【第04話-10】宿がつなぐ、姉妹のような時間
静かな夜が明けて、
物語は少しだけ、軽やかな時間へ。
昨日まで背負っていたものを胸に抱えたまま、
それでも花音は前を向く。
そして──
この里に、新しい風が吹き込む。
この出会いが、
やがて霞の宿の未来を形づくることを、
まだ誰も知らない。
【Scene35:双子コーデと小さないたずら】
── 高橋 千晴 ──
風呂から上がって髪を乾かしたら、さあ、いよいよ着替え。
今日はちょっとした遊び心で、**“双子コーデ”**に挑戦してみた。
花音が「やってみたかったの」と珍しくねだったから、乗ってあげたのだ。
──まあ、スタイルが違いすぎるのは百も承知。
私が175cmでスラッとした体型。対する花音は165cmで、くびれからの“どーん”というバランスおばけ。
特におっぱい。そう、問題は胸だ。
私は自前Dカップにパッド2枚で、なんとか**“Fカップ相当”**を名乗っている。
対して花音は──天然Gカップ。
いや、実際のところ、数字で言えば1カップ差……なんだけど、
見た目の破壊力は3ランクぐらい上。
「女ってのはサイズじゃねぇ、構造だ」って誰かが言ってた。マジでそう。
そんなわけで、二人してお揃いのワンピースに袖を通した。
白地に藍の水玉模様、膝丈のシャツワンピ。
裾はほんのり広がっていて、共布の細ベルトでウエストをキュッと締めるデザイン。
「どう? 似合ってるかな、千晴姉さん」
花音がくるっと一回転する。
ん……犯罪級の破壊力。
布地のふくらみに重力の説得力がありすぎて、ワンピースがワンピースじゃない。
「……花音、前屈みは絶対禁止ね。スカートの広がりと相まって、通報ものだから」
「え? そうですか?」
首を傾げて、ちょっとだけ胸を寄せるような動き。
お願いです、天然でやらないでください。
「ほら、千晴姉さんも鏡の前に立って!」
鏡の前に並ぶと、確かに服はお揃い。だけど──
私の方はスラリとした長身に対して、ややタイトめの印象。
花音はどちらかというと、ふわりとした女性らしいラインが強調される。
「ふふっ、“なんちゃって双子コーデ”ですね」
「いや、“いとこ”くらいには見えるでしょ!」
私は胸を張ってみせる。パッドの存在を全力で信じて。
── 一ノ瀬 花音 ──
鏡の前で、もう一度、千晴姉さんと並んでみる。
やっぱり、どう見ても──負けてる。
胸は私のほうがあるけれど、それ以外が圧倒的すぎるのだ。
長い脚、細い腰、すっと伸びた首筋。
ワンピースのベルトが絞るラインが、無理なく美しく曲線を描いている。
私のほうがワンピースに“包まれてる”感じなのに、千晴姉さんは“着こなしてる”という感じ。
「……ずるいです」
「へ? なにが?」
「スタイル、です。どうしてそんなに脚が長いんですか。
どうしてそんなにウエストが細いんですか。
どうしてそんなに“映える”んですか」
ぷくっと頬を膨らませて、やや真顔で言ってみる。
「わ、私だって……! パッドなかったらDだし!」
「胸の話じゃないです。私は、姉様みたいになりたかったんです。
ずっと──ああいうふうに、自分の足で立ってて、遠くを見てる人に」
「……え?」
「たぶん、初めて会ったときから、ずっと憧れてました。
姉様は、まっすぐ歩く人だから。誰かの道じゃなくて、自分の道を歩く人だから。
私はずっと、それを目で追ってきたんです」
ちょっと照れくさくて、でも、ちゃんと伝えたくて。
「だから、今日こうして“お揃い”にできて、本当にうれしいんです。
たとえ、“なんちゃって”でも。
姉様と並んで歩けるのが、うれしいんです」
── 高橋 千晴 ──
ちょ、ちょっと待って。
え? 何この急な称賛ラッシュ。褒め殺しにもほどがあるでしょ!
