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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第7号:時刻表の隠しイベント

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「シャケとの戦い」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

 エゾチ送り。


 それは魔物達が最も恐れる刑罰である。

 旧魔王領の中でも永久凍土で覆われた不毛の大陸、エゾチ。

 そこに飛ばされ、凍りつく寒さの中で一生シャケを取り続ける地獄。

 エゾチ先住民族の言葉で、コォル・ポンズである。


「おらっ! 罪人共! シャケの群れが来たぞ!

 川に飛び込め! シャケを獲ってこい!

 魔王歴のクリスマスは目前だ!

 まだまだシャケが足りねぇんだよ!」


 一般的な人類種の生命維持の限界水温は17℃。

 17℃の川に落ちた人間を無事救出できるタイムリミットは2時間。

 温度が低くなるとそれに比例してタイムリミットも縮んでいく。

 15℃まで下がると1時半。

 10℃を切ると30分の時点でまず意識を失い、1時間で終わりだ。

 そんな中、冬のエゾチの川の温度は……


 3℃である。


「早く……早くシャケを獲って戻らねぇと……!」


 急流の中をもがくのは、かつて三国の覇者と言われた英傑、張氏。

 元経済将にして、機嫌の悪いアナスタシアの被害者となってしまった哀れな魔物である。


 いかに魔物の肉体が人類種より優れているとはいえ、

 3℃の水ともなれば魔物も人間も大差ない。

 彼に残された時間はわずか15分。

 それまでにシャケを確保できなければ、死が待っている。


「来たか!」


――ギャオオオオォォォォォウ!!


 恐ろしい咆哮をあげて突っ込んでくるシャケ。

 その鋭い牙と無数の爪が張氏に迫る!


「俺は……三國無双だぞぉぉぉぉおおおお!!」


 かつての愛槍、方天画戟ほうてんがげきを対シャケ用のロケット銛に持ち替え、投擲。

 12mを超えるシャケの肉体に突き刺さったロケット銛のブースターが即座に点火し、

 分厚い外部骨格を貫通、その肉を抉っていく。


「獲ったぁぁぁぁああああ!!」


 断末魔の叫び声をあげて川に沈むシャケ。

 だがまだここからだ。

 張氏に残された時間はあと3分。

 それまでに重さ0.8トンのシャケを河原まで運ばなければ、すべてが終わる。

 常に死と隣合わせの毎日。

 これが英傑の末路であり、コォル・ポンズである。


「…………」


 ぱちぱちと燃える薪の火の前でがちがちと歯を鳴らせる惨めな姿。

 他の罪人達も、まさか彼があの三國無双とは思いもしない。

 いや、ここに送られた者には最初から、他人を気にする余裕などない。

 こんな地獄であろうとも1日でも長く生き残る。

 彼らの心は極寒の大地の中で氷付き、完全に生気を失っていた。


「……絶対に、返り咲いてやる」


 だが、張氏の目はまだ死んでいない。

 チャンスは必ず来る。

 それを見逃さず、栄光を取り戻す。

 そして……!


「俺はカネのため、魔物としての矜持を忘れた……

 アナスタシア様は、そんな俺を叱り、目を覚ませるために試練を与えたのだ……

 姫様の期待に添えるだけの魔将軍に……絶対に返り咲いてやる……!」


 うーん、なんというか。

 見ていてかわいそうになってくるのだが。

 可能なら本話の最初のシーンの挿絵をネタバレ付きで見せてやりたいのだが。


「へぇ、エルフのアイドルねぇ」


 そんな折、隣の罪人達の会話が聞こえてくる。


「あぁ、葉萌本線って路線の赤字を塗り替えた永遠の浪人生!

 すっげぇかわいいんだよ!

 な、な! こっそり次のライブ見に行こうぜ!」

「ふーん、意外と近いな……

 確かに次のシャケ狩りまでの自由時間内に戻ってこれるか……」

「お互いいつ川の中から戻ってこられないかもわからねぇんだ。

 せめて、いい夢見たいじゃんねぇか」

「そう、だな……」


 張氏は思わず鼻で笑いかけた。

 アイドル? エルフの? バカバカしい。

 いや、なんと嘆かわしいことか!

 かつてもオーク達の間で人間の女騎士をアイドル視する流行があったが、

 よくもあんな醜い生き物のメスで興奮できるものだ。

 趣味が悪いを通り越して正気を疑う。


 いや、彼らは知らないのだ。

 真に美しい存在を。真のアイドルというものを。


「……アナスタシア様」

挿絵(By みてみん)


 魔王の娘、アナスタシア。

 それはすべての魔物の恐怖の象徴であり、すべての魔物の憧れの対象でもあった。


 ……やっぱこいつら駆除されて当然じゃないかなぁ。

 田舎のコンビニの前にある青いライトの電撃殺虫器みたいなので一網打尽にできないだろうか。


(ふん。で、一体どれだけ醜い顔をしているのか)


 と、ここでふと興味を持ってしまった張氏。

 怖いもの見たさで隣の2人が見つめる写真に目をやった、瞬間。


「こ、こいつは!」

「うわっ!? なんだよおっさん! 返せよ!」

「あ、あぁ、すまん……」

「ちっ……まぁ、カナンちゃんがかわいいのはわかるけどさ……」


 いやどこがだ。

 目が2つあって顔が左右対称になってる生き物のどこがだ。

 似たような顔配置でもアナスタシア様とは似ても似つかな……


 いや、そうではなく!


 そのエルフから浮き出る特殊な魔力の波長は、間違いない。

 110年前に参加したアールヴヘイム強襲作戦における最優先駆除対象。


「ミスリル加工スキル持ちだ……!」


 今この地獄に蜘蛛の糸が降りてきた。

 前魔王様が最優先駆除対象に指定し、この世から根絶したはずのレアスキル持ち。

 その生き残りを駆除した実績をもってすれば……!


「俺は再び、アナスタシア様の前でやり直せる……!」


 それはまさに、魔王の娘が見逃していた、イレギュラーであった。

普通 7両 9月8日22時20分 時刻表の隠しイベント「北へ!!」

普通 7両 9月9日10時20分 時刻表の隠しイベント「走れ! 心臓が張り裂け、足が折れるまで」


第7号到着 9月10日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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