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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第8号:三線軌条で繋がるセカイ

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54/85

「ただの野良猫だった吾輩が突然駅長に任命されたら2兆円稼いで爵位を授与された挙げ句に神になった件」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

 聖地コーヤの成立は今をさること1000年前。

 信仰の道として深い森の中には石畳の巡礼路が整備されていた。


 コーヤ電鐵はその巡礼路に軽便鉄道を敷く形で設立された新進気鋭の民間私鉄。

 だが、当初の予測に反して収益は伸びず、

 開通の翌年にはこの路線「騎士川線」の廃線が検討されるという

 最悪のスタートダッシュを切っていた。


 そんなコーヤ電鐵に契機が訪れたのは、ある日のこと。

 ヤタガラスではなく閑古鳥のなく珠駅。

 駅員の常駐しない無人駅だ。


 珠駅前売店の売り子マホは飼い猫のミィをぼんやり撫でつつ、

 いつもと同じ鬱屈とした1日をはじめようとしていた。

 そこへ聞こえてきたのは1日1回の施設点検のためやってくる隣駅の駅長の足音。

 彼が普段とは違い目を輝かせての軽快なルンルンスキップでやってきたのだ。


「駅長さん、今日はなんか元気ですね。

 なにかいいことでもあったんですか?」

「おぉ、マホちゃん! そうなんだよ!

 聞いてくれよ! 今日ね、いい夢を見たんだ!」

「夢? もしかしてヤタガラス様でも舞い降りたんですか?」

「あー、うーん、確かにヤタガラス様かもしれないな。

 飛んでたし……でも、姿はよく覚えてないんだよなぁ……」

「まぁ夢なんてそんなもんですよね。

 で、なんでいい夢だったんですか?」

「いや、それもよく覚えてないんだけど、とにかくいい夢だったんだよ!

 それで最後に、何かをもらったような……」


 首をかしげるマホ。

 よくわからないが、人の夢の話なんてだいたいそんなもの。

 それよりも、ここ最近は1日ずっとため息をついて過ごすだけの

 隣駅の駅長さんが元気なことが何よりだった。


「駅長さんが元気だとうれしいねぇ、ミィ」

「ミィー!」


 尻尾のつけねをトントンしつつ、ほっこり笑顔。


「まぁいいや。では今日も1日、お仕事がんばってくださいね」

「あぁ! 今日はなんだかいいことがあるような気がす……うぉっ!?

 な、なんだこれ!?」


 駅構内から突然響いた駅長さんの叫び声に驚いたマホは、

 ミィを定位置でもある服のおなかポケットに入れて売店を飛び出す。


「一体どうしたんですか!?

 って、なにこれぇ!?」


 廃れた駅構内に鎮座していたのは高さ60cmの巨大な卵。

 こんな大きな卵は見たことがない。


「こ、これ、何の卵ですかね?」

「わからん……モアの卵より大きいよなこれは……」

「ど、どうするんですこれ」

「むむむ……とりあえず待合室の端っこに運ぶか……」


 卵の重さは4kg程度。

 殻はほんのり温かな感じがするような気がする。

 駅長は耳を当ててみるものの、何も聞こえない。


「こういうのは、温めた方がいいのか?」

「え、えぇ!? いや、私はわかんないですよぉ!」

「ミィ!」


 慌てる2人の前で猫のミィがポケットから飛び出し、

 ちょこんと卵の上に座って前足で香箱を作った。


「……任せていいのか?」

「いや猫は卵産みませんしミィはオスですよ」

「でも任せるしかないよね?」

「うーん……ミィ、大丈夫なの?」

「ミィー!」


 こうしてとりあえずダメ元でミィに任せることにして、早半年。

 卵はうんともすんとも言わないものの、

 ぼんやりとした温かな感覚が途絶えることも、

 ミィが卵の上で香箱を作るのをやめることもなかった。


 一体この卵はいつ生まれるのか。

 むしろ、卵が生まれるよりもこの路線が廃線になる方が早いのではないか。

 そんな声も囁かれる、ある日のこと。


「ミィ! ミィミィ!」

「あれ、ミィどうしたの?」

「ミィー!」

「なんだろ、ご飯はもう食べたよね? うーん……」


 首を傾げつつミィの尋常でない様子の原因を探るマホが見たのは、

 割れた卵とその場に散らばった殻のかけら。

 そして……


「ころっ」


 まるで丸い玉のような全身まっしろの謎の生物だった。


「なに、この生き物……」


 見たことはない。似たような生き物も知らない。

 鳥のように見えるが丸々と太っていて飛べる気配がない。

 しかも尻尾のよなものがついている、まさに正体不明の謎生物。

 だが、堂々とした落ち着きというか不遜というか、

 ともあれどっしりとした大物感は漂っていた。


挿絵(By みてみん)


