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前回の事業報告とここまでの年表（６）

　マールが失踪した10年で

　ファン・ラインは国鉄末期さながらの

　最悪の国営企業になっていた。

　路線のほとんどは赤字だが、

　予算は税金で補填されるが故に

　誰も経営努力をしようとしない。

　サービス向上など誰も考えもせず、

　むしろ自分たちは世界を救ったんだという

　傲慢さが元軍人の社員達を腐敗させていた。

　そんな最悪の会社の事業改善、

　ないしは潔く幕引きをすることを求められたマールだったが、

　メンタルがガガンボ並に弱い彼女は

　あろうことか現実逃避をはじめてしまう。

　日夜鉄道マニア達のチャットに入り浸り

　鉄オタトークで盛り上がりつつも

　「廃線」の可能性が語られると同時に

　現状を思い出し血を吐いてしまうマール。

　そんな彼女は、サイト内で活躍する

　カリスマ的鉄道オタク「電車娘」のことを

　片思いし妄想の中で劣情をぶつけていた。

　この主人公はもうダメかもしれない。

　しかし、そんな「電車娘」の正体は

　あろうことか人類種の天敵、

　魔王の娘「アナスタシア・ノヴァ」その人だった。

　表向きは魔王軍残党のリーダーとして

　鉄道を強く憎む魔族たちを指揮し

　駅へのテロや社員のストライキを扇動しているが、

　その目的はすべて鉄道路線「だけ」を残すため。

　下手に鉄道に害をなすだけの計画を提出すれば

　適当な言い訳をつけて粛清処分（リストラ）するという

　まさに魔王というべき暴君として君臨していた。

　世界も人類も滅びるべきだが、

　鉄道だけは完璧な形で残したい。

　それが魔王の娘アナスタシアの歪な鉄道愛であり、

　鉄道をこの世に生み出した鉄道女王マールは

　彼女にとっても崇敬と劣情を含む片思いの対象だった。

　マールさん逃げて。

　そんなアナウンスに「お前の秘密を知っている」という

　脅迫状じみた手紙が届く。

　一方ギルドでは勇者ジュダの元に

　かつて世界中の冒険者を恐怖させた

　魔族の連続殺人鬼「ブッチャー」の

　討伐依頼が舞い込んでいた。

　脅迫状に従う形で廃鉱山を訪れたアナスタシアを待っていたのは

　戦力だけは前魔王に匹敵すると言われたは(・)ぐ(・)れ(・)トロール、

　殺した冒険者達の体の一部をえぐり取ってコレクションする

　サイコパス的性質を持った魔物、ブッチャーであった。

　ブッチャーはアナスタシアが鉄道を愛していることを

　見抜くと同時に、自身のコレクションの

　様々な鉄道部品を自慢する。

　かつて冒険者をターゲットにしていたブッチャーは

　鉄道の美しさに気付き、その部品を集めることに

　新たな生き甲斐にしていたのだ。

　が、当然アナスタシアはそんなこと許せるはずがない。

　圧倒的魔力でブッチャーの手足を凍結させたアナスタシアは

　「盗り鉄」となってしまったブッチャーに

　同じ鉄オタのよしみで改心させるための

　「教育」を実行に移す。

　相手の痛みを知り、自身の愚かさを学ばせる。

　生きたまま解体された冒険者や鉄道車両同様、

　生きたまま体の部位をえぐり取られたブッチャーは

　改心することもなく絶命してしまうのだった。

　一方、一足遅れてブッチャーを探しに

　最寄り駅にたどり着いた勇者ジュダは、

　ひと仕事を終えたアナスタシアと遭遇する。

　ジュダはアナスタシアを只者ではないと理解しつつも、

　まさかこんなところに魔王の娘

　完璧な(フローレス・)雪結晶(フローズン)がいるはずがないと

　アナスタシアを見逃してしまうのだった。

　結果、ブッチャーを討伐したということになったジュダは

　報酬として彼のコレクションを受け取ることになるも

　くず鉄扱いで二束三文の値段しかつかない。

　そこでギルドの受付嬢の協力で、

　コレクションをネットオークションに出品することに。

　ブッチャーを粛清した後、

　鋼の意志で盗品を奪うことを諦めたアナスタシアは

　ネットオークションの情報を知り驚愕。

　魔王軍残党（まおう）の軍事予算（ちから）を解放し

　どうにか競り落とそうと試みる、

　しかし、彼女が競っている相手は、

　これまでの給料のすべてを貯金にまわした結果の

　圧倒的個人資産を持つ鉄オタエルフ、

　鉄道女王マールその人であった。

　マールは知らない。

　自分が片思いしている相手が誰なのかを。

　2人は知らない。

