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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第9号:勇者の駅弁 ~Season1~

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「タツジンの演舞」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

♪~軽快なジャズミュージック


 なんかすげぇ疲れたわ……


 ギルドマスターのオカマも原因なんだが、

 そもそもパーティーバランスが悪い。

 拳闘士グラップラー狂戦士バーサーカー付与術師エンチャンターってお前、

 リジェネとドレパン以外の回復手段がねぇじゃないか。

 ギルドが戦士・僧侶・魔法使いorシーフの編成をオススメしてるのは

 オススメするだけの理由がちゃんとあるんだよ。


「そもそもお前らはな、優勢で立ち回るなら強いが、

 一度想定外のことが起きて劣勢になると、

 途端に動きがわちゃわちゃしだすんだよ。

 先の先を読むんだ、いいか?

 ちょっとかかってこい。

 模擬戦で教えてやる」


挿絵(By みてみん)


 そこからダンジョン前で1対3の模擬戦になるわけだが、

 ここで俺は大人気なく無双。

 最初の連携は悪くなかったんだが、

 それが崩れた瞬間にこうしておしまいだ。


 だがここまでが予定調和。

 俺も憂さ晴らしがしたかったわけじゃねぇ。


「今の動き、覚えたな?

 じゃぁ次はお前らの連携攻撃からもう一度だ。

 ただし、本気で動くな。

 本気の動きと同じ動きで、

 速さだけスローモーションにしてみるんだ。

 それを俺が同じスローモーションで受けて、

 さっきと同じフェイントからお前らの連携の虚を突き、

 同じようにコテンパンにしようとする。

 だからお前らは、さっきの動きとこれからの動き、

 両方を知った上で、スローモーションのまま

 俺のフェイントを破り、連携を続けてみろ」


 あれだな、タイキョクケンってやつだ。

 傍目に見ればゆっくりふよふよと踊ってるだけだが、

 その実頭の中では詰め将棋をやる戦闘シミュレーションってわけさ。


 そう、そうだ、落ち着いてやりゃぁできる。

 ははは! こりゃ完封されちまったぜ!

 な? 相手が上位だって、落ち着いて詰め将棋やりゃぁ

 お前らは完封できる腕があるのさ。

 そうだ、もっと喜べ、自信をつけろ。


 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


挿絵(By みてみん)


 ちっ……やれやれ。

 ちょっと前はこんなことするキャラじゃなかったのに。

 ジュニアの面倒見るようになってから師匠ヅラが板についちまった。

 お嬢はニヤニヤ笑いでいいことですよとか言うが、

 それでこんなクソ派遣されるなら最悪だよ。


 まぁいいさ。折角神殿まで来たんだ。

 うまいもの食って全部リセットだ。


 いいか? そもそも人生ってのは嫌なことの方が多いし、

 そのほとんどが解決不能のどうしようもねぇ理不尽だ。

 そういうのはな、下手に解決なんか目指さずに

 ヘラヘラ笑ってそっと距離を取り、

 溜め込んだストレスはうまいもの食って発散だ。

 そう、うまいもん食えばだいたいのことは解決すんのさ。


挿絵(By みてみん)


 ……また師匠ヅラしちまったよ。やだねぇ。


 で、だ。ふむ。おかげ横丁とおはらい町か。

 この町は仮にもひとつの宗教の総本山。

 だってのに、息の詰まる厳粛な雰囲気は河を渡った先だけだ。

 この町はいつも賑やかで、活気に満ちてやがる。

 見慣れた女ですらちょっとよそ行きでシャレてるのさ。


挿絵(By みてみん)


 元々昔っから、神殿参りといえば

 神殿に参る名目で飯と女と賭け事を

 女房に内緒で楽しむってのがある種の公然の秘密でお約束。


 俺は女と賭け事にゃぁ興味がねぇが

 食い物への欲求は人一倍だ。

 さぁて、ひと仕事終えた後の飯、何にするか。


 マツサカ牛、ふむ。若い頃ならがぶりついたが、

 あいにく俺はもうおっさんだ。

 今日は特に疲れてるし気分じゃねぇ。


挿絵(By みてみん)


 イセウドン。悪くねぇ。

 これを食わずにロストしたら

 閻魔様に叱られちまう。

 だが今はもうちょっと薄味がいいなぁ。


挿絵(By みてみん)


 生牡蠣! いいじゃねぇか。

 真珠は換金アイテムとしか見れねぇが牡蠣は大好物だ。

 だが、今のLackだと当たりを引きそうで嫌だね。

 タイミングが悪いよ。


 ふーむ、どうしたもんかねぇ……うん?


