表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3人のヒロインとシェアハウス生活、告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

【第03話-02】何度負けても、あなたを好きでいた ― 千紗が選んだ愛のかたち

※本話は千紗視点で過去を振り返る、関係性の転換点となるパートです。

また本作には

「大人向け要素を加筆した別バージョン」が存在します。


※感情描写重視で読みたい方は本作を、

より踏み込んだ描写を求める方はノクターン版をおすすめします。

【Scene06:私、ロリ巨乳美少女ですから!】


高校2年の秋。


私は立派な、甘えん坊で、ぶりっ子で、“ロリ巨乳”な美少女キャラになっていた。

そう――“ロリ巨乳美少女”である。

中学3年あたりから、すくすく育ったのである。

身長は伸びなかったけれども……ロリキャラにはぴったりだからいいのだ。


たまに「千紗はアニメから飛び出してきたみたいだね」なんて言われる。

誉め言葉として受け取っておこう。


ああ、ありがとう、お母様。

千紗をこんな立派な体に産んでくれて……!


ちなみにそのお母様、現在は“巨乳美魔女”になっている。

とてもじゃないけど、あの年には見えない(詳しい年齢は言えません。怒られます)。

胸もあんなに大きくて、しかも垂れてない。

この前温泉で見てびっくりした。私の将来、安泰です!


こんな私だから、告白されることなんて日常茶飯事。

でも全部やんわりとお断り。私は晴道に一途なのだ。


お断りスキルもかなりのもので、後腐れなく、スマートに。

代わりに紹介した女の子とカップルになった例も、両手じゃ足りないくらい。


中学時代はカーストトップを突っ走っていたけれど、

高校では少し引いて、“甘えん坊の愛されキャラ”ポジに落ち着いている。


肝心の晴道への効果というと――バッチリ突

き刺さってます!


お兄ちゃん、ありがとう。


十分、女の子として意識させてると思う。

だって、自慢の胸を強調すると、顔を赤くしてチラチラ見てくるんだもの。


かわいいったらもう!


ちなみに晴道はというと、すっかりイケメンに育ちました。

当然モテまくりだけど、私と優香がしっかりガードしてます。


そしてその優香――

中学時代のおとなしさから、今やクールビューティへと進化。

私が“美少女”なら、優香は“美女”。

同じ高校生なのに“美女”やばいライバル。


でも、3人の関係は基本良好。


小5の「手作りプレゼント事件」(……うっ、頭が……)

中2の「バレンタイン失敗事件」を経て、

少しギクシャクした時期もあったけれど、今は仲良し。


今日も3人で一緒に帰る約束をしてるしね。


--と、そこに晴道発見!


「はーるーみーちー!」

私はすかさず駆け寄り、晴道の腕にしがみつく。

がっつり、自慢の胸を押し付けながら!


「うわっ、千紗、そんなくっつくなって」


「えー、晴道、私のこと嫌い?」

少しだけ悲しそうに見上げてみる。この身長差、ほんと便利。


「いや、そんなことないけど……あっ、当たってるんだよ」


「えー、なにが当たってるのかなぁ? 千紗、わっかんなーい」


「いや、だから、その……あの……!」


晴道の視線が、完全に私の胸にロックオン。

振り払おうとしないあたり、満更でもないのは確実である。


「ねぇ、当たってるんじゃなくて、当ててるの♡」


私は耳元でそうささやき、そっと息を吹きかける。


「ばっ、ばっ、ばかかぁ!!」


顔真っ赤にして飛び退く晴道。

あーもう、かわいい!


「もう、千紗ったら毎回晴道をからかって……」

クールビューティ優香、参戦。


「晴道もそろそろ慣れなさいよ。そんなのただの脂肪でしょ?」


「これが持つ者と、持たざる者の差というやつですよー♡」


「な、なによ、大きければいいってもんじゃないの!」


「ねぇ、はーるーみーちー? 晴道はどっちが好き? お・お・き・い・ほ・う?」


「そ、そりゃ……おおきいにこしたこと……」


ごにょごにょとつぶやく晴道を見て、ズーンと落ち込む優香。

ごめん優香、煽りすぎた。


「でもね、男の人にとっては大きさよりも感度らしいよ?」


さりげなくフォロー。

ちなみに後年、晴道に「優香の感度、最高だよ」って言わしめるのだけど――この時は、誰も知らない。



そんな青春を満喫していた秋の日。


またしても、事件が起こった。


きっかけは、お兄ちゃん。


とある展示場で開催されるゲームショーに行く予定だったのだけど、

遠距離恋愛中の彼女がその日に東京に来ることになって、デート優先。


「晴道くんと行っておいで」と、チケットを私にくれた。


――それは、運命のチケットだった。


私と晴道、二人でゲームショー。

しかも、最新作のアクション対戦ゲームが出るとか!


