表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第12号:エルフ轢断ミステリー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/85

「E」(Ending)

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

 運転手からの事情聴取の結果は、即座にギルドへ共有される。

 レポートを確認したジュダは思わず顔をしかめた。


「なんだ、このわけのわかんねぇ動向は……」


 運転手が報告した朝から失踪までのマールの動向はまさに意味不明。

 この7時間、自身のコネもあわせて入手した情報とあわせて、

 ジュダは最初の推理を開始した。


「鉄道女王には、3つの問題解決を目指していた。

 1つ、ファン・ライン社内の労働組合との軋轢。

 2つ、全国のファン・ラインにネガティブな印象を持つ住民への対応。

 そして3つ……」


 再びジュダの頭に、あの日の皇駅での口論がフラッシュバックする。


――どうしてそんなひどいこと言うの!

  ()()()()()()さん!!


「魔王軍残党。そして、魔王の娘。

 フローレス・フローズンの駆除」


 3年前の聖地コーヤ襲撃は、八咫龍のタマちゃんが解決したことになっている。

 だが後日コーヤを訪れたジュダはその魔力の痕跡に気付いていた。


(あの魔法はドラゴンのものじゃねぇ。

 人類種の物ですらねぇ。

 あれは、魔王の魔力だった。

 そしてそこにかすかに残る、完璧なまでにお行儀の良い教本通りのマナの匂い。

 鉄道女王は一度も戦場に姿を見せなかったが……

 おそらくあれは、鉄道女王のもの。

 あの日、鉄道女王とフローレス・フローズンは何かしらの理由で魔王軍と戦闘。

 面倒事をタマちゃんに押し付けて、逃げやがったんだ……!)


 ここまでは大筋ジュダの推理通り。

 まぁこの先の動機などの話に飛ぶとそのあまりにトンチキな内容故に

 環状線を一周回って絶対に気付けない答えになっているのだろうが。


 さておき。この時既にスタン含めたギルドのチームがエチゴ屋にて聞き取り調査をはじめていた。

 この後閉店間際まで、5時間に渡る聞き取り調査の末、鉄道女王の姿を見た人物は5人。

 しかし有力な手がかりに繋がる情報は何もなく、

 ファン・ライン本社の電話の前で情報を待つ社員達へも有力な情報は届かない。


(ファン・ラインの内部から聞いた情報によると、

 鉄道女王は最近頻繁にエチゴ屋に通っていたらしい。

 昔っからお偉いさんとの黒い噂が絶えなかったエチゴ屋だが、今ではただの百貨店。

 おそらくエチゴ屋は白。ただ密会の場所として選ばれていただけ。

 そこで会っていたのは……情報屋。

 実際にあそこを根城にしてるやつには何人か心当たりがある。

 労働組合の内通者か、ギルドの内通者か、魔王軍の内通者か。

 もしくは……)


 ジュダの頭によぎるのは、最近忙しそうな妖艶な表情。


()()()()()()


挿絵(By みてみん)


 ごくりと息を飲み、改めて鉄道女王の足取りを確認する。


(同じ百貨店のシラカバ屋でもいいと言ったのは、

 エチゴ屋とシラカバ屋に地下鉄の通路が通っているから。

 おそらくそこが情報屋との待ち合わせ場所だったんだ。

 鉄道女王は情報屋からよりディープな情報を求めていたんだろう。

 本来なら今日の11時から組合内最大派閥との労使交渉。

 そして明日には雷幹線の開通式典だ。

 情報を求める動機なら十分すぎる。

 カミノタ駅には地下鉄も通っててエチゴ屋前の隣駅。

 そこから一人で向かおうとして思い出した。

 カネがたりねぇ、と。

 そこで一度銀行に行き、カネを下ろした。

 その上でエチゴ屋で消息を絶った、ということは……)


 たらりとジュダの額からも汗が流れ落ちる。


(まだ生きてるか。あるいは、もう)


挿絵(By みてみん)


