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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第8号:三線軌条で繋がるセカイ

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「『ファン・ライン』~異世界鉄道物語~ 完! HAPPY END」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

 鉄道に深い憎しみを燃やす魔王軍残党。

 だが、その最終目的は世界の覇者として

 魔族が人間を恐怖で支配するシステムの再構築にある。


 魔王様は滅びたとて、まだその血を引く姫様、アナスタシア様がいる。

 姫様は美しすぎて初見の威圧感に欠けるという新魔王としては大きな問題がある。

 しかし、笑顔の姫様が生きたまま人間を解体されていく姿を見せられれば、

 いかに愚かな人間とはいえ姫様が本物の魔王であることを理解し恐れひれ伏すことになるだろう。


 我らが目指すはそんな恐怖の時代。

 鉄道は完膚なきまでに破壊するべきとはいえ、

 これは来たるべき時へと向かう大いなる「道」の中では寄り道にすぎない。

 それはすべての魔物と魔将軍達の共通見解だった。


(聖地コーヤ襲撃計画……)


挿絵(By みてみん)


 戦略将から提出された計画書を、アナスタシアはつまらなそうに眺める。


(個人的にはもっとプライオリティが高いものがあると思うのですが。

 特に、ずさんな線路補修が目立つようになってきたファン・ライン職員への『教育』です。

 壊れかけの線路の上を走らされる車両がどれほど危険なことを示す。

 片腕片足をもぎ取り全身の骨という骨を粉砕した人類種の体を

 ロープで繋いで作った橋の上を渡らせる『教育番組』をテレビ放送するとか……)


 それもそれで魔族の恐ろしさを知らしめるという意味では絶大な効果を発揮するだろう、が。

 職員の多くが恐怖で辞表から提出する結果を想像し首を振る。

 本当に人類種の心は愚かで脆い。

 子どもの頃お父様といっしょに見た魔族の教育番組を見たら

 下手な人間はショック死するのではないだろうか。

 魔法電子レンジの使い方を教えるため、

 中に人間を入れてマイクロ波を照射するとどうなるかをおねえさんが

 笑顔で教えてくれる内容だったのだが。


(はぁ……)


 改めて書類を確認。

 確かに今の魔王軍が掲げる最終目標は新たな世界秩序の形成。

 そのためには、鉄道ばかりをうつつを抜かしても心証が悪くなる。


「承認します」

「ありがとうございます!」

「人類種が崇める偽りの神を貶め、奴らの信仰を恐怖で上書きしなさい」

「はっ!」


挿絵(By みてみん)


 実際このアナスタシア、鉄道さえ関わらなければ

 魔王としてこれ以上にないほどに完璧な逸材。

 その残虐非道さは、5000年にわたり世界を支配した

 父、魔王ノヴァに勝るとも劣らない。

 鉄道がなければ、本当に人類種にとっての最悪の天敵、

 悪夢の象徴となれた存在なのだ。


(さて、聖地コーヤといえばコーヤ電鐵騎士川線……

 でもこれだけ距離が離れていれば大丈夫ですよね……

 久しぶりにタマちゃんにご挨拶しにいきましょうか。

 ……あっ、コーヤ電鐵騎士川線の路線図……とても綺麗です……

 今夜は一晩この路線図でうつつを抜きましょう……ふふ、ふふふ……)


 本当に、鉄道さえなければ。


╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋╋


 聖地コーヤと珠駅の直線距離は27km。

 しかもその間には山を2つ挟んでいる。

 この距離ならば作戦行動中の魔物達に気付かれることはなく、

 逆に万が一のイレギュラーが発生した際にも

 可能な限り早く現場にたどり着くことが可能。

 魔王の娘としても、電車娘としても、

 両方の目的を睨むことができる完璧な位置!


