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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第7号:時刻表の隠しイベント

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「本物の天才」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

「ただいま戻りました!」

「おかえりヴィクトリア!

 ずっと心配していたんだ!

 さぁ、いつものようにただいまのキスを……ん?」


 最愛の妻の帰宅に歳を忘れて新婚ラブラブオーラを出しかけたオオタニだが。


「あ、その、ごめんなさい。

 おかまいなく」


 彼女がお姫様抱っこの形で抱えていたエルフと目があい。


「……い、いや、失礼。

 えっと、君は?」

「ご存じないんですか?

 秘境駅のエルフアイドル、カナンさんです」

「ど、どうも……」

「あ、どもども……」


 ここでようやくカナンが床に下ろされる。

 オオタニはカナンにぺこぺこと頭を下げてからヴィクトリアの耳を引っ張って。


「誰!?」

「ですからカナンさんです」

「そうではなくて!」


 やはりこのヴィクトリアもどこかズレている。

 哀れオオタニ=サン。


「お、やっと戻ったかコタニちゃん」

「主任! ただいま戻りました!

 それで、主任に見ていただきたい物が!」

「おん?」


 首をかしげる主任を相手に夫を置き去りに話を進める。


「VVVVFインバータ?」

「はい。生命力(Vaitality)可変(Valiabule)電圧(Voltege)可変(Valiabule)周波数(Frequencly)インバータ制御。

 ミスリル加工技術を利用した、

 魔道士の魔力を最適な形で最効率変換調整するシステムです。

 本来はミスリス製のマジックウェポンにのみ使用されている技術ですが、

 このシステムを応用すれば、新たな電圧制御システムが構築できます。

 魔力の変換はミスリルが必須ですが、それを省けば一般金属で問題なく、

 単純な電圧制御に魔力は無関係。

 よって頭のVを1つ取り、VVVFインバータ。

 これを用いれば、電気式モーターを一瞬で最速、最効率で加速させることが可能です。

 つまり……」

「これまでにない加速性能の電車が作れるってことか!」


 自身のアイディアを語るカナン。

 あまりのブレイクスルーに興奮する主任。

 回路図は書けるかと問うた主任にカナンは軽く首を縦に振った後、

 とろんとした目付きで軽いトリップ状態に入り、

 ミスリル冶金スキルですべての過程をスキップして

 その回路図(こたえ)のみを描いた。

 これにはもう主任も狂喜乱舞である。


 天才は、いる。これが、本物だ!


挿絵(By みてみん)


 見守るヴィクトリアは何が何だかわかっていないが、

 何故かどや顔でうんうんと首を縦に振る。

 一方、地味に頭の良いオオタニは冷静に考える。


(名前が直訳すぎないか? いくらなんでも英語としておかしくないか?

 VFD(variable-frequency drive)の方がよくないか?)