晴道、誘ったらあっさりOK。

これはもう、デートでしょ。デートですよね!?


私は精一杯可愛くして、晴道と一緒に出かけた。


とっても楽しかった。

思いっきり笑って、語って、はしゃいで。

“彼と二人だけ”って、こんなにも胸がときめくものなんだって、実感した。


そして――私はまた間違えた。


次の月曜日。

どうしても話したくなって、優香に言ってしまった。


「……あたし、晴道とデートしちゃったの」


「……デートって……幸せなのね」


私は、晴道と出かけたことが、どれだけ楽しくて、どれだけ嬉しかったかを夢中で話した。

でも、その間ずっと、優香が心ここにあらずだったことに気づいていなかった。


その数日後――


「晴道の誕生日、私、デートに誘ってもいいかな?」


そう優香に聞かれて、私は「楽しんできてね」と笑って答えた。


……その数日後、優香は報告してきた。


「観覧車の中で、晴道にキスされた」


でも、なぜだろう。


彼女のその顔から、“幸せ”が、まるで感じられなかったのは。


【Scene07:愛の伝道師、出動します!】


晴道の誕生日が過ぎて、数日。

あの日以来、優香と晴道の空気がちょっと……いや、かなりギクシャクしている。


仕方ない。この愛の伝道師・千紗さまが、ひと肌脱いであげよう。


私に“いいよって来た男の子”を、別の女の子と付き合わせたこと10数組。私の手腕、振るってあげるわよ!



まずは事情聴取。


優香を呼び出す。


「ねえ、なにがあったの?」

「……道春にキスされた」

(それはもう聞いた)


「良かったじゃない。告白されたの?」

……

「えっ、断っちゃったとか!?」


だったらギクシャクするのもわかる。ってことは私にもチャンスが……


「違っう! そんなことするはずないじゃない!」


ですよね〜。


「全部……全部千紗のせいなんだからねっ!」


優香はそう言い捨てて走り去ってしまった。


な、なにそれ……全然会話にならなかったし。

私のせいって、なに!?



次、晴道を呼び出す。


「ねぇ、なにがあったの?」

「優香にキスした」

(はい、2回目です)

「で、告白は?」


「……聞かなかったのか」


「ねぇ、優香はすごく苦しんでるよ。なにがあったか教えて。幼なじみでしょ?」

「……千紗はやっぱ優しいな」


その笑顔に、どきっとしてしまう。

「なにがあったの?」

「優香にキスをした」

(またかい)


「告白しようとした。でも……拒否されたんだ」

「拒否って……?」


「キスした後、優香が全然目を合わせてくれなくて。すごく暗い顔してた。嫌だったのかなって思った」

「……」

「そしたら、告白する勇気がなくなって」


「意気地なし」

「え?」

「なんでもない」


「……それに、千紗の顔が浮かんだ」

「へっ?」


急な自分の名前に、変な声出ちゃった。


「優香に告白して、OKもらえたら……もう千紗とは今まで通り会えないんじゃないかって。

逆に断られたら、優香にも千紗にも会えないんじゃないかって思ったら、なにもできなくなった」


「優香にOKしてもらえたら、別に私に会わなくてもいいじゃない」

「嫌だ!」


びっくりするほど大きな声。


「……俺は千紗のことも、好きなんだ」


「……」


「小学生の頃は……正直、男友達みたいな感覚だった」


「……」


「でも中学3年くらいからかな。急に可愛くなっていって……。

それに、すごく優しくなったよな。誰にでも気を配れて、皆に平等に接してて。

そういうところ、全部……好きになったんだ」


「……じゃあ、初恋は……?」

「……優香だよ。初めて好きになったのは、優香だ」


ちゃんと迷いなく言った。

でも、私は不思議と……傷つかなかった。


「じゃあ……私のどんなとこが好きなの?」


「可愛いし」

(当然!)

「……胸も大きいし」

(おっぱいって言いかけた!?)