「いやいや、そっちこそ十分すぎるぐらい映えてるでしょ!? 胸もあるし! 顔も整ってるし!
私なんて、横顔のEラインもなくて、むしろIラインって言われたことあるし!」
「それでも姉様のEラインは、“Effortless”のEです」
「今うまいこと言ったと思ったろ!!」
私はつい顔を赤らめて、笑ってしまった。
そんな私に、花音はふわっと微笑む。
「姉様は、美人なんです。誰がなんと言おうと。
……たぶん、自分が思ってるより、ずっと」
その言葉が、胸の奥にやさしく届いた。
私はまだ、自分のことを完全には好きになれないけど。
でも──こうして隣にいる彼女に、そう言ってもらえるのなら。
今日だけは、ほんの少しだけ、自分のことを誇ってもいいのかもしれない。
「……ありがと。じゃあ、“美人姉妹”で、出かけますか?」
「それじゃ、冬美さん呼んで車、回してもらいますか」
そこでふと思い出す。
「冬美さんの旦那さん、なんて名前なの?
会う機会があったら、今朝の朝食のお礼言わないと」
「それはですね、あっ……」
えっ、何?
「彼のこと、旧姓で考えてたので気づきませんでしたが、名前は進さんなんですって。“前に進む”の」
「あっ、うちのお父さんと同姓同名」
花音は少しだけ困ったような顔で言った。
「そう……なっちゃいましたね」
あれ?
うちの父親は15歳年下の妻を迎えて、こっちの進さんは20歳年上の妻に婿入り。
ふふ、対照的だね。どちらも年下の方が積極的だったのは一緒だけれども。
ちょっとした悪戯心が──むくむくと湧いてきた。
私は声を潜めて花音に話しかけた。
「ねえ、花音。冬美さんに昨日聞いた“夜の営み”のことからかったらどうなると思う?」
この一ヶ月でわかったけど、花音は意外とこういうネタが好き。
昨日だってノリノリで教えてくれたしね。
「えっ、そうですね……」
二人で出した候補は──
1. 意外と純情?
「うちの旦那、6年越しの想いを遂げたじゃないですか。すごい一途で、それでつい応えてあげたくなっちゃって」
2. バリバリ下ネタで返してくる
「うちの旦那、まだ二十代半ばで若いじゃないですか。あっちもバリバリで激しくて! 私も我慢できなくてね、ついつい毎晩!!」
3. 激おこプンプン
「お客様、そのようなセクハラ発言は困ります」
4. しれっと流す
「仕方ありません、新婚でしたから」
1と2が私。
付き合いの長い花音の方が有利かとも思ったけど──私の観察眼、侮るなよ。絶対勝つ。
「負けた方が街でスイーツ奢りね」
「望むところです」
私は傍で待機していた冬美さんに声をかける。
「それじゃ出かけますね。街まで行こうと思います」
「わかりました。車、回しますね」
そう答える冬美さんに、私は仕掛ける。
「そういえば冬美さん、新婚なんですって!」
「あ、はい。旦那とは昨年夏に結婚しまして」
ストレートに──
「社宅追い出されちゃったんですって? あの声が大きくて」
さあ、どう出る?
冬美さん、真っ赤になって俯いて、もじもじ。
涙目で上目遣いになって、ぽつり。
「姫様のばか……」
萌えるわ!!
1で私の勝ちだったけど──あまりに可愛かったので、
花音と割り勘で、冬美さんと進さん、二人分のスイーツを買って帰ることにした。
【Scene36:双子コーデ2】
── 高橋 千晴 ──
宿の車で街まで送ってもらい、花音と二人で双子コーデデート。
石畳の歩道をカツカツと歩いていたら──
「あーっ、お姉様!」
突然声がして振り返ると、ツインテールをぴょんぴょん揺らしながら走ってくる女の子が二人。
……え、双子コーデ? でも、知り合いにこんな子いたっけ?
「花音、知ってる?」
「……あっ、うちの仲居見習いでは?」
えっ、あの歓迎セレモニーで見た、髪ひっつめてノーメイクだった子たち!?