(私は魔王の娘です。

 たとえ鉄道を愛していようとも、己の立場を忘れることはありません)


 ※本人談。


 そもそも現場で見守るのではなくこんなところで電車と駅と

 白いもふもふの写真を撮っている時点でお察しである。


(そう、忘れることはない……

 忘れてはいけない……

 できるだけ忘れない……)


 なんと弱々しい三段活用か。

 一応本人も自分のドの超えた鉄道愛が、

 魔王としてあるには邪魔なことは理解しているらしい。


(でも魔族や人類の存続よりもローカル線の存続の方がプライオリティが上……

 『悪いのは』すべて魔族と人類……私は当たり前のことをしているだけ……)


 いずれアナスタシアは事実上、魔族を滅ぼすだろう。

 しかしそれは人類のためではない。鉄道のためだ。

 ここまでにその残虐非道が人類に向けられていないのは、たまたまでしかない。

 例えば、もし、最高の鉄道会社(ファン・ライン)を最悪と呼ぶような輩を前にしたら……

 

(それにしても素敵な無人駅……)


 ほっ、と蕩けたため息をこぼし。


「ころころっ」

「えぇ、もちろん。

 あなたも可愛らしいですよ」


 白い生き物にも笑顔を向けて写真撮影。

 フラッシュは当然オフ。

 餌も差し入れない。

 当たり前のマナーである。


「早速SNSに投稿、と」


 一言コメントをつけてSNSに投稿。

 タイムラインに時間が記録される。

 ちょうどそのタイミングでホームに入ってくる車両。


「最高のアングルです……!」


 舌の根も乾かぬうちに我を忘れてシャッターを切りまくるアナスタシア。

 そんな彼女は、背後から忍び寄る黒い影に気付かなかった!

 その黒い影の主は最後にもう一度SNSの投稿時間とそのアングルを確認してから。


「あの……電車娘さん! だよね!?」

「えっ……」


挿絵(By みてみん)


 アナスタシアは自分の耳を疑った。

 何度も聞いたことのある透き通る声。

 彼女がニュースに出た時の少ない音声を切り取って編集した夜がフラシュバックする。

 勝手におしゃべりメーカーを作り、

 K急800型とデュエットさせたこともあるのだから聞き間違うわけがない。


 まさか、まさか、まさか、まさか!


 顔の表情筋をひくつかせつつゆっくり振り向いた、そこにいたのは間違いなく。


「鉄道、女王……」


挿絵(By みてみん)


 それはお父様の仇。

 すべての魔物の怨嗟の終着駅。


(嘘……どうして……)


 そして、この世界に神を産み落とした聖母……!

 ずっと恋い焦がれてきた、憧れの……!


「電車娘さんだよね!?

 私、あなたのファンなんですっ!」

 

 階段を駆け下り一気に距離を詰めた憧れの女王の手が今、

 自分の冷たい両手をがっしりと包みこんだ。

 一見素肌をさらしているように見えるが手に伝わってきたのは

 金属と絹が混ざったような奇妙な感覚……どうして?

 いや、そんなことはどうでもいい!

 私は、今……


(鉄道女王に、手を握ってもらっている……!)


 あまりの衝撃でとびかけるアナスタシアの意識。

 もう何もわからない。

 今、鉄道女王は何と言った?

 ファンと言ったのか? あぁ、ファン・ラインの……


 いや、それもどうでもいい!


 相手は「あの」鉄道女王だ。

 お父様の仇で、すべての魔物の怨嗟の終着駅で、

 この世界に神を産み落とした聖母で、

 ずっと恋い焦がれてきた憧れの相手。

 こんな千載一遇の好機、もう二度と訪れるかもわからないのだ。


 ならば今、自分がすべきことは、ひとつしかない。

 このまま! この瞬間に!




――魔王の魔力、すべてを叩き込む!




「好きです。結婚してください」

「うん! 喜んで! ……うん?」




 ファン・ライン ~異世界鉄道物語~ 完!

 ~HAPPY END~


挿絵(By みてみん)

普通 6両 9月12日10時20分 三線軌条で繋がるセカイ「暴走特急は脱線程度じゃ止まらない」

普通 6両 9月12日22時20分 三線軌条で繋がるセカイ「出発点呼」


第8号到着 9月13日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

座席の予約は「ブックマーク」「評価」で。

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