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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第3号:地下10mの風魔法

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「嵐の皇帝」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

 ひかりの開発が難航している理由は複合的だった。


 1つに、現在のサラマンダーを用いた蒸気機関や、

 ガスクラウドを用いた内燃機関に変わる新型動力機関の開発。

 魔法生物の力を借りるこれらでは安定した出力が維持できず、

 また、補給に時間がかかってしまう。

 たとえ加速度と最高速度が確保できても、

 駅にて長い補給時間がかかってしまえば意味がないのだ。


 とはいえここは既に目処が立っている。

 マールがファンレールを動かすために使ってみせた、稲妻エーテルの空間展開。

 電気で動く車両、すなわち『電車』の開発である。


 幸いにも魔王との戦いに勇者を派遣しなかったため、

 勇者の剣は現存する9本完全な状態で残っている。

 稲妻の魔力を帯びたこれらの剣を使った発電所は、

 かなり短めかつ悲観的に見積もっても

 3000年間世界全域に電力を安定供給するだろう。


 しかし、肝心のエンジン出力が、

 未だガスクラウド式内燃機関の出力に届かない。

 魔法の才のないシオンと、感覚で魔法を使うマールでは、

 電力エーテルの動力化研究が進まないのだ。


 そこで……


「誰ですか? あの人」

「お前知らんのか!?

 あの方はファイ・ライン技術主任にして、

 アイアン・シンギュラリティの研究データを無償で世界中にばら撒いた……」


「シオン・マヒデ!? あの人が!? さ、サインを……!」

「馬鹿野郎失礼だぞ!」

「そういう所長! その白衣の背中のサインはなんなんですか!?」

「……私はいいのだ」


 黙っていれば美人に見えるという点も大きいのだろう。

 まぁ、むしろここの技術者ならばシオンのマッドサイエンティスト的な側面を見れば

 百年の恋が1万年の恋へとクラスチェンジしてしそうなものだが。


「こちらが大型ハドロンエーテルコライダー『LHEC』を動かすプラズマエーテル炉です」

「素晴らしい……! このデータ、いただけるのかね!?」

「もちろんです!

 世界の魔導科学技術はすべて、

 あなたが広めてくださったアイアン・シンギュラリティで生まれました。

 我々にはその恩を返す責務があります。

 しかし、その……えっと、できれば……」


「あぁ! サイン程度でいいなら何万枚も書こうじゃないか!」

「ありがとうございます! 妻と息子の分もお願いします!」


 これによりひかりの動力問題は解決に近づくだろう。

 だが問題はまだ残っている。

 その1つが車両の素材である。


 鉄でも、オリハルコンでも、アダマンタイトでもダメ。

 速度を出すための軽さと、安全性を確保するための耐久性が両立できないのだ。

 エルフに伝わる世界最軽量の金属、ミスリルならばと目をつけたが、

 今はもうミスリルを製錬できる職人が残っていない。

 シオンは世界のどこかに居るエルフの職人を見つけるか、別に新たな金属を発見する必要があった。


「去年の論文は読ませていただいたんだがねぇ。

 LHECで作られたという新元素、サクラニウムの金属精錬は難しいのかね?」

「それは、難しいでしょうね……

 サクラニウムは1万分の1秒の刹那しか安定状態で世界に存在できません」

「むぅ……やはりミスリルを見つけるしかないのか……

 ノルンにはエルフの職人はいないのかね?」

「申し訳ありませんが……

 しかし、代替として精錬にプラズマエーテル炉の高電圧を用いた、

 この『アルミニウム』という新金属を使えば、あるいは!」

「アルミニウムねぇ、さて、どうだろうか……」


 実のところ、ミスリルが見つかれば解決という話でもなかった。

 その耐久性を実際に確認する必要があるためだ。

 未だミスリルのサンプルを入手できていないシオンは、

 その試験さえできていない状態なのだ。


「では、そのアルミニウムの耐久試験にご自慢のLHEC、お借りできるかな?」

「いいですとも!」


 そしてファン・ラインは、その試験を行える「場所」がまだなかった。

 このLHECは、まさに試験を行うに最適な形としていたのだ。


 シオンは落ち着いて目を閉じ、目指すべき『目標』を思い出す。

 それはマールを用地買収交渉に送り出す直前のこと。

 彼女は1つ頼み事をしていた。

 

