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3人のヒロインとシェアハウス生活、告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第03話-06】何度負けても、あなたを好きでいた ― 千紗が選んだ愛のかたち

【Scene16:母たちの約束】


ひとしきり泣いたあと、ようやく心を落ち着けた私は、背筋を伸ばして口を開いた。


「沙織お母様、美優お母様」


「ふふ、もう千紗ちゃんが小泉家に嫁入りしてるみたいね」


沙織さん、私、ちょくちょくお母様呼びしてますよね。

でも、そう言われるとちょっと照れる。


「初めて会ったあの日の約束、ようやく果たせます」


……そんな話、聞いたことないんですけれども。

でも、心の中でツッコミを入れたら、少しだけ気が楽になった。


私はそっと手を膝に置き、深く頭を下げた。


「折り入って、お願いがあります」


二人が同時に「なにかしら?」と微笑む。


私は、晴道を“もう一度前を向かせるための作戦”を説明した。

彼が今も過去の後悔に縛られていて、自分の気持ちを言葉にできずにいること。

でも、その中で私たちができること――それは、彼のために心から楽しい時間を用意してあげること。

そして、クリスマスイブの日、彼の心に少しでも光が差すような一日にすること。


「そのためには、お二人のお力を貸してください」


「なーんだ、そんなこと? 全然問題ないわよ。沙織お母様に任せて!」


「そんなことなら、腕によりをかけるわ」


沙織さんと美優お母様が顔を見合わせて、力強く頷く。


「沙織お母様、美優お母様――お願い致します」


頭を下げる私に、ふたりの母は優しく微笑んだ。


さて、明日から忙しくなる。

時間が足りなくなってくる。



嵐のような日々が過ぎて、クリスマスイブ当日になった。


「晴道迎えに来たよ!」


今日の私は当然ばっちり決めてます。

淡いベージュのニットワンピに、白のロングコート。ふんわり巻いたカールヘアに小さな赤いベレー帽をちょこんと乗せて、ファーマフラーをふわっと首に巻いてる。

ちょっと大人っぽく、それでいて可愛らしく――冬の千紗ちゃん、ここにありって感じです。


はっきり言って、千紗ちゃん最高なのです。


「おーぅ、母さん行って来るわ」


せっかく最高に可愛い女の子とクリスマスイブデートできるっていうのに……テンションが低い晴道。

でも玄関に立ってるその姿を見た瞬間、私は言葉を失いかけた。


白いニットにグレーのチェスターコート、ダークスキニーとレザーのシューズ。髪型は整えられてて、普段よりちょっとワックスで流してある。

ナチュラルだけど、清潔感と大人っぽさが溢れてて、控えめに言って――晴道、最高にイケメンです。


これと今日一日歩くって、私の理性持ちますか?

脳内の理性担当千紗ちゃん、鼻血出しすぎて貧血で倒れてますけど?