「優しいし、気遣いできるし、常に周りのことを考えてるし。

誰にでも隔てなく接するし、人のために努力できるし……」


「……そんな千紗が、好きなんだ」


お兄ちゃん、ありがとう。

全部キャラ作りの努力の賜物です。


「キャラ作りのためになんて言わなくていいんだよ」


えっ!? 心の声、聞こえた!?


「それができるってとこが、千紗の魅力なんだ」


もう、だめ。

私、もう……


「ほら、こっち向いて」


私はつま先立ちして、晴道の首に腕を回した。

そして――キス。


小学校2年生以来のキス。

あの時の私に教えてあげたい。

キスって、やっぱり幸せの魔法だったよ。


私は晴道の胸に顔を埋める。

恥ずかしくて、顔が真っ赤で、もう見せられない。


「……ね、女の子は大好きな人にキスしたら、恥ずかしくてこうなっちゃうの。

優香も、きっと、こうだったんじゃない?」


「……いや、優香はもっとこう……。……ううん、俺が意気地なしだったんだ」


その時、晴道が私の肩をグッと掴んだ。


「……責任、とってくれよな」


えっ……えっ!?


次の瞬間、晴道が私にキスをした。

さっきみたいな子どもっぽいキスじゃない。


大人の、深い、キスだった。

晴道の舌が、私の中を撫でる。

頭がぼーっとして、足がガクガクして、体の奥がギュッとなる。

……濡れちゃう。


「お前みたいな可愛い子にキスなんかされたら……みんなこうなっちまうんだよ。

特に、俺は……お前のことが、好きなんだから」


ああ、もう。

さすがの千紗さまでも、ここから優香と晴道をくっつけようだなんて、そんな胆力ないよ。


その後、何度か3人で遊びに出掛けた。

わだかまりは少しずつ解けていって、

優香と晴道は、完全じゃないけど、また普通に話せるようになった。


――これが、あれから半年が過ぎて、高校3年生になった、私たちの“いま”のかたち。


私と優香との関係も、今は落ち着いている。

二人だけで出かけたり、くだらない話で盛り上がったりもできるようになった。

もちろん、晴道を交えても自然に振る舞える。

ちゃんと「3人」でいられている……ように見える。


けれども、私と晴道の関係は、決して“元通り”なんかじゃない。

以前みたいに堂々とべたべたすることはできなくなった。

だって、私はもう知ってしまったのだから――晴道の、あの時の気持ちを。


でも、変に距離を取っていると、周りに勘ぐられてしまう。

だから、外面は以前と変わらないように演じている。

腕を組むときに、ちょっと身体の角度を工夫してる程度。

うん、きっと気づかれていない……はず。


でも、違うの。

変わったのは、そこじゃない。


実は、私と晴道――二人きりになると、今も……いや、以前よりももっと、キスをするようになった。

あの告白の夜以来、晴道は変わった。

何かが吹っ切れたように、私を見つめる目が真っ直ぐになった。


初めのうちは、私も優香のことを思って軽く拒んだりもした。

でも晴道って、拒まれると急にしょんぼりしてしまうの。

まるで「待て」と言われた子犬みたいに。

だから、つい……ね。

仕方ないなぁって、心の中で呟きながら、許してしまう。


そうして一度キスを許してしまうと、もう歯止めが利かなくなる。

晴道のキスは、不器用だけど真剣で、なんだかどんどん上手になってる気がする。

触れ合うだけで胸の奥が熱くなる。

……濡れちゃう 正直、困る。


場所は、だいたい晴道の家だった。

共働きのご両親は帰りが遅いことが多くて、夕方から夜にかけて、彼の家にはよく“余白の時間”があった。

とはいえ、晴道の家は優香の家の、ほんの二軒隣。

幼なじみとはいえ、頻繁に出入りしていたら変に思われるのも当然だ。


だから、私は理由を作った。

「兄からお下がりでもらったゲーム機があるから、それを設置させてもらった」という名目。

嘘じゃない。ちゃんと、リビングに置かせてもらってるし、実際にゲームもしてる。

ただ……二人きりで遊んでいると、たまにコントローラーを置いて、別の“遊び”が始まりそうになることもある。


たとえば、キス。


最近の晴道は、私とキスしていると、ちょっとだけ距離を詰めたがるようになった。

その気持ちも、なんとなくわかる。

ぶりっ子キャラで甘えん坊風味、しかも少し目立ちがちな私だ。

おまけに、ちょっとだけ……いや、だいぶ“育って”きたし。

お母様を見ていると、将来性はまだあるかもって、内心ちょっと焦ったりもする。


でも、そこは線引きしてる。


キスまで――そこまでは許すけど、それ以上は、だめ。

だって、それ以上のことをされたら……私は自分を止められないかもしれないから。


そういうのは、ちゃんと優香に告白して、許されたら、でしょ?