『風魔法を見せて欲しい?』

『あぁ、里帰りの前に見せてくれないかね?』

『いいけど……とりあえず広いとこ行こっか』


『私、風魔法はあんまり使わないから苦手なんだけど……

 えーと、どのクラスの風魔法が見たいの?』

『一番下から一番上まで一通り見せてもらえるかね?』

『わかった』


 すっ、と指1本を掲げ。


『テンペ』


挿絵(By みてみん)


 一筋のつむじ風が駆け抜ける。

 同時にシオンの目の前で木の葉が真っ二つに裂かれた。

 シオンに風圧を感じさせつつも切断ダメージまでは与えない。

 魔道士として天才的な素質を持つマールはこれを感覚でやってのけている。

 ぱちぱちと拍手を返されたマールは少し自慢げな顔になり、

 ぐっとガッツポーズするように腕に力を込め。


『テンペス』


 突風に思わず目を覆う。

 同時に巻き上げられた小指程度の太さの小枝がパキリと折れる。

 セカンドクラスでこの威力。

 マールは大きく息を吐いて精神を集中。

 両手をあわせて次のクラスへ登る。


『テンペスタ!』


 大型台風クラスの風に全力で足を踏ん張るシオン。

 どこからか飛んできた二の腕の太さの枝がバキリと音を立てて破砕される。

 無意識に範囲の微調整をしなければ、

 ここで自分の首もへし折れていたのだろうと思うとゾッとする。


 だが、これでまだ上級クラスで最上級ではない。

 ここに来てようやくマールは世界樹の枝で作られた自前の杖を取り出し、

 シオンに背を向けて詩を紡ぎ始める。

 天才と呼ばれるマールであっても、

 最上級は杖の補助と詠唱無しでは発動できないのだ。


『千里を駆ける風の精よ、我が身にその蒼き啓示を届けたまえ。

 自然の脅威を、文明の時を嘲笑い、人の子に己が無力たることを思い出させる力を。

 嵐の皇帝……!』


 カッと目を見開き、杖を振り下ろし。


『ドン・テンペスタ!』


 流石にこのクラスになると微調整はできないようで、

 シオンに背を向ける形で反対側へと放たれる空気の塊。

 轟音が大地を削り、大地に根を張る巨木がへし折られた。

 圧倒的な風圧。これを、見たかったのだ。


(ひかりの車体は、この風圧に耐えねばならない……

 現状で想定されるType0ひかりの最高速度は210km/h

 ただその速度で走っただけでは、ここまでの風は発生しない。

 しかし、ある一点でのみ、この最高ランクの風魔法に匹敵する風が発生する)


 ごくりと息を呑み冷や汗を流すシオンにけろっとした顔で振り返り。


『参考になった?』

『あぁ、十分すぎるほど……』

『って! もうこんな時間!

 最長老様を待たせたら殺されちゃうよ!

 いってきます!』

『あぁ、いっ……ぶふぉぁ!?』


 飛び立つマールが赤い光をまとって見えたのはわずか一瞬のことだった。

 鼓膜どころか体のすべてをズタズタに引き裂きかけない衝撃波が大地へと叩きつけられ、

 直撃を受けた大木は折れるを通り越してバラバラに分解された。


『どおりで風魔法が苦手なわけだよ。

 飛ぶだけでソニックブームで周囲を薙ぎ払えるじゃないか』

普通 3両 8月29日22時20分 地下10mの風魔法「恐怖の耐久試験」

普通 5両 8月30日10時20分 巨大駅の迷宮「勇者の弟子」


第4号到着 9月1日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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