挿絵(By みてみん)


 豆腐と、あなご。あなごかぁ!

 まさかこんな所で大好物の穴子にありつけるとはな!

 こんな店、おはらい町にあったのか!

 何々、この路地の奥だって?

 いつもは完全に見落としてた道だ。

 やっぱマッピングは奥が深いよ、ジュニア。


 で、こんな店構え。裏がすぐにいすゞ川とは、洒落てるねぇ。


挿絵(By みてみん)


「いらっしゃいませ!」

「一人」

「えーと……奥から2番目のお席へどうぞ!」


 ……川の反対側だ。幸先悪いな。

 まぁいいさ。あなご、あなごっと……


 おぉ……こいつぁすげぇな。


挿絵(By みてみん)


 これはうまい。絶対にうまい。

 限定のレアモンスターだ。

 ちぃとばかりステータスが高くて普段なら日和るとこだが、

 今日の俺はダンジョン帰りだ。


 お、こっちもすげぇぞ!


挿絵(By みてみん)


 こっちはまだステータスが低め。

 だが間違いなく経験値もドロップもいいぞ!

 うーん、やっぱり俺は冒険者だ。勇者じゃねぇ。

 こういう限定って響きが弱点属性なのさ。


「……だが、この店の名前は、とうふ屋なんだよなぁ」


 とうふ屋に来といてあなごだけ食って満足なんてのは、

 どこでも低確率で出るボーナスモンスターに飛びついちまうようなもんだ。

 悪いことじゃぁねぇんだが、ここまで来といて風情がねぇ。

 やっぱ豆腐は食わねぇとな。


 うーん、豆腐と穴子のセットは……

 お、あるじゃねぇか!

 そうそう! そういうのでいいんだよ、

 そういうのでさ。


挿絵(By みてみん)


「お茶になります。

 ご注文お決まりになられましたら……」

「なぁこの、限定のあなご飯は残ってるのか?」

「ん……あー! 申し訳ありません今日はもう終わっちゃって!」


 やっぱり今日はLackがない。

 こういう時に宝箱開けるとだいたいミミックなんだ。


「じゃあ炊き込み飯は……」

「そちらならございます」

「じゃあそれを……」

「ご注文はそちらのQRコードから承ります」

「…………」


挿絵(By みてみん)


 確かに世界は便利になった。

 特に世界の99%の魔法が使えなかったやつらにとっては、

 本当に便利な世界になったんだろうさ。

 鉄道女王様々だよ。ちくしょうめ。


「お待たせしました」


 お、来た来た!


挿絵(By みてみん)


「こちら豆乳なります。

 お食事前にぐいっとお飲みください」


 なるほど、ひとつひとつ説明してくれるのか。

 ありがたいが、そいつはおあずけってやつでもあるぜ。


「アナゴの天ぷらは塩で」

「ほう……?」


 やるじゃねぇの。

 塩で天ぷらを食うように勧める店は当たり。

 俺の経験則だ。


「豆腐の食べ方はそちらのカードをご覧ください」

「…………」


挿絵(By みてみん)


 なんかところどころ

 システマチックなんだよなぁ。


「ではごゆっくり」


 あ、他は説明しねぇのか。

 まぁいい。待て解除だ。食うぜぇ……!


「と、その前に、か」


 言われた通り豆乳とやらを、ぐいっと。


 うん、こいつは豆腐だ。

 飲む豆腐だ。

 程よく冷たい舌触りが、

 暑い中を歩いた体に染み渡る。


 わかる。俺にもわかるぜ。

 この濃厚なクリーミーさと深いうまみ。

 ここの店の豆腐は、いい豆腐だ!


