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「マールさんの現地取材」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

☆☆☆主信号、赤! 自動列車停止装置(ATS)起動!☆☆☆


「みなさんこんにちは。

 ファン・ライン総裁、マール・ノーエです」


「今回はプロローグとしてはじまりの路線の物語をご覧いただいたわけですが……」


 マールは小恥ずかしそうに長耳を撫でる。


挿絵(By みてみん)


「自分の小娘時代の黒歴史を見せられるようで、耳が熱くなってしまいますね……

 本当に昔は猪突猛進が過ぎたというか……

 シオン技術主任には今も昔も頭が上がりません」


 ごほん、と咳払いをひとつ。


「さて。改めまして。

 この度は私達の会社、ファンラインの株式上場130周年にあわせて、

 私達の世界の鉄道史をドラマ化する企画をテレビ局よりいただきまして。

 これもすべて鉄道利用者のみなさまも支えていただいたおかげ。

 直線での最短ルートとはいかない、紆余曲折の連続ではありましたが、

 どうにか今日までたどり着けましたこと、

 ファンライン総裁として、そして、鉄道女王として、

 深く感謝する所存であります。

 みなさん、本当にありがとうございました」


挿絵(By みてみん)


「今回の企画では私やシオン技術主任をはじめ、

 今日に至るまでのファンラインを語る上で

 欠かせない人物たちに綿密な取材を行い、

 役者のみなさんも私達と直接すり合わせを行った上で演じていただいています。

 子役の私はちょっと世の中舐めすぎだと思うんですが、

 他のみなさんが全員口を揃えて『当時そのままだ』と言うもので……

 うぅ……これもこの先いろいろやらかしてしまう私への戒めと受け取りましょう」


※メスガキ子役と同じカットを要求されて恥ずかしがるマールさん

挿絵(By みてみん)


「さて。プロローグを終えてここから物語は第1章。

 全12話、それぞれ1話完結の物語となります。

 そしてこの物語の撮影は実は春には終わっていたのですが、

 ここまで公開を先延ばしにしたのには理由がありました。

 その理由こそが……!」


挿絵(By みてみん)


「青春18切符!

 これと世界転移魔法を用いて、

 物語の元となった舞台の異世界『日本』を私が旅するためです!

 と、いうことで、今私は……

 日本の鉄道発祥の地、新橋停留場跡に来ています!

 早速写真を……」


 と、ここでマール。周りのざわめきに気付く。


――何あの人! めっちゃ美人さんじゃん!

――凄い綺麗な色の髪! あれ地毛なのかな?

――ん? いや、よく見るとなんか耳が……


「あわわわわ!」


 慌てて耳に手をあて、耳を取り外す。


「コスプレ! コスプレですよ!

 ジャパニーズカルチャーですよ!」


 顔を赤くしながらつけ耳を振り回すマール。


――なぁんだ! アニメ好きの外人さんか!

――日本語上手ですね!

――いっしょに写真撮ってもらってもいいですか!?


「あ、はい! 喜んで!」


 OL達とのツーショット写真を撮り終えてほっと一息。


(光を歪めて耳を隠すのを忘れていました……

 万が一のためにエルフのつけ耳を買っておいて良かったですね。

 この髪色もこちらの世界では目立つのでしょうか……

 では、改めて。

 この長耳を私が今日ここに来た証拠として画面に入れて、と……)


挿絵(By みてみん)


「ということで、新橋停留場です。

 ここは現在の新橋駅の東200m。

 国道15号線を渡った先にあります。

 これが基点となる0哩標識ですね」


挿絵(By みてみん)


「劇中では商業都市ニューブリッジと貿易港シーサイドの間、

 片道28kmの距離を35分で結んでいましたが、

 史実でも新橋と横浜の間の同じ距離を同じ時間で結んでいます。

 現在この行程は京浜東北線で40分ですから、むしろ遅くなっていますね。

 しかし当時は途中駅がなかったのに対し、

 今の京浜東北線は間に12個の駅があります。

 また、路線自体も今の京浜東北線の物とは異なり、

 一部は海上を走るほぼ直線ルートで構築されていましたから、速いのも当然でしょう」


「え? 海の上を走るなんてありえないって?