玄関のドアが閉まる。私を一目見た晴道が、ぽつりと呟く。


「今日の千紗、すごく、すごく可愛い……俺、そういうのす――」


そのとき、一瞬だけ、苦しそうな顔になった。

だから、私はつま先立ちして、そっと唇を重ねた。


「大丈夫、ちゃんと伝わってるよ」


脳内の理性担当千紗ちゃん、既に1リットル鼻血放出中。

今日一日、持つ気がしません。


私は甘えん坊、ぶりっ子、ロリ巨乳、絶世美少女・千紗ちゃんモードに切り替えて、思いっきり甘えた声で言った。


「今日はね、東京スカイツリータウンに行くのよ!」


駅に向かいながら並んで歩く。プラネタリウムの時間指定チケットも、展望台のチケットも用意済み。空いた時間には水族館も予定に入ってる。


電車に乗ると、やっぱり周囲の視線を感じる。

これだけのイケメンと美少女が腕を組んで立っていれば、目立たないほうが難しい。

……正確には、私は胸を彼の腕に押し当ててるんだけど。


赤くなった顔で視線を逸らす晴道が、そわそわしながら聞いてくる。


「千紗、今日のスケジュールはどうなってるんだ?」


私は彼を見上げて、ウインクひとつ。


「着いたらね、まずは少しだけお散歩してからプラネタリウム! ロマンチックな雰囲気でテンション上げるのが大事でしょ?」


「なるほど…?」


「そのあとはショップ巡りしてから、気分でランチ。15時半からは展望台に上がって、夜景の下でロマンチックな時間。で、お家に帰ってディナーよ♪」


「……こういうのって、本当は男の俺がエスコートしなきゃいけないんじゃ……」


「いーの、千紗ちゃんに! お・ま・か・せ・ですっ!」


完璧なタイミングで首をかしげて、もう一度ウインク。

それがド直球に刺さったみたいで、晴道は真っ赤になって顔を背けた。


――可愛い。



最寄駅に着いて、フロアマップを確認していたときだった。


「あの? 写真撮っていいですか?」

「モデルさんですか? 芸能人の方?」


中学3年生くらいかな? 双子コーデの女の子2人組だった。


私はちょっとだけ大人モードで微笑んで言った。


「違うわ。ただの高校生よ。……写真? そうね、撮った写真を私にも送ってくれるなら、いいわよ」


人通りが少なくて雰囲気の良い場所に移動して、簡単な撮影会が始まる。


「すごい……素敵です! 次はこっち向いてください! 今度は見つめ合って!」


……この子、絶対慣れてる。カメラもプロ仕様の大きなやつだし


撮れた写真はびっくりするほど素敵で、送ってもらったデータもバッチリ。


「すっごーい、ありがとぅ〜! 宝物にするよぉ〜♡」


ぶりっ子モード全開にすると、2人の目がまん丸に……いや、ハートになってた。


「お姉さん、どうすればそんなに可愛くなれるんですか?」


最初に声をかけてきた子が聞いてきた。あれ、もう一人の子はまだ一言も喋ってないかも。


私は“お姉さんモード”できっぱり言った。


「なれないわ」


「えっ……やっぱり私なんか……」


「“どうすればなれますか?”って受け身だったり、“やっぱり私なんか”なんて言ってるうちは、可愛くなれないのよ」


「……!!」


「可愛くなりたいなら、“何をしてますか?”とか、“どんな努力してますか?”って聞きなさい」


「……教えてください!」


「まず努力しなさい。お化粧とかコーディネートだけじゃない。勉強も運動も、全部努力。その自信があなたを可愛くするのよ」


「はい!」


「人間関係も大事にして。常に、周りからどう見られているかを意識して」


「可愛いっていうのはね、自分がなるものじゃない。周りの人がそう思ってくれるかどうかなの」


「!!!!!」


最後まで話し終えたところで、もう一人の子がようやく口を開いた。


「知抄お姉ちゃん、今の全部メモしてるから」


「ありがとう、理沙」


え、双子だったの?

……って、ちょっと待って。


「え、あなたも“ちさ”なの? 私も“千紗”よ!」


「そうなんですか! 私は“知性”の“ち”に、糸偏に“少ない”で“紗”。妹は“理性”の“り”に、同じ“紗”です」


「私は“数字の千”に“紗”……」


奇妙な共通点に笑い合って別れたあと、私は晴道の方に振り向いた。


「お待たせ――」


「やっぱり千紗は、面倒見がよくて、誰にも優しくて……俺が、大好きな千紗だ」


えっ。


い、今……大好きって……言った……?


でも晴道の表情は、どこまでも穏やかで、嘘のない顔だった。

それは、誰かに向けて言おうとした言葉じゃない。自然に、心の奥からこぼれ出た――


本当の、本音。


脳内の理性担当千紗ちゃんが鼻血の勢いで宇宙まで飛んでった。


私は、もう何も堪えられず、晴道に飛びついてキスをした。

挨拶のキスじゃない。心をぶつけ合う、本物のキス。


やっと息をついた晴道が、ぽつり。


「千紗……後ろ、二人が見てるって」


振り返ると――


そこにはカメラを構えて連写中の知抄ちゃんと、冷静にスマホで動画を撮っている理沙ちゃん。


「……あ、あんたたち〜っ!!」


「ご、ごめんなさ〜い!!」


思いっきりぶりっ子モードで言ってやった。


「そのしゃしんとぉ〜、どぉがぁ〜、わたしにもおくってぇ〜?」


結局、高村知抄ちゃん/理沙ちゃんとはLINEを交換することに。


これ……もう、“千紗・知抄・理沙”の3姉妹でよくない?



