Cheese119〜冷たい瞳〜
突然、わたしの前に現れた隣のクラスの転校生。
文化祭の準備で忙しい放課後の出来事だった…。
譲「立川華さん…だよね?少し話しがあるんだけど、今いい?」
華「―――」
譲「あ、俺のこと知ってる?」
華「……知ってます。淳くんと同じバンドの人ですよね?」
譲「そう。俺、鳴海譲。君のことは圭から聞いてさ。突然話し掛けてごめんね。ちょっとでいいから時間くれない?できれば屋上まで来てくれると助かんだけど」
華「………はい」
その時、
なぜだかこの人から
冷たい視線を感じた……
―――その頃、1年C組では……
圭「BGMは俺の華麗なるベースプレイを録音したカセットを流すってのはどう!?」
クラス男子「お、いいねいいねぇ!つーかお前、少しは上手くなったのか?前に弾いたときは散々だったよな?」
圭「まぁ、そこは聞いて驚けよ?ポチッとな♪」
(録音したテープを再生する圭)
――――♪
――――――♪
――――――――♪
(教室中に地味な低音が鳴り響く)
淳「気分が暗くなるからやめろ?!」
圭「何だよ!これがベースの醍醐味だろ!?大体、ギターがキンキンうるさいから、俺のベース掻き消されて目立たなくなんだよッッ!」
淳「だったら、掻き消されないような音をお前が出せばいいだろ?自分が弾けないのを俺のせいにすんな」
圭「なんだよ…。ちょっと上手いからって調子に乗んなよ!!」
淳「調子に乗ってんのはお前だろうが!?何がBGMだよ?人に聞かせるほど、お前のベースは上手くねぇんだよ!!」
圭「なんだってぇ!?」
(淳の肩につかみ掛かる圭)
淳「なんだよ!?」
(圭の頬をつまむ淳)
玲「……さっきから見てると、池本の言ってることが全部正しいと思うのはあたしだけ?…ってゆーか、早く止めた方がよくない?」
龍「ほっとけよ。言いたいこと言い合えんだから、仲いい証拠だろ?…なんか知んねぇけど、アイツらデビュー出来そうな気がすんだよな」
玲「…マジ?今のうちにサインでも貰っとこっかな〜」
龍「ま。アイツらの努力次第なんじゃね?」
玲「あんたは…努力しないの?」
龍「なにを?」
玲「またサッカー始める努力…?」
龍「それ、努力って言わねーし」
(イヤホンを耳に付ける龍)
玲「……あんた、そうやってまた逃げるの…?」
龍「………」
玲「本当は聞こえてるくせに…」
雅「ねーねー!伊藤さ〜ん」
玲「なによ?突然」
雅「華ちゃん見掛けなかった〜?トイレに行ったっきり、戻って来ないんだよね」
龍「そりゃ間違いなくう○こだな」
……………ドゴッッ
(龍に向かって回し蹴りを直撃させる玲)
玲「華なら見掛けてないわよ〜?あ。もしかして部活にでも顔出してるんじゃない?」
雅「鈴木くん、死んでんですけど…?」
玲「やぁねぇ!佐藤さんったら!目の錯覚なんじゃない?」
龍「――――」
(俯せたまま、ぴくりとも動かない龍)
雅(絶対に死んでる…)
玲(そういえば、金髪先輩が部活に来いって言ってたこと、華に伝え忘れてたな。…ま、いっか!)
――その頃、屋上では…
譲「ぅんわ、すっげー風。大丈夫?」
華「大丈夫です。…話しってなんですか?」
譲「ごみ」
華「……ご…み…?」
譲「髪にごみついてるよ。…ほら」
(華の髪についた紙くずを取る譲)
華「あ、ありがとうございます」
譲「…淳の夢って知ってる?」
華「バンドを組んでデビューすること…ですよね。たくさんの人に音楽を伝えたいって言ってました」
譲「…じゃあ、何で邪魔すんの?」
華「……え?」
譲「淳の作詞が進まないのも、曲が出来ないのも全部あんたのせいだろ?」
華「わたし、そんなつもりは……」
譲「淳の夢を応援したいなら、もう開放してやってよ?このままじゃ、あいつが壊れる」
華「――――」
………壊れる?
わたしが淳くんの傍で夢を応援してはいけないの………?
譲「話はそれだけ。俺が今言ったこと、よく考えてみてよ。そんじゃ」
(屋上を出る譲)
華「―――」
わたしはただ、
淳くんが好きなだけだよ………
邪魔なんて……してないよ……
華「………うっ…」
(泣き出す華)
最後まであの人は、
わたしを冷たい目で見ていた。
〜冷たい瞳〜 完。