私は“その先”には行かない。行けない。


晴道も、そこはちゃんと分かってる。

ふとした仕草で触れそうになることがあっても、私が止めたら、それ以上は踏み込んでこない。

でも――キスだけは、引かないんだよね。絶対に。


こんなこと、続けてちゃ駄目だ。

私が“真ん中”にいたら、いつまで経っても、前に進まない。

優香と晴道、ふたりの未来のために、そろそろ背中を押す時だ。


──春先。

優香の誕生日。私はそれを“きっかけ”にしようと考えた。

当日は無理でも、ご両親が不在になる土曜の夜。

その日を狙って、さりげなく誕生日のお祝いパーティーを企画した。

私がうまく“ドタキャン”すれば、自然とふたりきりになるはずだった。

でも……それを晴道に提案したら、困ったような顔で、こんなことを言った。


「千紗も一緒に来てほしい」


その表情が、もう……泣きそうなくらい、真剣で。

結局、私が抜ける計画は失敗。

“据え膳食わぬは男の恥”とか言うけど、あの子には当てはまらないらしい。

いや、むしろ……そういうところが、晴道なんだと思う。


──そして、夏。

私の誕生日が近づいてきた。

今度こそ、私は決めた。

勝負に出る。


手紙を書いた。短くて、破天荒で、たぶんかなり変だった。

「晴道は私のこと好きなんでしょ。だったら私の誕生日には、私のこと大事にしなさい」

……これ、冷静に読み返すと、わりと恥ずかしい。


でも、本気だった。

この手紙で、もし彼が“私”を選んでくれたら……もう、優香のことは諦めてもらう。

それくらいの覚悟で書いた。


誕生日の前日に、そっと渡した。

反応はなかった。でも、当日――彼は、来た。


それも、私の家に。

お母様が家にいると知っていて、それでも来てくれた。


これは、覚悟ってことでしょ? 少なくとも、私はそう思った。


「千紗、この手紙ってどういう意味なのかな?」


よりによって、その手紙をそのまま持って来るとはね。

この天然ぶり、変わってないなぁ……

お母様に見つかる前に、なんとかしなきゃ!