 仕方ない。そのエルフにはセンター英語で平気で0点を取る。

 なんとなくVが並んでカッコイイくらいしにしか考えていないし、

 よく見れば上のルビもすべてスペルが間違っているのだ。


「ん、いや、つーかコタニちゃん。

 このべっぴんさんとはどういうご縁で?」

「あぁ、まぁ、話すと長くなるんですが……」


 ちらりと目を向けると、カナンはぺこりと頭を下げて。


「安心安全の快速特急に載せていただいたお礼です。

 聞けばK急は安心安全に加えて最速を目指しているとか……

 ならば、この技術。是非、使ってください!」


 こうしてK急は世界初のVVVFインバータ制御技術を獲得。

 電車開発でファン・ラインを追い抜いたのだった。



☆☆☆主信号、赤! 自動列車停止装置(ATS)起動!☆☆☆



「ふむ……」


 マールは真顔で興味深そうに頷いて。


「アイコラ。そういうものもあるんですね。

 私も後でアナスタシアさんでやりましょう」


 このエルフはもうダメだ。


「あ、まずは解説でしたね。

 今回は時刻表トリックの話題が出ましたね。

 時刻表トリックといえば……

 と、ここで推理小説の名前をあげてしまうと、

 そもそもトリックのネタバレになってしまうわけで。

 私達鉄オタの場合『そういう時刻表トリックもあるのか!』と中身に感動するわけですが、

 一般人の場合はそもそも『時刻表トリックでした』で十分なので、

 やはりネタバレをするわけにはいかないんですよね。

 まぁ、鉄道ミステリーの元祖であるアガサ・クリスティーと、

 時刻表トリックの大御所である西村京太郎の名前ならあげても良いでしょう。

 これ以上はご自身で」


「それで、今回アナスタシアさんが使った時刻表トリックの鍵が2つ。

 ひとつ目の元ネタは、新幹線を利用した貨物輸送サービス。

 これは現在JR各社で試験運用されており、JR東日本の『はこビュン』

 JR東海の『東海道マッハ便』JR九州の『はやっ!便』などがあります。

 今はもう行われていないあの『シンカンセンスゴイカタイアイス』をはじめとした

 商品を売っていた車内サービスのための倉庫で貨物を運ぼうと考えたのがきっかけ。

 新幹線は速度が唯一無二だったこともあり、最近は貨物輸送専用の便も登場しています。

 アナスタシアさんはこれに似たサービスを使い

 『自分は貨物だ』と主張することで本来は使えない超高速列車に乗ったわけですね」


「…………」


「それは時刻表トリックとしてアリなんでしょうか?」


「まぁアナスタシアさんなのでOKです。

 で、もう1つがK急の逝っとけダイヤ。

 人身事故などのトラブルで列車が止まった際にも、

 とにかく限界まで電車を走らせるK急の無茶苦茶なダイヤの愛称ですね。

 実際こんなん使われたら優秀な日本の警察でも撹乱されそうです」


「そしてついに、K急がVVVFインバータ制御技術を手にしました。

 今までVが1つ多かったところに首をかしげていた人もここで納得していただいたはず。

 この技術の仕組みを語ると鉄道ネタというにはだいぶ工学的な話になってしまうので省略しますが、

 まぁとにかくすごく速く加速するためのシステムと認識いただければと」


「別段この技術自体は国鉄時代から使われ始め

 JR以外でも電車なら当たり前に使われている技術です。

 そんなVVVFインバータが稼働する際にはかなり大きな音が出るのが特徴で、

 これがちょっとうるさいのが玉に瑕ですね。

 うるさい理由は装置としてどうしても音が出てしまう仕組みになっていることに加え、

 冷却のために空気に触れるところに設置せざるをえないという理由も合わさってます。

 大きい音がする装置が車体外についているのですから、そりゃぁうるさい」


「ところが、京急が使用するVVVFインバータはドイツのシーメンス社製の特注品で、

 京急のみの特別な仕上がりになっていました。

 そんな京急のVVVFインバータだけが特別な理由は、最後に語られることでしょう」


「えーと、解説しないといけない話はこのくらいかな。

 え? シャケ? シャケはシャケですよ。

 みなさんの世界でもクリスマスにはシャケを食べますよね?

 シャケおにぎり、シャケ茶漬け、シャケ兵器、シャケ拡散禁止条約。

 どれも子供でも知ってますよね。

 今更解説するまでもないことです」


 まぁ鉄道とは関係ないし別にいいか。


挿絵(By みてみん)


「ともあれ、ここで電車にとっての重要なパーツが歴史上に登場しました。

 ここからいよいよ蒸気機関やディーゼルエンジンの時代が終わり、

 電車の時代が始まるのですね。

 カナン。あなたはちゃんと、すごい物を残してくれたんだよ」


 ほっと笑顔になるも一転、渋い顔を作り。


「しかし、魔物は本当に厄介ですね……

 やはり魔物はこの世界から駆除する必要があります。

 一体この先どうなっていくのか……

 そして劇中の私はいつになったらアナスタシアさんと出会えるのか。

 先の物語を楽しみにしつつ、『エンディングテーマ』をお聞きください」



☆☆☆主信号、青! 運転再開!☆☆☆



 カナンの提唱したVVVFインバータ制御技術は、電車の開発に革命をもたらした。

 ファン・ライン技術主任シオンも大興奮でこの新概念を導入していく。

 しかし唯一、K急のみが特別製のVVVFインバータを使用していた。


「へぇ、嬢ちゃんすげぇな。

 そんな腕持ってて鍛冶屋じゃねぇんだな」

「……はい。その……私、鍛冶は……

 いや、でも。K急での冶金だけは、協力させてください」


 こうしてK急車両のために自らハンマーを振るカナン。

 ここで彼女の職人技が炸裂した結果、

 K急のVVVFインバータだけは特別な「音」を出すようになった。


――カシューゥゥ……ドォォォレミファソラシドォ!


 そう、K急の列車は……『歌う』のである!

 これがK急のみの特注品、通称ドレミファインバータ!


「素晴らしい……素晴らしすぎます……!」


 K急の新型車両に乗りに来た魔王の娘アナスタシア、

 もとい、HN電車娘はあまりの感動でホームにて泣き出してしまう。


「電車が……電車が歌っています……

 もう最高です……まるで全ての駅がアイドルのライブ会場のような……」


 恥も外聞もなく全身を震わせながらうずくまるアナスタシア。

 それはもう、彼女からすれば『推し』がドームで歌うような感動だったのだろう。


「ありがとう……ありがとうございます、秘境エルフアイドルさん……

 あなたは史上最高のアイドル……いや……」


――最高の、プロデューサーでした!


挿絵(By みてみん)

普通 7両 9月10日10時20分 時刻表の隠しイベント「処女と騎士」

普通 6両 9月10日22時20分 三線軌条で繋がるセカイ「ひとりぼっちの逃避行」


第8号到着 9月13日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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