「行けるところまで逝け!」
この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。
☆☆☆主信号、赤! 自動列車停止装置起動!☆☆☆
「さぁ、熱い展開になってきました。
しかし駅名と路線名の表記が私達の世界基準なので少々わかりにくいですね。
ここでは現実基準でここまでの行程を確認してみましょう」
「私達が最初に旅立つことになったのは東武伊勢崎線。
今の東武スカイツリーラインですね。その五反野駅。
ここから上野駅に向かい、山手線か京浜東北線で田端駅へ。
そこにあるJR東日本の車両基地から新幹線を引っ張り出し、
東海道新幹線で大阪を目指すというのが当初の計画でした」
※Googleマップのスクリーンショットから加工
「しかし、北千住駅を通過した私達は、営団地下鉄、今の東京メトロの日比谷線に乗り入れます。
目的は私鉄の路線のみを使用して東京―大阪間を移動すること。
となるとその目的も見えてきます。
この後、霞が関駅の隠し路線を使い、東京メトロ千代田線に乗り入れ。
千代田線から小田急小田原線に乗り入れ。
東海道線に近い場所を並走するこの路線で、小田原を目指します」
※Googleマップのスクリーンショットから加工
「しかし……ここまでです」
「東京圏の私鉄で行ける最西端がこの小田急小田原。
ちなみに関西圏の私鉄で行ける最東端が名鉄豊橋です。
小田原豊橋間208km。
この間、掛川―新所原間62kmには天浜線が使えますが、
それでも残り146km」
※Googleマップのスクリーンショットから加工
「ここはちょうど以前、
都市間交通が儲からないことを説明した際に
東海道新幹線の路線でもここは絶対儲からないと
説明した区間でもあります。
つまり、こんなところに私鉄路線があるはずがない場所。
はたしてこの区間をどう乗り越えるのか?
続きを見ていきましょう」
☆☆☆主信号、青! 運転再開!☆☆☆
『もうちーっとで、ごーぎ速ぁ下り電車が来るんだんが、
アブねぇすけ、ホームに出ねぇでくんねぇかい。
下りの、ごーぎ速い電車が来るすけ、気をつけらっしゃい』
『まもなく、下り電車が超高速で通過します。
危ないですから、ホームに出ないでください。
下り電車が、超高速で通過します。
ご注意ください』
『Achtung!
Die nächsten zug halten nicht an dieser Station.
Bitte halten Sie sich von den Gleisen fern.』
地下鉄路線内を規格外の全速力で暴走疾走するK急1000型試作MK-Ⅱ。
その最初の関門は、カスミガ駅での路線図にない線路を利用しての路線変更だ。
「無茶ですよ!
整備用路線を通すだけでも大変なのに、
そのポイントへ時速160km/hで突入してくるって、頭おかしいんですか!?」
「それでもやるしかありません。
『英断』の名に恥じぬこの判断は、歴史に残ります。
時間はわずかです。みなさんの努力を……」
「来たぞぉ!」
ポイント整備に集められた作業員達の前に現れたのは、K急の……
赤、ではなく、黄色い特別車両!
「あれが噂の……」
「『主任』の愛車、デト12!」
保線業務を担当するK急の特殊車両。
その荷台には工事用建材に加え、K急が誇る職人集団。
運転主任の座につく男たちが腕を組んでいる!
「もう時間がねぇ! かかれ!」
「応っ!」
「主任」の指示で一斉に作業をはじめる運転主任達。
本来K急の運転主任は運行業務のほぼ全権を委任されたワンマンアーミー。
その運転主任がこれだけの人数1つの場所に集まることはありえない奇跡だ。
「す、すげぇ! 小指一本でポイント切り替え確認を……!」
「あれがK急の、運転主任か!」
まさに神業としか言えない速度で作業を完遂した運転主任達。
だが暴走特急はもうすぐ手前まで来ている。
「ポイント切り替えろぉ!」
「ポイント切り替え!」
「来るぞぉ! 衝撃に備えろぉ!」
厚さ2cmの窓ガラスを破砕する衝撃波を纏って地下鉄路線内を爆走する赤い流星。
狭いトンネルの線路脇ぎりぎりに張り付く運転主任の体を
風魔法さながらのカマイタチが切り裂いていく。
「主任!」
窓にへばり付いて入隊依頼の上司の無事を祈るヴィクトリアへ。
「行けぇ! オオタニぃ!」
「……!」
その言葉は、本当に届いていたのだろうか。
ヴィクトリアは涙を流しながら、もう見えるはずもない主任へ敬礼を向けた。
「……バカ野郎。
まだ何も成し遂げてねぇのに、泣くんじゃねぇ。
だからお前は……コタニちゃんなんだよ」
無事英断グリーンの路線に乗り入れたK急1000型試作MK-Ⅱ。
ヨモギウエハラ手前で地上に出ると同時にトンネル・ドンを発生させ、
そのままオバ急の路線に入っていく。
「すごい音がしたけど……」
「後ろの車両で窓ガラスが割れたみたいです」
「ここまで割れてない方が奇跡でしょう」
ここまでは順調。
しかし、終点はまもなくだ。
私鉄の路線だけでは、オバワラから西には進めない。
「オバワラから西、どうするんですか?」
「考えていません」
「そんな力強く!」
「行けるところまで行くのがK急です」
「あーもう滅茶苦茶だよ!」
「振替輸送は依頼しているのですが」
「受けるわけないでしょぉ! K急からの振替とか!
前科しかないのよ! 前科しか!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ車内に、再度衝撃が走る。
別にトンネルに入ったわけでもない。
一体何が起きたのか?
3人が音のした方を振り向くと……
「見つけたぜぇ……フローレス・フローズン!」
全身から血を流しながらも稲妻の剣を片手に持った勇者。
竜人、ジュダの姿がそこにあった。
なんとなく状況を察した女騎士ヴィクトリアは
剣を抜いてジュダの前に立ちふさがる。
「駆け込み乗車は危ないですからおやめください」
ここで物語は少し過去に遡る。