「むぅ、これが生まれたのか」


 マホに呼ばれた隣駅の駅長も謎の生き物を前に首を傾げる。


「これ、なんだと思います?」

「わからん……足は2本だからヤタガラス様ではないようだが……」

「それで、どうしましょう、この子」

「うーん……」

「私としては親もいないし行く宛もないしミィもなんだか気に入ってるので、

 できれば駅に置いてほしいんですけど……」

「むむむ……」


 衛生面の問題もあるし、駅で生き物を飼うことはあまり良いとは思えない。

 なにより正体不明の生き物。

 一体どれだけの大きさに育つのかもわからない。


(しかし……)

「ころっ」


 まるまるとした謎生物を正面から見つめて思う。


(なんと堂々とした佇まいだ……

 落ち着きもあるし、触れてモフモフしても怒らない……

 お客様に危険が及ぶこともなさそうだが……)


 しばらくモフモフを楽しみつつ悩んだ後に。


「駅に置くなら、駅のために働いて貰う必要がある」

「え? いやいや、言葉も通じないですし、働くって一体何を……」

「ここは無人駅だったからな。駅長を、やってもらおう!」

「え」


――えええええええっ!?


 後に珠駅のタマちゃんと名付けられた謎の生物は、

 駅長タマちゃんとして華々しいデビューを飾ることに。

 癒し系な見た目のもふもふを一目見ようと観光客が訪れ、騎士川線も黒字化。

 そして、今に至るという流れである。


「はぁ~、早く本物のタマちゃんに会いたいなぁ」


 スマホの映像と車窓からの風景を交互に目をやるマール。

 ストレス回復は仕事のことを全部忘れて楽しむことが大切とされ、

 この「全部忘れる」のがなかなかに難しかったりするのだが。


 このエルフ、ぐうたら休む才能がありすぎる。

 流石天才なのか、それともただ責任感がないだけなのか。

 少なくとも政治とか企業経営とかはやらせちゃいけなかったタイプであることは間違いない。


「うん? えっ!? 嘘!? 嘘でしょ!?」


 そこで突然スマホを見て騒ぎ出すマール。

 SNSのタイムラインの中で彼女の目にとまったのは。


――今日はコーヤ電鐵の騎士川線に乗ってます!

  このままタマちゃんにも挨拶してきます!


 それは完全な偶然。

 今までずっとネットを通しての片思いだった人物。


「電車娘さんが、来ている……!」


 魔王を倒した英雄、鉄道女王、マール・ノーエ。

 鉄道に倒された魔王の娘、フローレス・フローズン、アナスタシア・ノヴァ。

 ついに2人のダイヤグラムが、クロスする。



☆☆☆主信号、赤! 自動列車停止装置(ATS)起動!☆☆☆



「あー! いいとこで止めてくれて!

 もう! はい! ぱぱっと解説しますぱぱっと!」


 しっかり仕事をこなすのはいいのだが完全に公私混同である。


「なんだか冒頭で毎回ローカル私鉄の話をするのがお約束みたいな流れになってますが、

 今回もせざるをえないですね。

 今回紹介するのは和歌山電鐵貴志川線。

 和歌山県の和歌山市から西に伸びる14.3kmの超ローカル路線です。

 1913年に敷かれた山東軽便鉄道が起源で、後の1931年に和歌山電鉄に社名変更。

 ここちょっと名前が似ていてややこしいですが、1957年に和歌山電気軌道という別の会社に合併。

 そして1961年には今にも残る南海電気鉄道に合併します。

 南海はあの青い特急、ラピートで有名ですね」


「しかし案の定の赤字路線で、2004年に廃線……

 と、なりかけるも地元の方々の努力が結実し、

 2005年に今の和歌山電鐵を新たに設立して独立。

 いちごをモチーフにしたラッピングのいちご電車や、

 車両の中におもちゃを並べたおもちゃ電車など、

 地元と一心同体になっての経営努力で『日本一心豊かなローカル線』を目指して努力を重ねていきます」


挿絵(By みてみん)


