「勇者のクエスト」
この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。
♪~軽快なジャズミュージック
「何年ぶりだろうねぇ」
参拝客で賑わうメインストリートを眺めて。
「前の式年遷宮を見に来た時以来か」
風呂敷を首に巻いた犬が足元を横切る。
『だからジュダさんにしか頼めないんですよ!』
助っ人を依頼されたのは、3日前のことだった。
溜まってる依頼もなかったし、久々にお守りの変えも欲しかったんで、
俺はこの『神殿』までやってきた。
「よしよし、頑張れよ」
「わんっ!」
犬を撫でて風呂敷に紙幣を1枚ねじ込む。
クエストってのはある意味で言えばお使い。
俺とこいつは同じようなもんだ。
それに、お嬢に頼まれなければ俺は今ここにいねぇ。
ある意味俺もお嬢の「おかげ」でここに来てるってこと。
「わんわんっ!」
「お、なんだよ」
犬が仕切りに背中の風呂敷をアピールしてきやがる。
カネをねじ込む時にうっかり縫い目をほどいちまったかと不安になって中を確認すると。
――次の方、もし気付かれましたらご自由にお持ちください。
「わんっ! わんっ!」
「今どき粋なはからいだねぇ」
俺は笹にくるまれていた団子を手にとり、そのまま口に運ぶ。
ぱさぱさに乾いた団子に甘いタレが絡んで、これもまたヨシ。
うん、うまい。うまいんだが。
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
俺の前でおすわりしてじっとこっちを見る犬の顔を見て軽く冷や汗。
「わりぃが鬼退治なら別をあたってくれ」
「くぅん……」
尻尾をまるめておかげ横丁を進む犬を、しばらくそのまま見送るのだった。
レベルやギルドにとらわれず――
幸福に空腹を満たすとき――
束の間、彼はひとりよがりになり――
『勇者』になる。
誰にも邪魔されず、気を使わずにものを食べるというソロの行為。
この行為こそが、冒険者に平等に与えられた――
最高の『報酬』と言えるのである。
勇者の駅弁~Season1~
第1話:伊勢おはらい町のとうふ屋(前)
「ここだなぁ」
現地ギルドの前の看板を渋い目でちらり。
拳闘士と狂戦士と付与術師の大活躍!
「…………」
そのパーティ編成はダメだろ。
「行くかぁ」
俺は助っ人を頼まれたギルドの門をくぐった。
「あらま! あなたがフリーの! わざわざ申し訳ありませんわねぇ。そっちの受付に紹介されてステータス画面を見たんですけど、もうすっっっっごくスキル選択がよろしくてらして! あっ、アライメントも揃えようと思ってたんですが、なかなか命乞いされた時に同じこと考えてくださる方が見つからなくて困っててぇ……そんな時でしたからもう、うれしくてつい甘えちゃって!」
「あー……俺は……」
「そうそう大剣! 今どき珍しくて! いつもは初期ステが高い方が来るまでチェンジを繰り返すんですけぢ、今回はわざわざそちらの受付嬢さんに紹介して来ていただいて!」
「いや、近くに、ちょうど……」
「やぁっぱり経験のある方じゃないと何だか不安でぇ。性格が決まってステータス見たら『あらやだタフガイと違う!』みたいなのよくあるじゃないですか、あぁでもあなたはそんなことないですよ! ほんとHPが多そう! 戦士の方でしたよね?」
「重……」
「そうそうそうそう重戦士! 私が思ってたイメージそのままですわぁ、ほんとステキ! 私ね、昔(リメイク前)から初期メンバーはタフガイが本当に好きだったんですよあぁ今はタフネスって言うんでしたっけごめんなさい私ったら! あなたもなかなか筋肉がいい感じだし、それからもうほら、鎧もご立派で! この前衛適正がいいですよねぇ。それにしてもすごいですねぇ、ジュダさん」
「えっ?」
「ほら、かなり長くやってらっしゃるんでしょ? このお仕事」
「まぁ……」
「大変でしょうねぇ。ソロで冒険者やられるなんて、私本当に尊敬しちゃいますわぁ。ほら、いろんなところでお使いを押し付けられたりしますし。他にもいろいろご苦労おありなんでしょう?」
「ははっ……」
苦労? 今の状態だよ。
「で、うちの魔物使いのぉ、新しいお見合い相手がほしいんですけどぉ」
今度はモンスターズかよ。
「あの、こう、獣系……あっ! ジュダさん?」
「あぁ、はい」
「おほほ……うちの魔物の! 新しいお見合い相手が、ほしいんですよ! ドラゴン系の!」
「モンスター育成はやってなくて……」
「あぁ……」
「あの、そろそろいいか?」
「あらっ! やだ私ったらつい話しすぎちゃった! やーだもうジュダさんったら無口で聞き上手なんだから! そうやってじーっと見られちゃうと (何が聞き上手だよ……) あぁ私普段はこんなに喋られないんですよそうだこの後ぱふぱ……」
――ダンジョン攻略後
「今回はありがとうございました!
それじゃぁジュダさんまた是非今度お願いします!」
「あぁ、はい。わりぃな。失礼させてもらうぜ」
「またね~」
……はぁ。今度はねぇよ。ちくしょうが。
お嬢、帰ったら同じようなうざ絡みで文句言うからな。
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――14時55分「うらかぜ」ウーガタ発
「『うらかぜ』ってベースは金鉄Type21020なんだよね」
「ですが1つのVVVFインバータで2つのモーターを制御し騒音の低下を実現させています」
「クリムゾンアローのうるささも最高だけど、これはこれで!」
「加速性能も悪くないようですが、そもそも加速しているかどうかもわかりませんでしたね」
「流石観光特急。乗客の乗り心地に全力を振ってるんだね」
いろいろ積もる話はあるのだが、まずは鉄オタとしての車両への挨拶から。
((はぁ……))
並んだ座席に同時にため息がこぼれ。
((さいっこぉ……!))
同時にトロ顔を晒すのだった。
普通 7両 9月14日22時20分 勇者の駅弁 ~Season1~「タツジンの演舞」
普通 7両 9月15日10時20分 勇者の駅弁 ~Season1~「無効耐性貫通の氷魔法」
第9号到着 9月16日22時20分
最終話到着 9月26日22時20分
駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。
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