 ふふふ……では場所を移動して」


挿絵(By みてみん)


「この当時の海上の線路の跡は長く場所不明だったのですが!

 これが最近、高輪ゲートウェイ駅の再開発工事中に出土したのです!

 それがこちら!

 この高輪築堤跡は再開発され商業施設が建築される予定でしたが、

 紆余曲折を経て港区によって文化財として保護されることが決定し、

 2027年にはこの一帯が公園になるそうです。

 いやぁ、本当に海の上を走っていたとは、驚きですね!」


「そしてこの路線を走っていた一号機関車が保管されているのが、ここ」


挿絵(By みてみん)


「大宮の鉄道博物館です。

 昔は秋葉原の万世橋にあったんですよね。

 移転前にはちょくちょく私も顔を出していました。

 懐かしいですね。今も昔も鉄道模型のジオラマに目が釘付けでしたよ」


挿絵(By みてみん)


「こちらが1号機関車。

 秋葉原時代の鉄道博物館からそのまま移設されています。

 本編の1号機関車はこの『本物』からCG加工ですね。

 まぁまだ私達の世界のCG技術があまり高くないのでちょっと違和感ありましたけど」


挿絵(By みてみん)


「この1号機関車の他にも実は今の大宮の鉄道博物館には

 秋葉原時代から移設された展示物は多く、

 昔通い詰めた身として懐かしく感じてしまうものが……」


挿絵(By みてみん)


「あったりしますね。

 これとか昔何度もスイッチ押して動かした模型なので

 よく覚えてるんですよ!」


挿絵(By みてみん)


「ははは。やっぱり交通博物館時代の展示はいいなぁ……」


 ごほんと咳払い。


「失礼。さて、劇中でシオン主任が水を入れるところだろうと推理した場所。

 しかしみなさんご存知の通り、実際にはここに石炭を入れていたわけですね。

 私達の世界で石炭が発見されるのはだいぶ後の話。

 そして、発見された後も私達の世界での蒸気機関はサラマンダーさんで動かしていましたから、

 結果的にシオン主任の間違いを知っているのはこちらに来れる私だけなんですけどね。

 鉄道が私達の世界だけのものでないことを知っているのも。

 いや、改めてほんと小娘時代の再現映像が恥ずかしい……!」


 耳を赤くして顔を埋めるバリキャリエルフである。


「ただ、結果的に私達の蒸気機関火車は石炭を使いませんでしたから、

 黒煙を吹き出して走ることが一度もなかったんですよね。

 風情という意味では少し残念に思いますが、これでも一応エルフですから。

 大好きな鉄道の環境汚染負荷が低く抑えられたことは自然を愛する種族としては喜ばしいことです」


「さて。劇中ではタカラトミーの『プラレール』をモデルにした

 『ファンレール』から電車の仕組みを学ぶという描写がありますが……」


挿絵(By みてみん)


「実はこれ、かなりリアルな話でして。

 史実でも日本人が鉄道の仕組みを学んだのはイギリスから輸入された鉄道模型だったんです。

 それが同じく鉄道博物館に展示されているこちら」


挿絵(By みてみん)


「こちら、プラレールのようなおもちゃではなく、

 本物と同様の蒸気機関で動く模型になっています。

 このモデルが走るのを見て、明治の方々は鉄道に利便性に気付いたと言われています。

 と、そんな元ネタのあったエピソードでしたということです。

 と、鉄道博物館は今回はここまでですね。

 最後に長耳外して客車展示の中で写真撮っておきましょ」


挿絵(By みてみん)


「さて、続きまして。冒頭、私達の世界に『電車』を『転生』させてくれた女神様が見ていた中央・総武線の小岩駅です。

 劇中では隣の駅で人身事故が起きていましたが、これが新小岩駅。

 実は新小岩駅は長く最悪の決断で旅立ってしまう人たちの名所という

 不名誉な称号がかかげられていました」


挿絵(By みてみん)