私はリビングのソファで半分スペースを空けて、手で軽くトントン。

晴道は何も言わずに、そこに腰を下ろす。


「美優さんは?」

「寝室で片づけ中じゃない?」

そんな会話のあと、私は急に冗談めかして言った。


「千紗姫は、抱っこ所望じゃ」


そして、自分から彼の膝の上へ。


「おい……」

「抱きしめなさいって言ってるの」


晴道は、小さくため息をつきながらも、そっと私を抱きしめてくれた。

胸が、ぽかぽかして、切なくて……でも嬉しくて。

涙が、こぼれそうになる。


そのまま彼の肩に顔を埋めた。

見られたくなかった、この涙だけは。


心が落ち着いた頃、私は静かに言った。


「私の役目は、ここまで」


最後に、そっとキスをする。

いつものように深くもなく、情熱的でもない。

ただ一つの“区切り”としてのキス。


たとえお母様が見ていたとしても、もう構わなかった。


「さぁ、行って。優香のところに」


そして私は、晴道を送り出した。


ドアが閉まった後、まるで計ったように、背後から気配がした。


「……泣いてもいいのよ」


お母様だった。


何も言わずに私を抱きしめてくれて、私はその大きな胸の中で声を殺して泣いた。

「わたしね……選ばれなかったの」

涙が溢れて止まらなかった。


それでも、私は、自分の選択を後悔していなかった。

だって私は、誰よりも、晴道の心を救いたかったから。


翌朝、私は優香に“宣言”した。

「あたし、晴道にラブレターをあげてね……抱いてもらったの」


もちろん“抱いた”なんて事実はない。

でも、優香はその言葉にきっと勘違いすると思ってた。

だって、私の誕生日の翌日だったから。


「……そうなんだ、すごいね」

優香はそれだけ言って、何も訊かずに黙り込んだ。


そこから数週間――

優香の落ち込みは、目に見えて酷くなった。


誰が見ても元気がないとわかる状態だったのに、

本人は「大丈夫」と笑ってみせるだけだった。


新学期が始まり周囲の友達も最初は、

“とうとう、夏休みにあの三角関係に決着がついたんだ”って噂してた。

でも、すぐに様子が変だと気づいたらしい。


私と晴道がまったく話さなくなったこと。

教室でも廊下でも、目を合わせようとしないこと。

そのうち噂は混迷し、私はいろいろ聞かれたけれど、何も答えなかった。

ただ黙って、笑って、ごまかして。


本当に、これでよかったのかな――

そう思う時間が少しずつ増えていった。


そんなある日、9月末の晴道の誕生日まであと2週間という日。

優香がぽつりと私に言った。


「ねぇ……お願いがあるの。アリバイ、作ってくれない?」


その一言に、私はすべてを察した。

優香は、晴道と向き合う覚悟を決めたんだ。

今年の誕生日は土曜日――

きっと、全部をぶつけるつもりなのだろう。


私は頷いて、静かに言った。


「じゃあ、“千紗たちとカラオケでオールするから、今日は帰らない”って、ご両親にはそう言いなさい」


あとは、こっちの仕事だった。


私はすぐに、信頼できる女友達に連絡を入れた。

詳しい事情は何も話さない。

ただ「久しぶりに、カラオケでオールしない?」と日程を指定して。


優香の親友・早乙女莉子だけには、少しだけ理由を伝えた。

「……優香のために、お願い」

それだけ言えば十分だった。


莉子は、少しも迷わず「絶対に行く」とだけ答えてくれた。


私が声をかけたのは、岸本瑛美と佐伯菜摘。

明るくて話題豊富で、空気も読める子たちだ。

莉子と合わせて3人。

そこに私と優香を加えれば5人。

女の子だけでオールするには、これ以上ない説得力のある人数だった。


そして、決行当日。


私は優香に、最後の指示を出した。

「“カラオケルームの電波の入りが悪いから、もし電話が繋がらなかったら、千紗のスマホに掛けてみて”って言いなさい」

「それで、21時 にはスマホの電源を切るのよ」

「それ以前に連絡があったら、自分でうまく説明して」

「その内容、ちゃんと私に教えてね。口裏合わせるから」

「明日の朝は、ちゃんと待ち合わせて一緒に帰るのよ?」


優香は小さく頷いた。

表情は強張っていたけれど、その目だけは真っ直ぐだった。


ご両親は、きっと最近の優香の様子に気づいている。

だからこそ、確認の電話は入るだろう。

そこに備えて、完璧な“嘘”を用意しておく必要があった。


カラオケで夜を明かす――

それは、優香が晴道のもとへ行くための“アリバイ”だった。


その夜が、私たちがまだ“普通の女子高生”でいられる、最後の夜になる。

私には、そんな予感がしていた。


約束の夜、21時。

駅前のビルにあるカラオケ店の受付カウンターで、私は待ち合わせた3人と合流した。


「やっほー、久々!」「ほんと、カラオケとかいつぶり?」

岸本瑛美と佐伯菜摘は元々ノリが良くて、声をかけたら二つ返事で来てくれた。

莉子はいつも通りクールだったけど、私の目を見て、「今日だけは絶対に」って何度も言ってくれた。


受付でフリータイムをお願いして、ドリンクバーのカップを手に取りながら、私はふと思った。

こうして4人だけで集まって遊ぶのは、これが最後になるかもしれない。