「花音、よく分かったね」
「顔を覚えるのは、接客業の基本ですから」
──すご。服も化粧も変わると、本当に雰囲気って変わるんだね。
ふたりは休日中らしく、「今日は気合い入れてます!」って装いで現れた。
髪型は高めのツインテール。
ヘアゴムにはそれぞれ、ラベンダーとサーモンピンクのリボン。
白地に小花柄のパフスリーブブラウスに、ライトブルーのミニスカート。
足元は白の厚底スニーカーに、レースのソックス。
バッグはキャンディカラーのチェーンショルダーで、ミントグリーンとピーチピンク。
──原宿寄りの清楚系双子ガーリー、って感じ。
「ヘアゴムの色でラベンダーちゃんとサーモンピンクちゃんって呼ぶか、バッグの色で……」
「千晴姉さん、普通に自己紹介させてあげてください」
「あっ、はい。こんにちは、霞の宿の仲居さんだよね?」
ラベンダーちゃん:
「はいっ、お姉様!」
サーモンピンクちゃん:
「若女将、おはようございます!」
「名前、教えてもらっていい?」
ラベンダーちゃん:
「たなか ゆみ、五月生まれ、十九歳です」
サーモンピンクちゃん:
「なかた みゆ、同じく五月生まれ、十九歳です!」
……たなか・なかた・まゆ・ゆみ……なにこれ、暗号?
「えっと、字はどう書くの?」
すると二人は慣れたように、名前入りの名刺を差し出してきた。
田中 由美♡
中田 美由♡
──いや、これはもう完全に仕組まれてるよね。
「あなたたち、幼なじみでしょ? 親同士も仲良くて、誕生日も一緒だったり?」
由美:
「さすがお姉様〜! 私たち、誕生日も一緒なんです!」
美由:
「お母さんたちも、なんと同じ誕生日なんですよ〜!」
「花音、ここいらって“同じ日に子どもが生まれる呪い”でもあるの?」
花音:
「いえ、誕生日ですし……せめて祝福と……」
由美:
「嘘でーす! 誕生日は三日違いでした〜!」
美由:
「お母さんたちは、年齢も違います〜!」
やられた。
でも命名はやっぱり示し合わせたんでしょ?
田中 由美/中田 美由
──これで偶然って言わせないよ?
『
「「はい、そー聞いてまーす♪」」
息ぴったりだよ。
「今日は非番なんだ?」
由美:
「はいっ、お姉様に会えなかったのが心残りで……」
美由:
「でも、こうして偶然お会いできてラッキーでした!」
由美:
「ちょっと期待してたよね?」
美由:
「だから、オシャレしてきちゃいました!」
「うん、二人ともすっごく可愛いよ!」
「やったーー!」
ほんと、小動物みたいで癒される。
「そうだ、私たち、千晴さんと若女将にお礼がしたくて!」
「“千晴”でいいよ。ここは里じゃないし、“花音”って呼んであげて」
「……千晴さん」
「花音さん……」
「同い年なんだし、呼び捨てでいいよ。ね、花音?」
── 一ノ瀬 花音 ──
すごい。姉様、あの子たちの憧れに応えて、自然に“頼れるお姉さん”モードに入ってる。
これは私も合わせるしかない。
「そうね、千晴」
──あれ、今まで名前呼び捨てってしたこと……あった?