「ということは、だ」


 お盆の上の豆腐に木のスプーンを伸ばして、ふと。


挿絵(By みてみん)


「カード、カードっと……」


 まぁ店のオススメの食い方には従う。

 それが口頭であれ、カードであれだ。

 俺の舌は俺が一番詳しいが、

 この店の料理はこの店のやつが一番詳しいのさ。


「まずはそのまま、か。通だねぇ。

 しかしその一手、悪手かもしれねぇぞ」


 何故なら俺は店のオススメに従い、

 最初に豆乳を飲んだ。

 ほぼ飲む豆腐だった豆乳をだ。

 ここで同じものを食えば、

 豆腐と豆腐でかぶっちまう。


 仮にここで、赤味噌の味噌汁で口をリセットしたり、

 我慢できねぇとアナゴの天ぷらに手を出すなら

 その戦術は問題ねぇんだ。


 だが、お前の豆乳はうますぎた。

 俺の手は真っ先に豆腐に伸びる。

 そして、どれだけうまかろうが

 続けて同じ味は退屈だ。


 それをわかって俺はオススメに従う。

 何故なら俺にとっての飯は、

 モンスターとのバトルに等しいからだ。

 正々堂々、正面からぶつかってやる!


 ……さぁ、どうなる!?


「……くそっ! やられた!」


挿絵(By みてみん)


 あぁ、同じ。確かに同じ味だ。

 違うのは粘度の差がもたらす舌触り。


 そして、()()だ!


 最初に勧めた豆乳は、夏の暑さに染み込む冷たさ!

 しかしこの豆腐は意図的にぬるくしてある!


 するとどうだ!?

 冷たいままさらりと喉を抜けた豆腐ジュースとは

 まるで感覚が変わってきやがる!

 しかもそれが、続けて食わされたことで

 明確な違いとしてわからされるってわけだ!

 そう、ここの豆腐は、本気(マジ)でうまい!


 完璧だよ……完璧な一手だ……!

 こんなの、自分の豆腐に絶対の自信がねぇと

 絶対に取れない戦術だ……!

 豆乳をくいっと煽らせ暑さで喘いだ喉を癒しつつ、

 こちらの次の一手を豆腐へと誘導する……!

 そこまで含めての戦術……!

 この俺が、こんなカードで、踊らされちまった……!


「……やるじゃねぇか」


 ぺろりと舌を出しつつ、もう一度カードを確認する。

 次は、塩をかけろと言ってくる。

 つくづく通な食べ方を推してきやがる。


 さぁどうなる?

 どうせその塩もただの塩じゃねぇはずだ。

 どう攻めて来ようが今度こそ……っ!?


「しまった! フェイントだ!」


 塩のかかった豆腐は当然しょっぱくなるはず。

 しかし予想が裏切られる。

 塩のしょっぱさを呼び水にして、

 豆腐の甘さを引き立てやがった!


「ということは……!」


 俺はもう一度何もつけずそのまま豆腐を食う。

 いや、違う。豆腐を食わされる。

 その味はさっきと同じはずなのに、

 俺にはまるで別に感じられた。


「甘めぇ……! 豆腐が、甘めぇ……!」


 それはまさにタツジンの演舞。

 すべてが予定調和、

 ゆっくりと流れるような組手、

 俺は当然避けられるしカウンターだって入れられるはず。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 ジュードーやアイキドーのように、

 こちらの力や勢いを使われたわけじゃねぇ。

 本当にスローモーションのようなゆっくりとした動き。

 それでこの俺の巨体が宙に浮き、

 まるで重力魔法を逆使われたようなありえない対空時間を経て、


「ズドン!」


 と、畳に仰向けで叩きつけられた……!


「タツジン……こいつは、タツジン豆腐だ……!」


挿絵(By みてみん)


 だがそれでも、俺は食通だ。

 ありがた迷惑にも勇者の剣を押し付けられた、

 勇者になったかもしれない男だぞ……!

 されるがままで、いられるわけがねぇ!