　今競り合っている相手が誰なのかを。

歴史年表（Update5）

■紀元前46億年頃

・世界創生

■紀元前1億年頃

・炭素年代測定法が示す魔物ではない何者かの魔法使用の痕跡

・以後の地層からミスリル（元素番号マイナス1：Mr）が発掘されるようになる

・何者かの埋葬文化の痕跡

■紀元前6600万年頃

・エルフ神話上で最初の魔王が世界に襲来

・生物学的に最古の魔物の化石

・生物学的に最古の竜人の化石

■紀元前700万年頃

・生物学的に最古の人類の化石

■紀元前500万年頃

・生物学的に最古のエルフの化石

・生物学的に最古のドワーフの化石

■紀元前1万年頃

・一部の人類種が農耕を開始した物理的痕跡

・一部の人類やエルフが魔法を使い始めた物理的痕跡

■紀元前3000年頃

・世界最古の人類種文明

・世界最古の文字

・文字記録で人類史に魔王ノヴァが登場

・文字記録で確認できる世界最初の人類VS魔王軍の戦争

■紀元前404年

・歴史上最後の人類VS魔王ノヴァの戦争。人類種致命的敗北。

■紀元前23年

・最初の勇者「ライン」が誕生

■線歴3年

・勇者ライン、魔王ノヴァに敗北するも魔王軍に大打撃を与える。

　勇者VS魔王の戦いの歴史がはじまる。

■線歴207年

・第3代勇者ヒリュウのパーティにエルフの魔法使いメイが合流

　勇者パーティにエルフが協力する歴史がはじまる。

■線歴208～1871年

・これまでの間に21代まで勇者パーティが結成、魔王領を大きく切り崩すことはあれども、全員魔王ノヴァに敗北

■線歴1837年

・マール（0）、誕生

■線歴1872年

・一号機関車、異世界ラインに転生★プロローグ

・マール（35）とシオン（42）、森で一号機関車に出会う★プロローグ

・マール（35）、故郷アールヴヘイムを出奔

・ニューブリッジ駅開設

・鉄道会社「ファン・ライン」設立★プロローグ

■線歴1873年

・アイアン・シンギュラリティによる科学技術の超加速的進歩開始

■線歴1895年

・ファン・ライン、世界の主要国間の鉄道路線を完成させる★第1号

・マール（58）魔王領への鉄道延長を開始★第1号

■線歴1901年

・王の急行隊結成。魔王領にて大活躍

・通信技術の開発と軍事利用開始

■線歴1921年

・魔王ノヴァ、？？？を×××

■線歴1922年

・？？？、魔王の娘アナスタシア（0）を出産と同時に死亡

■線歴1923年

・魔王領のダンジョンにて金鉱発見

・商人スタン、武器屋をオープン

■線歴1933年

・大商人スタン、若き冒険者ジュダに勇者の剣を託す

・魔王の娘アナスタシア（11）、戦闘に敗北した魔将軍を父の見様見真似で初めて粛清処分

■線歴1941年

・ファン・ライン、魔王城の50ｋｍ手前まで線路を完成

・王の急行隊、解散決定★第1号

・王の急行隊に姫騎士ヴィクトリア（24）合流★第1号

・王の急行隊、王の鉄道連隊に任務変更★第1号

■線歴1945年

・姫騎士ヴィクトリア（28）、騎士オオタニ（56）と婚約

■線歴1946年

・人類軍、魔王ノヴァに勝利

・王の鉄道連隊、解散決定★第1号

・騎士オオタニ（57）、独立。K急初代社長就任★第1号

・通信技術の一般利用。スマホ発売。

・世界最古のSNS

■線歴1947年

・シオン（117）、稲妻列車計画開始★第2号

・マール（110）、故郷アールヴヘイムへ75年振りに帰郷★第2号

・姫騎士ヴィクトリア（30）、山ごもり修行を開始★第2号

・マール（110）、最長老との用地買収交渉中に亜光速突破。失踪。行方不明に★第2号

■線歴1948年

・シオン（118）、スランプからの失踪★第3号

・シオン（118）、世界合同エーテル原子核研究ギルドにて技術研究開始★第3号

■線歴1956年

・シオン（126）、世界合同エーテル原子核研究ギルドより帰還

■線歴1957年

・アールヴヘイム駅開設★第2号

・マール（120）、ウラシマ効果から帰還★第2号

・スタンJr（18）、冒険者ジュダに弟子入り★第4号

・魔王軍残党、ニューブリッジ駅でテロ（ニューブリッジ騒乱事件）冒険者ジュダが鎮圧★第4号

・魔王の娘アナスタシア（35）、ブッチャーを粛清★第5号

・冒険者ジュダ、ブッチャーを討伐★第5号

■線歴2025年

・ファン・ライン～異世界鉄道物語～ドラマ放送開始。

・マール（188）ドラマ解説役就任

・姫騎士ヴィクトリア（108）、振替返し（今年度3回目、28日振り）