ちょっと、顔が熱い。
── 高橋 千晴 ──
「そうね、千晴」
あれ、なにこのドキドキ……
呼び捨てされるって、なんか特別な感じ。
「千晴……いいのかな」
「花音……なんか照れるね」
どっちが由美でどっちが美由だっけ? まあいっか。
「昨晩のまかない和牛丼、すごく美味しかったです!」
「「ありがとうございましたっ!」」
二人、声そろえて言うのがまた可愛い。
「じゃあせっかくだし、私たちに街を案内してくれない?」
「うん、千晴、とびっきりの場所案内してあげる!」
「花音、新しいランジェリーショップができたの! 大きいサイズも揃ってるよ!」
「ほんと? 嬉しい、案内して美由!」
四人で並んで歩くと、街の視線が集まる。
「ねえ、見て、あそこだけレベチじゃない?」
「渋谷? 原宿? ってか、ロケ?」
観光客っぽい男子たちがヒソヒソ。
「お前声かけてこいよ、池袋の“ハニーセレクト”って言われてるだろ」
「いや無理だろ、あれは中野でもレアキャラ級……」
──うん、見た目で言えばたしかに強い。
でも、私たちはただ、仲良しな女友達と散歩してるだけ。
イタリアンで花音がランチを奢ってくれて、ちょっと恐縮。
帰り道、由美と美由に案内してもらったスイーツ屋で、
冬美さんと進さんへのお土産を買って宿へ戻ることにした。
──楽しかったな。
きっと、ずっと忘れない一日になる。
【Scene37:友達になるということ】
── 高橋 千晴 ──
ふと思いついて、美由由美に聞いてみた。
「ねえ、二人は仲居寮に住んでるの?」
「「はい、そうです!」」
息ぴったりに答える、由美美由。
「千晴、うちの里の仲居は、基本的に寮に入ってもらっているんです」
花音が補足してくれる。
そして、私の耳元にこっそりと。
「心の中で、美由由美・由美美由って呼んで遊んでません?」
──はは、バレてる。
「ねえ、二人とも。私たちと一緒に、温泉入らない?」
「えっ、入りたいです!」と美由。
「でも……仲居頭が許してくれるか……」と由美。
そこに、花音がさらりと後押しする。
「大丈夫。私が説得してあげる」
「「ありがとうございます!」」と、二人とも目を輝かせて喜んだ。
花音が車を呼ぼうとすると、由美が軽く手を上げて止める。
「花音、車はいいです。私たち、車で来てるので」
「えっ、もう免許取ってるの?」
「この辺、けっこう山奥ですし……私たち、霞の宿から車で数分の地元なんです。高校も地元にしました」
「花音は家の都合で、私立の全寮制の小中に通っていたんだよね?」
花音の顔が少し曇る。
──それは、あくまで“表向き”。
私だけが知っている、花音の過去。
もし彼女が、普通に小学校・中学校に通っていたら──
この二人とは幼馴染みだったのかもしれない。
「話が逸れました。この辺りは車社会ですから、高校でも就職希望の子には、在学中の免許取得を勧めているんです。教習所に通うためなら、授業を抜けることも許してくれるんですよ」
と、美由が補足する。
「私たち5月生まれなので、高2の3月から教習所に通って、誕生日で18歳になったら仮免とって……そのまま卒業、すぐ免許取りました。もう1年経ってるので、若葉マークも外してます!」
「へえ、すごいね。そんなに早くから先のこと考えてたんだ」
そんな話をしながら、由美の車がある駐車場へ向かう。
パステルカラーの小さなコンパクトカー。ナンバープレートもどこか可愛らしくて──由美らしい。
運転する由美の隣で、美由が話し出した。
「3年前、霞の宿が新館オープンしたときのことなんですが」
──花音がアメリカへ渡った直後のことだ。
「そのとき、地元住民をプレオープンに招いてくれて、新館と別館に一泊ずつさせてもらったんです」
「運用テストも兼ねて、地元との交流イベントを開いたんですね」
と、花音が補足してくれる。
「そのとき接客してくれた仲居さんたちが、すごく素敵で。いきいきしていて、かっこよくて……憧れちゃったんです」
──女将と仲居頭も、すごく素敵だった、と。
このイベント、花音の提案なのかな?
……と思った瞬間、小声で返ってきた。
「いいえ。私は留学の準備で手一杯で、その頃のことには携わっていません」
……えっ、今、声に出してないよね?
