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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第06話-01】運命改竄(デスティニー・リライター)ー千晴・達也

第5話の選択を経て、物語はそのまま続いていく。


ただし視点は、少し広がる。

いま描かれている現在に至るまでに、どんな出会いがあり、

どんな決断が積み重なってきたのか。


あの発表会。

あの面談。

あの一本の電話。


当事者たちは、その瞬間を特別なものだとは思っていなかった。

だが振り返れば、それらは確かに“分岐点”だった。


誰かを操ろうとしたわけではない。

未来を奪おうとしたわけでもない。


それでも――

場の空気を読み、流れを変え、

知らぬ間に人の進路へ影響を及ぼしてしまう者がいる。


これは、選択の連鎖の物語。


そして、その中心に立っていた一人の存在が、

やがてこう呼ばれることになる。


運命改竄デスティニー・リライター”と。


【Scene01:3年前10月】



ある秋の日、高村不動産を経営する 高村 蘭 の元に、仕事の取引先であり、かつての同僚でもある氷室 剛志から電話が入った。


氷室は挨拶もそこそこに切り出す。

『今度の三連休の中日は空いているか?』


(珍しいな、飲みの誘いか?)

氷室はそういうタイプではない。


「ふむ、空けられるが……どうかしたか?」

探るように問うと、氷室は含みのある言い方をした。

『面白いもの──いや、お前の好みのものが見れる。ちょっと付き合わないか?』


生真面目な氷室がそう言うのだ。高村の胸に興味が灯る。

「判った。付き合おう」



当日、氷室に案内されて着いたのは、都内の式典会場だった。


«霞の宿、新館建設発表会»


氷室が説明する。

「俺が設計した建屋の建設発表会だ」


「それを自慢したかった訳じゃないだろう?」

「当然だ。俺がそんな人間に見えるか?」

「……いや、長い付き合いだからな。判ってる」

「じゃあ俺は発表側だから、じっくり見て行ってくれ。最前列を用意した」

受付を済ませ席に着く。

(一体、何を見せたいんだ……)



発表会が始まり、司会進行の少女が登壇した瞬間、高村は息を呑んだ。


(……高橋、と名乗ったな。宿の関係者か?)

年の頃は大学生か、社会人になりたて。

そして──あまりにも美しい。街ですれ違えば、十人中十人が振り返るだろう。


さらに心をざわつかせたのは、その面差しだった。

(……似ている。“美優”──俺の、かつての思い人に)



高村と美優の出会いは中学入学の春。

一年生で同じクラスになり、高村はすぐに恋に落ちた。初恋だった。


美優の魅力は際立つ美貌だけではない。

その聡明さ、会話の冴えに強く惹かれた。


彼女は高村を異性の親友として見ていたようだが、それで良かった。彼女の隣にいられるなら。


二人はいつも一緒だった。高校も同じ学校を選んだ。


高校に入ってすぐ、美優が三年生の先輩に恋をして一時疎遠になったが、先輩の卒業と共に元の距離に戻った。


そして高村は気付いた。

彼女には“場の空気を読み、自在に操る力”がある。

本気を出せば、その場を完全に掌握することすら可能だった。


高校二年のある日、高村はその力に名前をつけた。

完全律掌者かんぜんりつしょうしゃ・ドミニオン・コンダクター”

──厨二病のようだが、そういう年頃だった。



現在。

目の前の少女は、美優と同等の力を持っている──そう確信した瞬間、高村の背筋に電流が走る。


(確かに俺好みだ。……だが、なぜ氷室は分かった?)

美優のことは、結婚式で一度紹介した程度のはず。


高村は覚えていないが、酒に酔うと必ず美優の話をしていた。

“どんなに聡明で、どれほど魅力的だったか”──そして、あの長い二つ名すら口にして。

氷室はそのたびに苦笑し、黙って聞くしかなかったのだ。

大体、氷室と美優は結婚式で紹介された時は違ったが、今は同じマンションに住んでる。

その事にすら気付いてない高村が氷室は可笑しくて仕方なかった。



発表会の後、氷室が誘う。

「どうだ、お前の好みだったろ。紹介してやろうか?」

しかし高村は丁重に断った。入れ込みそうで怖かった。


氷室が言うには彼女は大学四年生。

自分の娘より九つほど年上だが、それでも親子ほどの年齢差だ。

それは恥ずかしいことだと思った。



だが、邂逅は思わぬ形で訪れる。

発表会の数日後、会社に届いた大学からの来年度入社希望リストに──

“高橋 千晴”の名があった。


間違いない。あの少女だ。


高村の胸が高鳴った。恋情ではない。経営者として、有望な人材を見つけた興奮だった。



高村の会社は、大学の選抜を通さず、直接エントリー者に連絡を取る方針だ。

高村はすぐに千晴への面談を指示した。



面談当日。

「失礼いたします、高橋と申します。本日はよろしくお願いいたします」

「ふむ、座りたまえ」

「ありがとうございます」


リクルートスーツ姿の千晴が腰を下ろした瞬間、高村は口を開いた。

「採用だ」


「……えっ?」

一瞬、何を言われたのか分からないという表情。

しかしすぐに姿勢を正し、凛とした声で尋ね返す。

「あの、それはどういう……」


「言葉通りだ。君の採用は、今この場で私が決めた。不服かね?」


「いえ、光栄です。ただ、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」


高村はわずかに笑みを浮かべる。

「先日の発表会で、最前列から拝見した。君の力は十分に分かった」


千晴は動揺を抑え、深々と頭を下げた。

「あのような拙い司会に、過分な評価をいただき恐縮です」


(……こちらの期待する反応を即座に返してくる。この年齢で末恐ろしい)