この夜を優香の“未来”のために使うんだと思うと、胸の奥がすこしだけ痛んだ。


部屋に入ってすぐ、私は深くお辞儀した。


「今日は集まってくれてありがとう」

「いいってば〜!今日は思いっきり歌うぞー!」瑛美がテンションを上げてくれる。

「ねぇ、千紗、なんか企みあるでしょ?」菜摘がじっとこちらを見る。

「……お願いがあるの。今日、ここに優香もいたってことにしてほしいの」

そう言った瞬間、部屋の空気が少しだけ引き締まった。


「なるほど……ついに、ね?」菜摘が小さく頷いた。

「千紗なら、すぐに新しい彼氏のひとりやふたり……」

「なっ……」思わず睨む。

「ごめんごめん、冗談よ。でも千紗って、そーゆーとこ抜け目ないし」

「……抜け目なくないもん」


隣にいた莉子が、ふっとため息をついて、私の肩を抱き寄せた。

「大丈夫。任せて。私がついてるから」

その一言だけで、ぐらぐらしていた心が落ち着いた。やっぱり莉子は強い。


菜摘がリモコンを握って、勢いよく言った。

「じゃあ、歌うよ〜!朝まで行くよ〜!飲み物係は千紗ね!」

「ソフトドリンクだけだけどなー」と瑛美が笑う。

「そういうとこ、律儀で好きだよ」


みんな、何も聞いてこなかった。

どんな理由で、どんな事情でこの場を用意したかなんて、あえて触れずに。

それでも、部屋の中にはちゃんと「信頼」があった。


私はスマホをバッグに仕舞いながら、小さく呟く。

「優香、上手くやってね……晴道の心、受け止めてあげて」


──夜はゆっくりと更けていく。

懐かしのアイドル曲、最新のアニメソング、定番のバラード。

次々と歌が響き、笑い声と拍手が重なって、まるで時間が止まったようだった。


その間だけは、私たちは普通の女子高生でいられた。

誰も傷つけず、誰のことも諦めずに、ただ歌って、笑って。


きっと、こんな夜がいつまでも続くことはない。

でも、今だけは。


「次は〜……『恋するフォーチュンクッキー』いっちゃう?」

「いぇーい!!」


私も笑顔でマイクを持ち上げた。

“この夜が終わるとき、ひとつの物語が変わる”。

そう感じながら――。


カラオケで夜を明かした私たちは、眠そうな顔をしながら朝の駅前に集まった。

優香の母・美沙さんからは夜のあいだに二度、私のスマホに連絡が入った。

でも、なんとかごまかした。

「少しだけ離席してます」とか「今トイレ行ってて…」なんて言いながら、冷や汗かいて必死に。


アリバイは完璧。

あとは優香が、幸せそうな顔で帰ってきてくれれば、それでよかったのに。


でも、そうはならなかった。


待ち合わせの駅前に現れたのは、優香ひとり。

当然だ。

せっかく苦労してアリバイを作ったのに、早朝にふたり一緒にいるところを目撃されたら、全部が台無しになる。

だから私は、帰りは途中で別れてくるように伝えていた。


それでも、優香の顔はあまりにも暗かった。

私は恐る恐る声をかける。


「……うまく、いかなかったの?」


優香は、少しだけ笑って――でも、その笑顔はどこか寂しくて、痛々しかった。


「ううん。痛かったけど……しあわせだったよ」


「そっか……じゃあ、ちゃんと告白してくれたの?」


私は小さく期待を込めて尋ねる。

でも、優香はゆっくりと首を横に振った。


――えっ、また?


……何か晴道に言われたの? もしかして……私とのキスのこと、話しちゃった?


焦りが滲む。

あの一件が彼女の中で重く響いているのなら、私が仕組んだ“勘違い”が、何かを壊してしまったのかもしれない。


優香は、ぽつりとつぶやいた。


「……何も、言ってくれないの。ずっと。何も……」


そして、顔をあげて私を見る。

その目には、涙と、怒りと、哀しみが混じっていた。


「ねえ、千紗……なんでなの? なんで、先にしちゃったの?」


――あ、『抱いてもらったの』。


あれは、優香に思い切らせるための方便だった。

でも……もしかして、晴道は、あのあと優香に何も言ってくれなかったの?


私が今ここで「違うよ、本当はそんなことしてない」って言ったって、信じてもらえる保証なんてない。

だって私は、いつだって“そういう子”に見られてるから。


「それだけじゃないの」


優香の声が、震える。

それは抑えていた感情が、堰を切ったように溢れてくる瞬間だった。


「出会うのも、初めてキスも、初めての手作りプレゼントも、初めての手作りチョコも、初めてのデートも、初めてラブレターを渡すのも――」


そして、最後に言った。


「……初めて結ばれるのも。

なんで……なんで全部、千紗なの……!」


涙混じりの怒鳴り声だった。

叫ぶというより、心を吐き出すような――そんな、どうしようもない感情の爆発。


私は――また、間違えたんだ。


あの時、ほんの少し違う言葉を選んでいれば。

あの夜、優香がどんな顔で待っていたか、想像していたら。


でももう、戻れない。


私の中に、言い訳は山ほどあるけれど。

今はただ、優香の涙を見つめるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