――10月1日、0時25分

  ヒダチ線、エーノ発カシワモッチ行、最終電車。

  ミカワヤガード通過時。


 深夜0時を回ったあたりから、雨が振り始めていた。


「うっ……」


 ()()に気付いたのは、後方車両から外を見ていた車掌だった。


「こんな夜中に人身事故かよ……めんどくせぇな」


 車掌は次の駅にて駅員に報告。

 報告を受けたアヤノ駅の駅員が、ミカワヤガードのあたりを確認すると。


「うわっ……」


 そこには報告通りの()()が。

 雨は強まり、線路上にただよう死の匂いを薄めていた。

 線路の上でよく見かけるように、人の姿はもう残っていない。

 だが、吹き飛ばされた腕が1本、近くに転がっていた。


「小さいな……まさか、子どもか?」


 まるで西洋人形のようなその美しい腕先。

 泥水で汚れた黒のゴシックロリータのフリルがかろうじてまだ確認できた。


 まもなく到着したギルドの面々が遺体と調査。

 全員の心に「まさか」と「そんなはずは」の思いがよぎる。


 付近には定期券と何枚もの名刺が散乱していた。

 雨の中ひとりが、震える手でそれを拾い上げようとする。

 隣の冒険者がとっさに手を伸ばして止めようとして、引き戻す。


 名刺を拾った男は暗い夜の雨の中、震える指先に光魔法を灯した。

 あまりの衝撃の目が見開かれる男。

 すっと目を閉じ、だらんとその両手を垂らす。


 誰も声がかけられない。

 雨の音だけが、その場を支配していた。

 やがてその男は、ゆっくりと口を開いた。


「ファン・ライン総裁、マール・ノーエ。

 俺達の……鉄道女王です」


 魔王を倒し、世界の歴史を変えた英雄。

 鉄道女王と言われたエルフ、マール・ノーエの最期。

 それは雨の振る闇の中、最愛の列車に轢かれるという結末だった。


――午前3時


「本当に総裁なのか!?」


 アヤノ駅の駅長が現場にかけつけ、思わず眉間にシワを寄せた。

 職業柄そういった光景を見るのも初めてではないとはいえ、

 何度見ても慣れない物は慣れない。


 高速で走行する車両に轢かれた体はバラバラになる。

 この夜の雨の中、遠目に姿を見たことしかない鉄道女王の本人特定は

 親しい者でなければ不可能だ。

 散らばっていた名刺と定期だけでは、本人とは信じられない。

 何より、信じたくない。


――午前4時


 眠れないままファン・ライン本社で待機していた技術主任、シオン・マヒデが到着。

 彼女はなにくわぬ顔で遺体を拾い上げると、突然大笑いをはじめた。


「あはっ、あははははははははっ!

 最高傑作だ! まさかまさか!」


 まだ雨が振る中、シオンは狂気とも言える表情で

 「それ」を両手に抱え、否定の言葉を待つ他の面々に突き出した。


「これ、マールだよ。

 はい、終わり終わり。

 私は帰って少しだけ寝て式典に備えるとするよ。

 あ、片付けはよろしく頼むよ。じゃ」


 誰もが思った。

 技術主任は、技術主任なのに「壊れて」しまったと。

 元からどこか壊れた方ではあったが。


 しかしそれにしたってあんまりな言い草だ!

 思わず食ってかかろうとした、その刹那。


「おい、待て」


 そこで一人が、そっとシオンを指さした。

 雨の中、シオンは空虚な瞳で暗い空を仰いだまま、何かを呟いていた。

 そっと耳に意識を向け、わずかに聞こえてきたその言葉は。


「君は天才なんかじゃ、なかった。

 いや……天才だったからなのかい?

 私には、まだわからないよ。

 凡人だからね」


 悲しみに満ちた声色で。

 その顔に流れる水には、雨以外の水分が混じって見えた。


挿絵(By みてみん)


――午前6時


 ようやく雨が止み朝日も覗く中、ギルドの死霊術師達による現場検証がはじめられた。

 死亡推定時刻は深夜0時19分。

 居合わせたファン・ラインの社員が時刻表を確認し、

 それが最終列車の1本前の貨物便だと特定する。


 見通しの悪いカーブで雨が振り始めていた深夜。

 運転手は気付いてブレーキをかけることもできなかったのだろう。

 遺体は主に5つに切断され、90mにわたって線路上に分散していた。

 これらを確認したベテラン死霊術師の見解は。


「鉄道女王マール・ノーエはみずから線路に飛び込んだ。

 他殺ではありません」


 だがこの先すぐに判断が撤回。

 別の術師は線路に突き飛ばされての他殺を主張。

 さらに轢断された際には既に死亡していたという報告もあり現場はさらに混乱する。


 この二転三転する捜査状況がその都度噂と捏造を混ぜてSNSにて拡散。

 その電子通信は世界を駆け巡り、北の大地へも届いていた。


「違う」


――午前8時、葉萌本線幻森駅にて


「違う。違います!

 これはマールではありません!」


 アングラなニュースで状況を確認したカナンが叫ぶ。

 それは間違いなくグロ画像に分類されるモノだったが、

 彼女はそれを見て安堵を覚えた。


「私は知っている……!

 私の他はおそらく最長老様くらいしか知らない秘密……!

 この死体は絶対マールではありません! 何故ならば……

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私のかけた『呪い』は、たとえ死んでも解呪できない!!

 私の嫌がらせは、そんなにチャチじゃぁないですよ!!」


 SNSを見てそう叫んだカナンは即座に電話帳を開き、

 その文字に一瞬躊躇う。


――私を振った人


 ぎりっ、と歯を噛み締め、カナンはその文字をタップした。


「もしもし! 私の騎士様ですよね!?」

『違います』


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