高村はそう内心で評し、同時に悟った。

(長くいれば、いずれ会社を乗っ取られるだろう)



「ただし条件がある。希望は経理経営だそうだが、我が社は全員が現場を二年経験する」

「もちろんです」

「それと、卒論を拝見しても構わないか。経済学部だ、適性を確認したい」

「はい、第一稿でよろしければすぐに」


「よし、では四月からよろしく頼む」



後日、送られてきた論文を読み、高村は驚愕した。

「……これは、本当に会社を乗っ取られるかもしれんな」

嬉しい、震えるような驚きだった。



もしこのときの出会いがなければ──

高村が氷室に自宅設計を依頼することもなく、

蘭と美優の再会も、そして晴道たちの物語も、きっと違う道を辿っていただろう。


彼女には、そうした未来の分岐点をねじ曲げてしまう力があった。

後にある者が、その力をこう呼ぶことになる。


“運命改竄の魔女デスティニー・リライター



【Scene02:3年前11月】


ある秋の日、篠原美雪のプライベート用携帯電話に、見知らぬ番号から着信があった。

いつもなら留守番電話に回して様子を見るのだが、そのときは直感が働き、すぐに応答した。


「はい、篠原です」

『あの、わたくし高橋千晴と申します』


──待望の電話だった。



1年前、とある旅館への融資審査の面談で、美雪は千晴と出会った。

千晴を一目見た瞬間、かつてのライバル──雨宮美優を思い出した。



美優には特異な能力があった。

“場の空気を読み、自在に操る力”。

それは恐るべきほどの支配力だった。


高校時代の美優の親友は、その力を“完全律掌者・ドミニオン・コンダクター”と呼んだが、美雪はそれを知らない。

しかし、同じ“何か”を確かに感じ取っていた。


大学時代の成績ではむしろ美雪の方が勝っていた。

それでも、オリエンテーションでもプレゼンでも、美雪は一度たりとも美優に勝てなかった。


不思議と劣等感はなかった。

圧倒的な差を見せつけられ、畏怖よりも羨望の念を抱いたからだ。

やがて二人は親友となり、同じ銀行に入社した。



あの日、美雪は千晴にこう言った。

(この私が、流れを握られっぱなしだなんて……銀行に入ってから初めての経験だわ)


しかしそれは正確には“顧客相手では”初めてだった。

美優を相手にしたときは、そもそも一度も流れを握れた試しがないのだから。


美優となら上層部に上り詰められると考えたが、それは適わなかった。

美優は程なく結婚し、如月美優となって退職したのだった。



美雪は千晴を誘った。

「ねえ、あなた。大学を卒業したら、うちで働かない?」


千晴が味方になれば──美優とは果たせなかった夢を、今度こそ実現できる。

そう思った。



時は現在。

美雪は千晴の言葉を待ったが、それは望んだ答えではなかった。


『申し訳ございません。篠原様に折角お誘いいただいたのですが、私は地元で就職することにしました。

地元に根ざした会社で、直接“市井の人々”と関わる仕事がしたいと思っております』


「そう……わざわざ電話をくれてありがとう。

でも、私はあなたを諦めないわ。

私はこの銀行で上層部に上り詰めるつもり。そのためには、あなたのような力を持った人が必要なの。

私が──そうね、部長になれたら、また連絡するわね」


その場は引き下がった。



美雪はその後、実績を積み、課内での地位を盤石にする。

そしてわずか6年で、融資部長補佐にまで昇進した。


再会は突然訪れる。

千晴が勤務する会社が、大手アウトレットモールの建設計画で融資を受けることになり、

その打ち合わせに千晴が代表として出席したのだ。


会議後、美雪は千晴に声をかけた。


「千晴さん、うちに来てくれませんか?」


それは7年前のあの日の言葉──

「大学を卒業したら、うちで働かない?」

よりも、はるかに真摯な響きを持っていた。


「私はあれから7年で部長補佐になりました。

でも、もしあの時あなたが私のもとに来てくれれば、今頃は部長になっていたかもしれません」


その言葉に心を動かされた千晴は、美雪のもとに転職することを決意する。

ちょうど同棲を考えていた彼氏の就職先が近かったという幸運も重なった。



美雪は”あの時千晴が自分の元に来ていれば、今頃は部長になっていたかもしれない”と考えていた。

だが現実は、千晴が来なかったからこそ──彼女を迎えるにふさわしい地位を目指し、孤軍奮闘してきたのだ。


そして今、その努力の果てに千晴は自分の前に立っている。

しかし美雪は知らない。

千晴を”運命改竄の魔女デスティニー・リライター”と呼んだ者がいたことを。

そして、自分もまた──千晴の影響で、そっと人生を書き換えられていたことを。



クリスマスイブ。

選ばれた“特別な場所”は、まさかの霞の宿。


恩人として迎えられる和也と、

欲しいものを確実に手に入れる少女・新倉南。


祝福か、過剰演出か。

里総出の歓迎の裏で、静かに進行するのは――

南という存在の本質。


天然なのか、計算か。

無邪気なのか、捕食者か。


そして和也は、この一夜で何を悟るのか。


華やかなクリスマスの陰で、

“選ばれる側”だったはずの男が、

いつの間にか“選ばれている側”へと回る。


――新倉南、恐ろしい子。


次回、第06話-03。

特別な夜は、まだ終わらない。

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