「もちろん私は鉄道が大好きで、

 その厳密なダイヤを守るために日夜努力されているJR職員様達の側に立ってしまいますから、

 駅で旅立つ方には良い感情を持っていません。

 駅での旅立ちはあくまで現世の中にとどめてほしいところ。

 ただ、この駅での旅立ちは全国に数多ある所謂他の『名所』での旅立ちとは違う点があります。

 それが、明確に意思を持って旅立つ方が少ないという点です」


「新小岩駅には今はホームドアが設置され、旅立つ人が激減。

 死者数に関しては近年はゼロを記録しています。

 しかし考えてみてください。

 こんなホームドア、その気になれば乗り越えられますよね?」


「実際、全国各地の橋やダムなどでの所謂『名所』では、

 高いフェンスを作っても旅立ちを止めることができていません。

 しかし駅ではそれが激減する。

 これこそ、駅での旅立ちが決意を持っての行動ではなく、

 突発的なものであることの証拠だと思います」


「だからこそ、人身事故は『事故』なんです。

 劇中では人生で一度だけできる完全犯罪だなんて強い言葉で言いましたが、

 疲れた人が突発的に『あ、いこう』と感じて足が動いてしまうのが

 駅での旅立ちのほとんどだということですね。

 鉄道会社の側に立つ私も、そう考えるとどうにも強い口調で悪く言えなくなってしまいます……

 まぁ、ホームドアが人身事故防止に圧倒的な効果を発揮することは事実なので、

 改めて利用者の『安心・安全』のためのホームドア設置が進むことが望まれますね」


挿絵(By みてみん)


「ただ、鉄道を愛し人並みよりは詳しい人間として言いたいことがあります。

 それは、駅での飛び込みは『実はそこまで確実性がない』ということです。

 意外でしょう? まぁ清水の舞台から飛び降りるよりは確実ですが。

 清水からの飛び降りは文献によると生存率85%ですから」


「さておき。実は本当に恐ろしいのが、駅で旅立てなかった場合です。

 たとえ失敗したとしても、一時的に電車の運行が止まるのは事実。

 電車が止まると、その分機会損失が発生しますよね。

 そしてこの請求が、旅立とうとした方に飛んでしまうのです。

 その額、首都圏だと数百万円。

 さらにこれが新幹線などの場合、下手をすると数千万、数億となります。

 いやはや、本当に怖い話ですよね。

 改めて駅での旅立ちはやめておこうと身に刻んで欲しいところ。

 なお、無事旅立てた際にも遺族に請求が行く場合があるので、

 本当に電車に身を投げるのはやめてくださいね」


「ちなみに、エルフの私から人間のみなさんにオススメする楽な旅立ち方は、

 美味しいご飯をたくさん食べることですね。

 ファーストフードやアブラぎっとりのラーメンがオススメです。

 深夜に食べるとより良いでしょう。

 タバコを吸うのも効果的。

 これでなんと()()()5()0()()()()()()()()旅立てますよ。

 しかも直近までは美味しいご飯が食べ続けられるんですから、

 これ以上楽な方法はありませんね。

 ラーメンが苦手な方はパンや水もオススメです。

 統計上、パンや水を食べた方は1()2()2()()()()()()()()()()()()()()1()0()0()()()()()()()()()

 これに加えて筋トレをすれば、

 確実かつとても楽に旅立つことができると人間のお医者さんも多くが推しています。

 旅立とうと思ったら美味しいご飯と筋トレ。間違いありません」


「……え? なんですって?

 まだ全然人の心がわかってないじゃないかって?」


「……まぁ、エルフと人間は同じ時間を生きられませんから。

 価値観の違いでそう見えてるだけですよ。多分」


「さて。そういうわけでプロローグの現地巡りでした。

 こちらプロローグとしての性質上、今回は別枠でまとめたコーナーとなりましたが、

 本編1話以降は本編内で突然コーナーが挿入される形となります。

 あわせて1話以降もお楽しみください」


「以上、ファン・ライン総裁、マール・ノーエでした。

 この先も安心・安全で出発進行です!

 ではまた」

普通 5両 8月23日10時20分 騎士の鉄道クオリティ「エルフ流軍国主義」

普通 5両 8月23日22時20分 騎士の鉄道クオリティ「戦争と鉄道」


第1号到着 8月25日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

座席の予約は「ブックマーク」「評価」で。

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