「そんな和歌山電鐵で起きる奇跡のはじまりは1999年のこと。

 無人駅だった貴志駅近くをふらふらしていた野良猫の『ミーコ』が、4匹の子猫を妊娠します。

 この4匹のうち、1匹は残念ながら早くに虹の橋を渡り、

 2匹は人に引き取られ、残った1匹が『たま』と名付けられます。

 後に『ちび』と名付けられた野良猫を加えた3匹家族は、

 売店の隣に作られた猫小屋で地域の人たちに愛されながら育つことになります」


「しかしこのタイミングで南海電鉄が貴志川線の廃線を決定。

 これは和歌山電鐵に引き継がれるも、引き継ぎに関わる区画整理で

 猫の家族の小屋が取り壊されて駐輪場にされてしまうというピンチに。

 どうにかできないかと和歌山電鐵の社長に相談すると、

 駅に住まわせる条件として3匹のうち一番堂々として大人しい『たま』を貴志駅の駅長に任命します」


挿絵(By みてみん)


「社長としてはただ駅にいるだけの招き猫になってほしいというだけで、

 猫の家族を助けるためのちょっとした抜け道のようなつもりだったのですが、

 この『たま駅長』の就任式典がニュースになると、

 全国からたま駅長を一目見ようと観光客が殺到。

 後にスーパー駅長、ウルトラ駅長と出世するたまは、和歌山電鐵再生の立役者となり、

 たま1匹による経済効果は一説によると2兆3162億円とも」


挿絵(By みてみん)


「たまは和歌山県の県民栄誉賞にあたる和歌山県勲功爵第一号に選ばれ爵位を授与。

 2015年には惜しまれつつ虹の橋を渡ることになるも、この際は駅の隣に神社が建立され、

 駅長、スーパー駅長、ウルトラ駅長、爵位授与、神格化という

 まさに異世界転生者のようなチート活躍をしてしまうのでした」


挿絵(By みてみん)


「現在のたまの居た貴志駅には2012年に生前のたまから代役に任命されていた

 『にたま』が駅長を務めており、彼女も順調に出世。

 2021年に爵位を授かり騎士号を授与され、2022年には和歌山電鐵の社長代理に。

 12歳と高齢を迎えていることもあり、現在はたま神社の宮司として穏やかな日々を送っています。

 2025年、貴志駅の駅長はどこからともなく現れたかぎしっぽの『ごたま』が

 今年の1月から努めており、彼女が作る新たな物語はまだ発車したばかりのようですね」


挿絵(By みてみん)


「これら猫駅長の活躍は事実ですが、

 和歌山電鐵の再生に関してはただ幸運の猫によってもたらされただけのものではなく、

 たまが駅長に就任する以前からはじまっていました」


挿絵(By みてみん)


「鉄道会社と地元が一帯となって努力し人事を尽くした結果、

 そこにたまという天命が訪れ最高の結果を迎えた。

 これこそがローカル鉄道が目指す究極。

 たまの活躍はたまたまということです」


「……たまだけにね!」(どやぁっ)


挿絵(By みてみん)


 …………


「……はい。ともあれ、赤字路線再生のシンボルとして私もたま駅長を拝んでおきましょう。

 私は数千年先まで虹の橋は渡れませんので」


挿絵(By みてみん)


「あとは小ネタをささっと。

 うちと国鉄の話はもうしたくないです。次」


「K急にロマンスカーが導入されてますが小田急の因子も入ってたんですね。

 まぁロマンスカーという名前は小田急の専売特許ではなく、

 最初にこの名で宣伝を行ったのは1927年の京阪ロマンスカー。

 東武のスペーシアも元はロマンスカーであり、小田急だけのものになったのは

 他の鉄道会社が『ズームカー』『ビスタカー』『パノラマカー』などの名称に切り替えた結果

 小田急ロマンスカーだけが最後に残ってしまったというのが鉄オタ豆知識です。

 それでもあの先頭車両は小田急ロマンスカーの素晴らしさですけどね。次」


「京急の無茶苦茶が京急クオリティと呼ばれ愛され運転主任さんが

 アイドル化したのはネット掲示板文化を引き継いだニコニコ動画からでしょうか。

 今ではSNSの日常風景でもありますね。次」


「盟主の鉄道『盟鉄』は名古屋駅のDJブースが有名な天下の名鉄。

 マークがショートボウの『半弓』は宝塚歌劇団や33-4で有名な阪急。

 全駅どこでも記録できる『セーブ』は1万系特急小江戸の抵抗制御音がクセになる西武。

 軍師の経営判断が見事な『英断』は東京メトロの前身外国人に路線図を見せると発狂する営団地下鉄ですね。

 はい終わり! 続き! 続きです!」



☆☆☆主信号、青! 運転再開!☆☆☆

普通 6両 9月11日22時20分 三線軌条で繋がるセカイ 「『ファン・ライン』~異世界鉄道物語~ 完! HAPPY END」

普通 6両 9月12日10時20分 三線軌条で繋がるセカイ「暴走特急は脱線程度じゃ止まらない」


第8号到着 9月13日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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