「千晴のことなら、なんでもわかりますから」
……ちょっと怖い。
「それでね、イベントの最後に女将が言ってくれたんです。
“私たちは広く働き手を募集しております。一緒にこの宿を盛り上げてくださる方がいらっしゃいましたら、いつでも気軽にお声かけください”って」
「それで私たち、高校卒業したら、一緒に仲居になろうって二人で決めたんです」
「すごいなぁ。私なんて、まだ将来のこと決めかねてるのに」
「えへへ……そうですか?」
照れる美由が、ちょっと可愛い。
「それで、後日ふたりで正式にお願いしに行ったんです。“卒業したら雇ってください”って」
「行動が早い……!」
「そしたら女将が笑って、『高校でしっかり勉強して、ちゃんと遊んで青春を満喫しなさい。それが終わったら、宿はあなたたちを歓迎するわ』って言ってくれたんです」
「そろそろ着きますよ」
と由美が言えば、花音が答える。
「従業員駐車場に車停めて、一緒に歩いて行きましょ」
「いいんですか?」
「ええ。お風呂のこと、一緒に冬美さんにお願いしましょ」
車を降りて、宿の方へ向かう。
チェックインの時間でフロントが賑わい始めていた。
花音が受付に声をかける。
「女将と仲居頭はどこに?」
「若女将、お帰りなさい。お二人なら、本館にいらっしゃるかと」
「ありがとう」
私たちは、そろって本館へ向かった。
「ほんとに……入っていいんですか?」
まだ不安そうな由美に、花音は笑って応える。
「私が頼んであげる。大丈夫よ」
「若女将……」
「だーめ、今日が終わるまでは“花音”よ!」
「「はいっ、花音!」」
やっぱり、息ぴったり。
本館の奥に、葉月さんと冬美さんの姿があった。
葉月さんが私たちを見て、歩み寄ってくる。
「あら、お帰りなさい。連絡くれれば、お迎え出したのに」
「いえ、街で偶然ふたりに会って。由美さんの車で送ってもらいました」
「ただいま戻りました。母様、冬美さんをお借りしてもよろしいですか?」
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます。ほら、由美、美由。行こ」
そう言って、花音はふたりを連れて冬美さんのもとへ向かう。
その間、私は葉月さんと話す
「ねえ葉月さん、あのふたりと一緒に“金の湯”に入ってもいいですか?」
にっこりと笑って、葉月さんが答える。
「当然よ。ふたりは休日だし、お客様のご希望でしたら、誰とでも入っていただいて構いません」
「ありがとうございます」
私は声を潜めて尋ねる。
「あの二人の採用……花音のためですよね?」
「もちろんよ。あの子の、幼馴染みだったかもしれない子たち。支えになってほしかった。お友達になってくれたら、って願っていたけど……」
葉月さんは、優しく微笑む。
「でも、あの子、友達なんて作ったことなかったから。きっと、時間がかかるだろうなって思ってたのよ。なのに……あなたったら、たった半日で成し遂げてしまうんだもの」
「たまたまです。それに、私があの子たちと“友達になりたい”って思ったから、そうしただけです」
「そうね。あなたは、そういう人」
その目には、はっきりとした“尊敬”が宿っていて──
ちょっとだけ、照れた。
「でもね、あの子たちを採用した理由は、それだけじゃないの。
利発で、行動力があって、人懐っこくて、人見知りしなくて──なにより、可愛い」
葉月さんの顔がぱっと華やぐ。
「花音と、三人で。新しい“霞の宿”の看板娘になれると思ったの」
「はい。そう思います。とんでもない逸材、見つけましたね」
お世辞じゃない。心から、そう思った。
ふと気づくと、冬美さんがこちらを振り返っていた。
どうやら、話が終わったようだ。
葉月さんが軽く頷くと──
「やったーーっ!」
3人が手を取り合って、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
──これは可愛い。
間違いない、絶対に将来の看板娘トリオだ。
その様子を見守る葉月さんの眼差しが、心から幸せそうだった。
里の特別室に通された美由と由美。
それは単なる温泉ではない。
それは単なる歓迎でもない。
──霞の宿の“本気”が、動く。
目の前で焼かれる和牛と海の幸。
板長が立ち、仲居頭が整え、女将が見守る。
それは、未来を託す者たちへの儀式。
もてなしとは何か。
受け取るとは何か。
そして、花音の隣に立つということの意味が、
静かに示される。
次回
霞の宿、本気のおもてなし。




