【第03話-04】何度負けても、あなたを好きでいた ― 千紗が選んだ愛のかたち
※本話は千紗視点で過去を振り返る、関係性の転換点となるパートです。
【Scene11:声をなくした想い、キスに託して】
晴道と会う時間が続いた。
最初のうちは、私が一方的に話すだけだった。ゲームのこと、学校のこと、優香のこと……話題を変えながら、少しでも空気がやわらぐようにと、気を遣っていた。
けれど、そんな逢瀬を重ねるうちに、少しずつ、彼のほうからぽつりぽつりと話し始めるようになった。
「去年……優香にキスして、泣かせたんだ」
そう言ったのは、夕暮れの部屋で、一緒にコントローラーを握っていたときだった。
「泣かせてしまった直後に、俺……千紗に告白しただろ? あのとき、なんかもう、どうしていいか分かんなくて……」
それは、彼の心にずっとこびりついていた“後悔”の一つだった。
「子供の頃、優香が手作りしてくれたマフラー……無邪気に、千紗に自慢しちゃった」
「バレンタインのときも……千紗と優香、それぞれからチョコもらっただろ? 俺、優香のばっかり褒めてたんだって」
「なのに、そのあと……千紗と、キスだけの関係、続けて……」
ひとつひとつの出来事が、バラバラな時系列で語られる。
でも、全ての終わりには、同じ結論があった。
――俺が、悪かったんだ。
「……違うよ。晴道は、悪くない。ほとんど私が原因なんだよ?」
いくら言っても、届かない。
彼の目は、どこか遠くを見ていた。
そして、話は今年の優香の誕生日のことへ。
「俺さ……あの頃、千紗とのキスを続けてたら、もう優香のことは諦めていいんじゃないかって、少し思い始めてた」
それは、私にとってどこか嬉しくて、でも恐ろしい告白だった。
「でも、その俺に、千紗が“優香とやり直して”って言っただろ? ……捨てられたって思った」
……それは、私の言葉だった。
でも、そんなふうに届いていたなんて思ってもみなかった。
「そっから、なんか……もう誰かを好きになっちゃいけないんじゃないかって、思うようになって。
好きになっても、それを言葉にしちゃいけないんじゃないかって……」
その思考は、もはや理屈なんかじゃなかった。
矛盾してて、辻褄なんて合っていない。
けれど、それでも、晴道の“心の叫び”だった。
そして、話は私の誕生日のことに移った。
「……千紗のくれた手紙、すごく嬉しかったんだ。本当に。
だって……だって、大す……大好きな千紗が、くれたんだよ?」
“だいすき”って、言うとき、晴道は苦しそうだった。
まるで、口にすること自体が罪みたいに。
「でも、俺が千紗の家に行って出た言葉は――」
『千紗、この手紙ってどういう意味なのかな?』
――あれは、天然でも、のんきでもなかった。
ただ、言葉にできなかった彼の、必死の問いかけだったんだ。
私は――私は、選ばれなかったんじゃない。
彼は、選ぼうとして、でも、選べなかった。
「それで……俺は、見捨てられたって思ったんだ……」
そのとき、私はすべてを理解した。
――晴道が、どうしてキスにあんなにもこだわっていたのか。
それは、言葉が言えない彼が、想いを伝える唯一の手段だったから。
そのとき、私は心の奥で、強く決意した。
――彼の心は、私が救う。
たとえ、すべてを失っても。
たとえ、また傷ついても。
私は、もう、目をそらさない。
彼の傷を、そのまま抱きしめる。
私のすべてを懸けて、彼の心を――取り戻す。
でもそんな決意と裏腹にその時の私は未だ何も出来ない子供だった
ただただ逢瀬を繰り返すだけ
そして晴道は絶対“好き”って言わない。
キスもするし、私のことも求めてくれるのに
――“好き”って言葉だけは、ずっと黙ったまま。
月日は流れ
やがて大学推薦入学の結果が出る
【Scene12:祝・合格!絶世美少女は止まらない】
「千紗ちゃん推薦入学おめでとう〜っ!!」
両手をぶんぶん振りながら自分で自分を祝福してみる。
教室の片隅、部活も帰宅部も入り混じるこの放課後の空間で、ひときわ元気な声が響いた。
「甘えん坊、ぶりっ子、ロリ巨乳、絶世美少女・千紗ちゃんに不可能は無いのだ!! パチパチパチパチ!!」
「……滑ってる」(菜摘)
「……痛い」(瑛美)
「…………」(莉子)
「な、なんでよぉ!? せっかくキャラ復活させたのに!」
「そりゃね……毎日通い妻やってたら、キャラ作る余裕なんてないでしょ」(瑛美)
「え……そ、それは……」
「ねえ、晴道君とは上手くいってるの?」(菜摘)
「千紗、料理ってできるの?」(莉子)
「えっえっえーー!? なんでなんで、なんで知ってるの!?」
「最近あちこちのスーパーで“幸せそうな顔のロリ巨乳美少女”が買い物してるって噂、広がってるわよ」(菜摘)
「目撃情報は広範囲。あなたのマンション近辺でも……」(瑛美)
「うちのマンションって、誰が……」
「優香に決まってるじゃない。他に誰がいるって言うのよ」(莉子)
「えっ……じゃ、じゃあ優香にもバレてる!?」
「バレてないと思ったの? 晴道の家って、優香の部屋の2つ隣でしょ?
逆に、どうして“バレない”と思えたのよ」(莉子)
「うっ……」
「それに、あなたが通い妻始める前は誰が夕飯作ってたと思う?」(莉子)
(……もしかして優香?)
