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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第4号:巨大駅の迷宮

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「はじめての討伐報酬」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

 構内図の99%をマッピングしたスタン。

 だが、目標であったノーブル・レイスの討伐は未達成だ。


「ノーブル・レイスが出るんだから、やっぱり墓地だよな……

 残り1%がそうに違いないんだが……

 このニューブリッジ駅の中に墓地があるって?

 そんな、できの悪い都市伝説じゃあるまい……

 でも、実際問題その1%が見つからない……!」


 ダンジョンの探索は今日で12日目となっていた。

 スタンは自分の描いた地図を3回も総チェックするも、地図にミスはなく。

 4回目は改めてゼロから書き直すも、出来上がった地図は前と同じ。

 そこからはすべての壁に突撃してみるという、デバッガーのような作業を続けていた。


「よっ、おかえり」

(今日はあなご弁当だ……)


 この人、いつも駅グルメ食べてるな。

 実は食通なんだろうか。


「ノーブル・レイス、見つかったか?」


 力なく首を振るスタン。

 今日も1日かけて何の成果もなかったらしい。


「もうわかっただろう。

 冒険者ってのは楽しい仕事じゃねぇ。

 こういう地味なマッピングをずっーとやるようなつまらねぇ仕事さ」

「でも! 師匠は勇者で……」

「勇者じゃねぇ。

 世界はもう、勇者なんか求めてねぇんだ」


 からん、と氷が解けた音をグラスが響かせる。

 あなご弁当には、冷たい緑茶がよくあう。


「目先を見てるだけで出来る話じゃねぇ。

 時には振り返って遠くを見ることも重要なんだよ。

 それがわかったら、とっとと故郷に帰るんだな」


 ジュダは指が1枚の紙を弾く。

 特急とねがわ。

 ニューブリッジ中央駅19時00分発の特急車指定席券、1号車2B。


「……故郷に帰れってことっすか」

「もう十分だろ。親父さんが待ってる。

 自分の人生のレールに戻るんだな」

「このレールは僕の……俺の引いたレールじゃ!」


 やれやれと手を振り、タバコに火をつけ。


「僕、とか出るようじゃ、まだボンボンなんだよ。

 帰れ。ここは、ガキの来る場所じゃねぇ」


 切符を握りしめるスタン。

 言いたいことは山程あるのに、喉まででかかった言葉がそのまま整備基地に帰っていく。

 失意と、悔しさに溺れ、スタンは逃げるようギルドを飛び出した。


「そんなにあの子がお気に入りなんですね、スタンさん」


 と、ここまでの会話を眺めていた受付嬢がにやにやとした笑みを向ける。


「お嬢、話聞いてたか?」

「聞いてましたよ。

 答え、教えてるじゃないですか」

「ちっ……関係者にはお見通しかよ」

「こう見えてもファン・ライン社員ですから。

 毎年6月にはあそこで祈ってるんですよ」


 舌打ちの音をたてるジュダ。

 その前に流れてくる緑茶のおかわりと、追加の小箱。


「お前、これ……」

「うちの駅長から、先の暴徒鎮圧のお礼ですよ」


 クリーム色と紫のコントラストが懐かしい包装。

 東京名物、深川めし。

 茶飯の上に江戸味噌と生姜で味付されたアサリが敷き詰められた、

 ニューブリッジの駅弁屋「戴」の人気商品だ。

 税込み980円。


「……しょぼい討伐報奨だぜ」

「仕方ないでしょ、給料安いんですから。

 じゃぁ、いらないんですか?」

「誰がいらないって言ったよ」


 ひったくるように小箱を手に取り、改めて割り箸を手に取った……が。

 一方、その頃。


――目先を見てるだけで出来る話じゃねぇ。

  時には振り返って遠くを見ることも重要なんだよ。

  それがわかったら、とっとと故郷に帰るんだな。


「……くそっ!」


 信じていた師匠に裏切られたような気持ちに苛まれながら、

 スタンは11番線ホームで特急を待っていた。

 今更親父の元になんか帰れない。

 だが、それはそれとしてどこか遠くに行きたい気分にはさせられていた。


 別にどこだっていい。

 無意味に列車に揺られたい気分になる時だって、ある。

 このまま『とねがわ』で終点まで行き、そこからさらに先へ。

 そのまま秘境駅を巡る各駅停車も悪くないかもしれない。


「目先を見てるだけだったのか、僕は……」


 リフレインするジュダの言葉。

 これまでずっと振り向かず、がむしゃらに進んできたのに。

 それはまるで、自分自身が否定されるようで、心が冷えた。


「振り向いたら、負けじゃないか!」


 と、自棄にかられたように振り返った先に見えたのは。


「……え?」


 夕暮れにぼんやりと光り輝くノーブル・レイスと。

 その霊が見つめる1本の碑。


――鉄道殉職者慰霊碑


 そこは駅構内のどこからも繋がっていない、ホームの間の飛び地。

 まさに『遠くを見なければ』見つからない場所だった。


「で、食べないんですか?」

「うるせぇ。駅弁なんていつ食ったっていいだろ」

「食べないなら私にくださいよぉ」

「俺の討伐報酬だ」


 うざ絡みする受付嬢をあしらいつつ灰皿に追加の灰を落とすジュダ。

 ちらちらと時計を気にするあたり、受付嬢のにやにやは止まらない。


 時刻は既に19時を周り、5分。

 その時、ギルドの扉が開かれる。

 ジュダは振り返らない。

 受付嬢は顔の向きをそのままに、いつもの営業スマイルで。


「ようこそ、冒険者ギルドへ!」


 その足音が、自分の背後で止まるのを待って。


「深川めし、食うか?」


 言いたいことは山程あった。

 だが、今はそれよりも。


「いただきます!」


挿絵(By みてみん)


※新宿駅殉難殉職供養碑


 新宿駅での特定の事件・事故により命を落とした方の

 霊を慰める目的での供養塔ではなく、

 中央線をはじめとする都心近郊の全路線において

 命を落とした鉄道職員の霊を慰める供養碑。


 元々は昭和10年に行われた新宿駅改修工事での事故で殉職された方の

 霊を慰める目的で作られたとされているが諸説あり、

 少なくとも現在では上記の目的で毎月JR職員が献花している。


 場所は山手線・総武線の13・14番線ホームの

 総武線中野・立川寄り、山手線上野・池袋寄りの末端から

 隣12番線の中央線ホームの側を見ると見つけることができる。


 池袋のアレとは違い恐ろしい()()()は無い物なので、

 見かけた際は怯えることなく、軽く頭を下げて欲しい。

普通 5両 9月1日22時20分 鉄道狂のバーサーカー「120年目の片思い」

普通 5両 9月2日10時20分 鉄道狂のバーサーカー「美少女魔王の誰にも言えない秘密」


第5号到着 9月3日22時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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