「次はどう来る!?」


 カードを見ると、3番目が最終フェイズ。

 青ネギと生姜、そして甘醤油で食えとの指示だ。


 それならいつもの冷奴だっ!

 この人生で何度も食ってやった、

 ただの冷奴でしかないっ!


「そらみろ冷奴だっ!」


挿絵(By みてみん)


 予想通り! すべてが予想通り!

 タツジン豆腐も薬味に塗れれば

 もうただの冷奴でしかないってことよ!

 最後は俺のっ! 勝ちだ!


「……うまかった」


 すぅ、と胸を撫で、勝利の余韻に浸……


 あ。


 あああああああああああああああ!?


「どうなってやがる!?」


 ありえないありえないありえない!

 

 何がどうあり得ないかって、お前……


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()


挿絵(By みてみん)


「てめぇどんな魔法をつかっ……!?

 ちくしょう! もう豆腐が残ってない!!」


 巨漢の竜人にして勇者になれたはずの男。

 かつ、自他共に認める食通、セドア・ジュダ。

 たった一皿の冷奴に、


挿絵(By みてみん)


「……だから俺に師匠ヅラなんて向いてねぇんだ。

 やつらも俺なんか相手の演舞に手も足も出ないでいるんじゃねぇ」




 ――俺より強いやつが、こんな近くにいるんだから、よ。

 

 


――ジュダァ~♪


♪~軽快なジャズのイントロ


――ジュダァ~♪

  ジュダァ~♪


  りゅ・う・ゆう・しゃ! 

  Foooo!!


  ジュダァ~♪


――ジュダァ~♪

  ジュダァ~♪


  りゅ・う・ゆう・しゃ! 

  Foooo!!


  ジュダァ~♪


※この小説はフィクションです。


╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋


――15時20分「うらかぜ」バト発


「わぁ……きれいな海!」


 アナスタシアは血の涙を飲んで窓際を譲っていた。

 一方のマールは自分が窓際なのは当然と言わんばかりに窓にへばりつき青い海を堪能している。


「……本当に、綺麗」


 しかし今、アナスタシアは窓際を譲って良かったと思っている。

 海の青と、マールの髪のライトグリーン。

 そのコントラストは、窓際席からは見られない景色だったから。


「ほらアナスタシアさんももっと近くで!」

「あっ! ちょっ……!」


 腕を強く引っ張られ、2人の体が重なる。

 目の前には窓ガラス1枚を挟んで青い海。

 海の潮の匂いはしないが、森の朝露の匂いはしている。

 そして同時に視界の前をぴこぴこと横切るのは、エルフの耳。


(耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい耳食べたい)


 だらしなく開くアナスタシアの口。

 流れかけてしまうよだれ。


「うん……?」


 そこでマールが振り向き。


「あっ、ちがっ、これは、その、いや!」


 フローレス・フローズンの白いドレスは決して敵の返り血で汚れない。

 しかし自分のよだれでは汚れる。

 まるで子供のように袖で口元を拭いた彼女は、どこか愛しげな表情で笑われてしまい。


「ふふっ、ごめんね。

 そうだよね、まずは……

 食堂車だよね!」


 一人旅より二人旅。

 理由は当然、食事を1品多く注文できるから。


 しかし「うらかぜ」のメニューは3品。

 定番の松坂ミノタウルスカレー。

 そんな松坂ミノタウルスの肉を豪華に使用した牛重。

 そして「うらかぜ」の車内で海の香りを楽しめるシンのシーフードピラフだ。


「……アナスタシアさん、結構食べる方?」

「すみません。マールは?」

「ここ最近ずっと少食で……それで。

 どれ、諦めようか」


 ミノタウルスの皿を前にカンビュセスの籤を迫られたアナスタシアは決意した。

 次は、赤ちゃんを創造つくってから来よう、と。

普通 7両 9月15日10時20分 勇者の駅弁 ~Season1~「無効耐性貫通の氷魔法」

普通 7両 9月15日22時20分 勇者の駅弁 ~Season1~「ロールプレイング」


第9号到着 9月16日22時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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