「戦慄の紅」
この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。
――戦歴2025年
K急ハルパー要塞、新速開発工廠にて。
「どうだいコタニちゃん!
これこそ我らがK急の技術の結晶!
加速性能に命を賭けた最新型、K急800型Mk-Ⅷだ!」
「へぇ、こいつが……いい赤だね」
「だろう!? いい赤なのさ!」
元姫騎士にして2代目K急社長ヴィクトリア、御年108歳。
彼女に新型車両のプレゼンをするのは今年で140歳になる運転主任だ。
「カタログスペックによると加速性能は3.5km/h/sだが……」
それはつまり、1秒間で3.5km速度が上がるという意味。
だが、ヴィクトリアの前で走り出すその車両は。
「明らかにカタログスペックより加速度が上じゃないかい?」
「しっ! そういうことにしておかないと法規制に引っかかるんだよ!」
これだからK急の技術者は!
☆☆☆主信号、赤! 自動列車停止装置起動!☆☆☆
「あ、止まった? ホントに止まりました?
よし。ではちょっとだけワンポイント解説です」
「今登場したK急800型の元ネタは京急800型。
1978年に竣工、翌年営業運転を開始した京急の切り札。
当時の日本最高の加速性能を持った赤いモンスターマシンです」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:802-1_original.JPG
「しかし、この800型には2つの致命的欠陥がありました。
1つは初動加速に命を賭けていたため、高速域での加速の伸びがいまひとつで快速・急行での運用には不向きだった点。
そして、そもそも加速性能だけに全力をかけたため、最高速度自体は100km/hとそれほど早くなかった点です」
「……やっぱり京急の技術者ってバカなのかな?(ぼそっ)(※褒め言葉)」
「それでもその加速性能は本物。
劇中で『明らかにスペックノートよりも加速度が上』と評されていますがこちらノンフィクションです。
そして、この車両の開発を踏まえて改良を重ねたのが京急2000型。
こちらでは高速域の加速問題を完全に解決し、最高速度も130km/hへ。
しかもそれでいてモーター音も静かで快適な乗り心地を実現させました」
「まぁ今度は初動加速がいまひとつで各駅停車では使えなかったんですけどね!
やっぱりバカですよね京急の開発者さんは!(褒め言葉)」
「と、そんなおちゃめな歴史を挟んで今に至るのが主力車両、京急新1000型。
本当に良い赤ですよね。敵ながら惚れ惚れします。
いい赤、なんですけど……」
「現代の鉄道の新型車両の多くはステンレスの合金が使用されており、錆びに強い故にわざわざ塗装する必要がありません。
JRの車両は見分けの意味でも様々な色のラインが引かれていますが、あれは所謂シールです。
塗装しているわけではありません。
が……」
「京急はわざわざ無意味な塗装をしています」
「塗装でしかこの色が出ないんだというのが京急談。
会社のイメージカラーというものはあるんでしょうが……
うん、バカですね。最高です(褒め言葉)」
☆☆☆主信号、青! 運転再開!☆☆☆
「ファン・ラインの車両は速度にばかり目をやってるがな!
重要なのは加速度だよ! 加速度!
俺達K急は、加速度なら絶対に負けねぇ!」
「ふっ……それはどうだろうねぇ?」
情熱に燃えた主任に冷水を浴びせるヴィクトリア。
この女社長は姫騎士だった頃からそういう生意気というか空気が読めないというか、
そんな態度が主任達に嫌われると同時に愛されていたのだが。
「なんだと……おいこのババア!
俺達がファン・ラインに加速度で負けてるっていうのか!?」
それでも、自分たちが命を賭けて挑んでいる加速度をバカにされては、黙っていられない。
「あぁ、負けてるね」
「なんだと!? どの車両に負けてるか言ってみろ!
この800型はカタログスペックでは3.5km/h/sだが、その真の力は……!」
「おっと、それは言っちゃいけないんじゃないのかい?
まぁ、どれだけ凄かろうと勝てるわけがないんだよ。
ファン・ラインの最高の加速度はね……」
ヴィクトリアは、姫騎士だった頃、それを一度だけ見たことがあった。
思い起こせばあれは、亡き夫がK急を設立した翌年のこと。
夫や主任達に負けていられない、自分も運転主任として認められたい。
そんな一心で山ごもりの修行に挑んでいた時。
「997! 998! 999! 1000!」
マスコンの素振り1000本を終え、一息をつくヴィクトリア。
「絶対に、あの人に相応しい運転主任になるんだ……!
どんなダイヤも完璧にこなし、小指1本でスイッチの切り替えができるような、先輩達と同じ運転主任に……!」
その時、猛烈な衝撃波が森を駆け抜ける。
「くぅっ!?」
遅れて届く爆発音。
めきめきとなぎ倒されていく巨木。
いや、なぎ倒されるどころの話ではない。
巨木が、粉砕されていく。
それだけの衝撃波を放った主が居たのは、上空500m。
常人ではとても目で捉えられない速度だったが、
ヴィクトリアに流れるエルフの血と魔力が不可能を可能にする。
「エルフが2人……しかも片方は……
ファン・ライン総裁、マール・ノーエ!?」
それはヴィクトリアがはじめて見た『格違い相手同士の戦い』で、
この時彼女は『世界には絶対に勝てない存在がいる』と理解した。
だが見えたのはわずか一瞬のこと。
「違う。あれは私達の『赤』じゃない……なんて……」
――なんて恐ろしい『赤』なんだろう
2人の姿は禍々しい赤い光をまとって遥か空の上へと消えていった。
あの時見たものを、ヴィクトリアは決して忘れないだろう。
故に、彼女には言えるのだ。
「ファン・ラインの最高加速度を持つ者の名。
それこそが、総裁マール・ノーエ。
彼女の加速度は……10億7900万km/h/sに限りなく近い」
普通 6両 8月28日10時20分 ひかりを止めるな!「ひかりより速いもの」
普通 3両 8月28日22時20分 地下10mの風魔法「そうだと思った時が旅のはじまり」
第3号到着 8月29日22時20分
最終話到着 9月26日22時20分
駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。
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