「ぶっぶー。あの子、料理は壊滅的」
「……人の思考を読まないで……」
「あなた、表情に出しすぎ。あの子は凝り性だから、1品だけなら時間かけて作るのは得意だろうけど、
毎日の料理って、センスといかに“手を抜くか”が勝負でしょ。
あの子、そういうの、まったく無いのよ」
「……確かに、あの子、基本ドジっ子だし……」
「ちょくちょく晴道君の夕食作ってたのは、美沙さんよ」
優香のお母さまです、そりゃ突然作らなくても良いってなれば気付くよね
「――っ! で、で、優香は私のこと、なんて……?」
「『私が大学受かるまで、私の晴道の栄養管理よろしくね』だってさ」
「えっ」
「自分が家庭料理で勝てないって、ちゃんと分かってるのよ。
だから、あの子強く出れないの。
ちなみに優香が晴道君に作れたのって、玉子焼きくらいだそうよ」
「ふふ、ふむ……公認と……(ボソ)」
「……あなた、自分がどれだけ目立つ存在なのか、もうちょっと自覚持ちなさい」(瑛美)
「一度目撃されれば、数日噂されるっての」(菜摘)
(……だって……絶世美少女だから仕方ないし……}
「ロリ巨乳なところな」(菜摘)
「だから思考読むなって言ってるじゃんっ!」
そんなわちゃわちゃとした会話のなかで、私は心から笑っていた。
久しぶりに、“普通の高校生の空気”を、全身で吸い込めた気がした。
私の推薦合格祝いは、あのカラオケオールのメンバーで、
ちょっと騒がしくて、だけど本当に――楽しいひとときになったのだった。
【Scene13:通い妻は“親公認”!?千紗の台所物語】
楽しかった合格祝いパーティーの後、私はスーパーで買い物をして帰る。
あまり目立たないように、日替わりであちこちのスーパーを使っていたけど、もう近所のスーパーを使うことにした。
ちなみにパーティー解散のとき、
「不純異性行為はいかんよ」
なんて言われたけれど、大丈夫。私たちはもう18歳。不純異性行為は18歳未満に適用されるもの。対象外だ。
一旦家に帰って着替え、お母様に買ってきた材料を検分してもらう。
考えていたメニューにアドバイスもいただく。
今日は脂ののったブリがあったから、メインはブリの照り焼き。
大根の味噌汁に、冷蔵庫に余っている野菜で副菜をいくつか。
この数ヶ月、お母様には料理を徹底的に叩き込まれた。
推薦入学がほぼ決まっていた私だからこそ、できたこと。
ちなみに優香は、最近A判定が安定してきたらしい。
でも、受験まであと1ヶ月。気は抜けない時期だ。
材料と、小泉家に足りなそうな調味料を持って208号室へ。
私の家の真上だ。
2階に上がると、二つ手前の206号室が氷室家。
優香の部屋だ。
前を通るとき、ちょっとだけ緊張する。
……でも、今日は誰も帰っていなかった。
晴道も今日は、男友達に推薦合格祝いをしてもらうと言っていた。
本当に女の子はいないでしょうね。帰ったらしっかりチェックしなきゃ。
パーティーで遅くなったけれど、ご両親は21時くらいまで帰ってこないから、まだまだ時間はある。
合鍵を使って中に入る。
この合鍵は、沙織さんから預かったもの。
初めて晴道に会ったあの日、思わず「おかあさん」って呼んでしまった人。
あのときの予感、今は着々と現実になりつつある。
私は外堀から埋めていくタイプなのだ。
料理は四人分作る。
ご両親が帰ってきたら温めるだけで食べられるように。
もし私が作る日に急に夕食が不要になった場合は、沙織さんから直接連絡をもらえるようになっている。
食材費をいただくためのレシートを、いつもの所に置いて料理開始。
準備が整ったころ、晴道が帰ってきた。
「お帰りなさい、夕食出来てるよ。早く食べよう」
「ただいま……あ、今日ブリ? すげぇ、俺の大好物。ありがとう、千紗」
何気ない会話が、心に染みる。
ご飯を食べ終わり、食器の後片付けを一緒に並んで行う。
これって、完全に新婚さんだよ。
……いいの、優香。私たち、本当に“公認”になっちゃうよ?
片付けが終わると、もう20時を過ぎていた。
ご両親が帰ってくるまで、あまり時間はない。
「そろそろ帰るね」
そう言いながらエプロンを脱いでいると、後ろから抱きしめられた。
「いつもありがとう……」
そこで言葉が詰まる。
両腕が、だらんと下がってしまう。
わかってるよ。
ちゃんと、好意を伝えようとしてくれてるんだよね。
でも、今の晴道には、それができない。
振り向いて、今度は私が抱きしめてあげて、私からキスをする。
そのキスが、だんだん激しくなっていって……
晴道の手が、私の胸をまさぐりだした、そのとき。
ピンポーン。
「あら、千紗ちゃん、まだいたの。いつも晴道のこと、ありがとうね」
沙織さんだった。
真っ赤な顔をしている私たちを見て、沙織さんは言う。
「あら、あらあらあら、お邪魔だったかしら? もう少し遅く帰ればよかったかしら?」
さらに赤くなる私たちに、さらに追い打ち。
「でも、もうちょっと遅かったら、真っ最中だったかもね」
「かっ母さん!!」
晴道が、流石に抗議の声を上げる。
――優香、いいの? 私たち、本当に“親公認”になっちゃうよ?
本作には
「大人向け要素を加筆した別バージョン」が存在します。
※感情描写重視で読みたい方は本作を、
より踏み込んだ描写を求める方はノクターン版をおすすめします。