【Scene17:通じ合うふたり、光のドームの下で】


「知紗理沙、可愛かったなあ……」


プラネタリウムへ向かう道すがら、私はふと思い出す。


「あの双子の子たち、高村さんって苗字だったよね?」

晴道がそう言いながら、スマホを見ている。


「うん。LINEは交換したけど……また会うことあるかな?」


「そうだね、双子でも容姿は違ってたし。性格も違っていそう。きっと二卵性双生児なんだろうね」


そうそう最初に声をかけられた時は、お友達が双子コーデしてるんだと思ったのに、本当に双子でびっくりした。


ふと時計を見て、ハッとする。


「やばっ、ごめん! 時間もうあんまりない! プラネタリウム行こ!」


「うん、行こうか」


晴道が、すっと腕を出してくれる。

私はそれを見逃さずに、当然飛びつく。


胸、しっかり押し付けます。ロリ巨乳の名は伊達じゃない。


「千紗、ちょっと……あんまりひっつくと歩きにくいよ……」


ふふ、晴道、顔赤い。かわいい。


(優香がこの光景見たら、きっと「また胸押しつけて!」ってムキになるだろうなぁ……)


そんなことを思いつつ、晴道のペースに合わせて歩く。

途中のエスカレーターも、お店の並びも、晴道がスムーズに誘導してくれる。


「……これ、きっと知紗ちゃんと話してる間に道とか全部調べてたな」


出来た男。ほんとに出来た彼氏。

……付き合ってくれとも、告白されたこともないけど、彼氏だと思ってる。思わせてくれてる。



プラネタリウムに到着すると、まずは座席確保。


「このレバーでリクライニングできるんだよね……?」


ガタッ。


「きゃっ!?」


思ったより勢いよく倒れて、ちょっと体勢崩した。


「大丈夫か? リクライニングは上映始まってからだぞ」


そう言いながら、晴道が背もたれに手を置いて、顔を近づけてくる。


その姿勢が……まるでキスするみたいに見えて――


私は、もう我慢できなくて、自分から晴道の頭を引き寄せて、唇を重ねた。


……やっちゃった。


脳内の理性で止める役の千紗ちゃんがいたはずなんだけど、今ごろ宇宙の彼方へ飛んでいってる。


気づけば、周囲で「きゃ〜っ」とか「わぁ……」とか、いろんな声が上がってるけど、気にしない。

だって、私たちの世界では、いま、ふたりだけなんだから。



上映が終わって外に出ると、少し早めだけど昼食にすることにした。


夜はチキンとかオードブルだし、今のうちにしっかり和食でバランスとらなきゃ。


向かったのは人気の牛タン屋さん。


「これ……めっちゃ柔らかい! けど噛みごたえあってジューシー!」


「うまいな、これ!」


晴道も気に入ったみたいで、私は内心ガッツポーズ。


「なぁ、ここくらい俺に出させてくれよ」


「だーめ! 今回のクリスマスデートは、千紗ちゃんプロデュース。晴道はお客様なのっ」


実は――


私の財布、かなり潤ってます。


沙織お母様には、毎日の夕食のレシートをちゃんと提出してるんだけど、それに対して返ってくるお金が、どう考えても“材料費の倍以上”。


「そんなに貰えません」って何度言っても、沙織お母様は笑ってこう言う。


「優れたスキル、優れたサービスにはそれに相応しい対価を支払うべきなの」


「温めなおしなのに、下手なレストランよりずっと美味しい」


「私と洋介さんが帰宅時間ずれるのもわかって、ちゃんとラップ分けてる」


「汁物も煮詰まらないように先に取り分けて、小分けにしてある」


「メモも毎回つけてる。最高よ、千紗ちゃん」


そう言って、家事という“無償愛”に、ちゃんとお金という“対価”を乗せてくれる。


さらに、今日のプラネタリウムも展望台も、晴道の分は沙織お母様が事前に支払ってくれていた。


「私たちがコンサートとホテルで優雅に過ごすのに、息子に何も残さないのは変でしょ?」


……最強すぎる。


私の分は、美優お母様が出してくれた。


私は今日、せいぜいこの昼食代と、あとで渡すプレゼント代くらいしか出してない。


でも、満たされてる。全部が満ちてる。



「すごく美味しかったね!」


「うん。でも……たぶん千紗が一緒にいてくれて、笑っててくれるから、余計美味しいんだと思う」


……ずるい。


(……キスしたくなっちゃうじゃん)


「いいよ」


「……人の思考読むな!」


「いや、顔に出てるだけだけど」


「そんな口は、ふさいでやるっ」


再び、キス。


今度はもう、周囲の目なんて最初から存在してなかった。



そのあとは、ウィンドウショッピング。


目的もなく、特別な買い物もない。

けど、それがいい。


一緒に並んで歩いて、時々笑い合って――


「こんな時間が一番幸せだな」


「……通じ合ってる。こんなの、もう夫婦じゃん」


「……俺も、そう思う」


今度は、晴道の方からキスしてきた。


その一瞬だけでも、私は世界一の幸せを手に入れた気分だった。


そして、手を繋いだまま、次の目的地――展望台へ向かう。


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