんだよってすげぇ怒鳴りたいけど……やめた。そんな顔してさぁ、ズルイんだよ。華ちゃんは」
華「ごめん…」
淳「俺のこと…好きだった?」
(華の頬に触れる淳)
華「好きだよ。今も変わらない…」
淳「俺も大好きだ」
―――――ギュッ
(華を抱きしめる淳)
淳「何年先になるかわからないけど、いつか絶対デビューしてみせる。約束する」
華「うん…」
淳「だからずっと、応援していてほしい。それだけで十分だよ…」
華「………」
(淳から離れる華)
駄目だ…。今、淳くんの顔をみたら、わたし――――
華「バイバイ。淳くん」
(走り出す華)
淳「華ちゃん!」
振り返っちゃ駄目だ!前だけを見るんだ!
淳「―――華!」
夢を叶えてね。淳
―――大好きだよ―――
―――体育館裏の一室にて。
―――バタンッ
(ドアを開け、中に入る淳)
圭「おかえりー♪淳ちゃ…」
淳「文化祭って何時までだっけ?…俺、先に帰るから」
(鞄を持って部屋を出ようとする淳)
圭「待てよ!なんかあったの!?」
(淳の腕を掴む圭)
淳「離せよ!一人にしてくれ」
譲「…彼女と何かあったとか?それとも、もう別れてきたか?」
淳「!」
圭「なんだよ、その言い方…。お前、何か知ってんのかよ!?」
譲「俺はただあの女に淳の邪魔すんなって言っただけだぜ?」
圭「!?ふざけんなッ!!」
(譲の胸倉を掴む圭)
淳「やめろ、圭」
圭「だって…!!」
淳「いいんだ」
圭「―――…」
譲「!」
―――この時見た淳の眼差しを、俺は一生忘れない―――
〜さよなら〜 完。