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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第2号:ひかりを止めるな!

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18/85

「実は世界に電車はあんまり走ってない」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

☆☆☆主信号、赤! 自動列車停止装置(ATS)起動!☆☆☆


「…………」


 マールの表情は渋い。

 はぁぁぁぁ、とクソデカなため息をついて。


「この先何が起きるのかわかっている身としては、本当に頭が痛い……」


 やれやれと首をふり。


「まぁそれはさておき。

 はい、今回は日本鉄道の華、新幹線に至る物語です。

 新幹線と言えば、みなさんご存知の通り電気で動く車両、そう、電車ですね。

 しかし、私達の世界ではまだ電車は開発されておらず、

 未だ蒸気機関をサラマンダーさんの力を借りて動かしています。

 当然日本でも初の鉄道は蒸気機関。

 そこからどのように今の電気機関車へと変わっていったのでしょうか?

 私は今、日本ではじめて電車が走った区間に来ています」


挿絵(By みてみん)


「西郷さんの像でお馴染み、上野恩賜公園。

 右を向くと少し離れたところに北の玄関口、JR上野駅が。

 そして、京成上野駅の看板が見えます。

 日本初の電車が走ったのは上野でした」


「では上野とどこを結んだのでしょうか?

 正解は、『どこでもない』です。

 日本初の電化区間の長さはわずか450m。

 1890年に上野公園で開催された第3回内国勧業博覧会での展示物でした。

 その線路跡は残念ながら残っていません。

 公園の中でレールっぽく見える物は、

 国立科学博物館のシロナガスクジラを支えるフレームくらいです」


「あと折角ここまで来たので上野動物園でパンダの写真を……」


 と、改めてクソデカため息をつき。


「日本初のモノレール、東京都交通局上野懸垂線こと上野動物園モノレールが走っていない動物園とかどうでもいいですね。

 パンダなんて借りるカネがあったらモノレールを見せてください!

 モノレールを!

 異世界の人たちは動物園がどういう施設だかわかってないんですか!?」


 不忍池隣の動物園通りよりモノレール廃線跡を見上げるマール。

 果たして動物園の施設としての意味がわかっていないのは誰なのか。


「さて、話を戻して。

 この博覧会では、アメリカから持ち帰られた電気駆動の路面電車2両が展示されていました。

 日本初の電車は、路面電車だったんですね。

 街の中を走る路面電車はあらゆる意味で電車が最適です。

 街中には既に電柱があり電化環境の整備が容易。

 そして、駅と駅の間の区画が短くなりがちな都市交通は、加減速が難しい蒸気機関では大きなエネルギーロスが起きてしまいます。

 石炭で蒸気機関を動かすみなさんの世界の場合、さらに街中が煤で汚れるという致命的な問題もありますからね。

 そう、都市交通は電気で動かすのが最適というよりもむしろ、蒸気で動かすには問題が多すぎたんです。

 そこで電車の技術が発展する前は、都市交通を動かしていたのは蒸気ではなく馬でした。

 それが馬車鉄道と呼ばれるものですね」


挿絵(By みてみん)

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Horse-Drawn_Trams_in_Japan,_Taisho_era_(1915_by_Elstner_Hilton).jpg


「……ただの馬車じゃん!」


「と、思われるのも仕方ないでしょう。

 えぇ、ただの馬車です。

 しかし、そもそも何故鉄道がレールの上を走るかと言えば、走りやすいからですよね。

 つまりたとえ馬車であったとしても、レールの上を走った方がより速く、

 より大量輸送が可能ということ。

 お馬さんも昔より楽に馬車を引くことができたことでしょう。

 こうして鉄道という概念は、お馬さんの労働環境改善にも役立ったのです」


「そんな馬車鉄道ですが、ひとつ問題がありました。

 これは近くに牧場があったり、お馬さんが身近にいる方ならすぐわかりますが……」


「めっちゃうんちします」


「ということで、馬車鉄道の線路の上は馬の落とし物だらけに。

 馬車鉄道は、都市の衛生環境に致命的打撃を与えるとしてすぐに廃れていく形となりました。

 当時東京中を先んじて走っていた馬車鉄道は、うまのふんと砂が風に舞って悲惨な事態を引き起こし、クレームの嵐だったとか。

 移動にはとても便利だったんですけどね」


「ということで電車の普及が急がれます。

 最初に鉄道が営業路線として開業したのが、

 1890年の上野博覧会から5年後の1895年。

 今の京都市電に繋がる伏見線が開業します!」


挿絵(By みてみん)


「京都は今でこそバスが観光客輸送の主力となっていますが、当時は路面電車が主力でした。

 今はもう嵐電しか走っていませんけどね」


挿絵(By みてみん)

https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/toden/


「これは東京も同じですね。

 今の東京に残っているのは東京さくらトラムこと都電荒川線だけです。

 路面電車が減っていく理由はたった1つのシンプルな理由。

 交通渋滞の原因となるからですね。

 広島以外の大都市で今なお残っている路面電車路線は、

 そのほとんどで道路を通らず、専用軌道を通っている路線に限られているという法則が成り立ちます。

 ともあれこうして大阪や名古屋などの大都市にも同じく電車が走っていくわけですが、

 実はこの流れで東京に電車が走るよりも早くとある有名路線が開通していました」


挿絵(By みてみん)


「江ノ島電気鉄道、江ノ電です!

 東京初の路面電車会社となる東京電車鉄道が開業したのが1903年に対し、

 江ノ電の開業は前年の1902年。

 実はとても歴史のある路線なんですよ、江ノ電は」


挿絵(By みてみん)


「ただ、都市交通以外で電車が最初に走ったのは東京でした。

 今の中央線の区間です。

 ただこれも、東京市内を走る蒸気機関車へのクレームへの対応として、

 既に東京中を走り回っていた路面電車と同じものを都市圏に限って運用したというもの。

 今でいうなら、甲府=新宿間は汽車で走り、新宿=東京間を路面電車で走るみたいな感じでしょうか」


「つまり、日本初の電車は実は中央線ではなく総武線各駅停車ってこと……!?」


挿絵(By みてみん)


「とまぁそういうわけで、電車はまだまだパワーでもスピードでも蒸気機関車に遠く及ばなかったわけです。

 これは昨今の電気自動車の力不足感を体感した人には納得しやすいのではないでしょうか。

 専用の電化区間も必要ですからね。

 実は電車って、今なお石炭や石油で動く機動車よりもへなちょこ。

 電車が勝るポイントは、超長期的に見たランニングコストの低さと環境への配慮くらいなもんです。

 あとは燃料補給の必要がないので、駅での補給時間がゼロにできる、

 もしくは駅に補給専用エリアと予備車両を用意しないでいいことくらいでしょうか。

 そこまで考えてようやく電車の価値がディーゼルを上回りますね。

 そういう理由で、実は世界に電車ってほとんど走ってないんです」


「しかし日本はどこでも電車が当たり前。

 世界的に見てもとても珍しい国なんですよ。

 そういう意味では日本こそがUVシフトの先駆け。

 電車は国土どこでも電気が使えて、電気供給が安定していないと走れない。

 電車は豊かさの象徴なんです!」


「これはつまり、環境問題やら燃料の調達費用及び補給にかかる時間を無視すれば、

 新幹線も蒸気機関で動かした方が速い車両が作れた、ということでしょうか?」


イグザクトリー(そのとおり)!」


「ということで、実質新幹線の前身とも言えるのがこの超特急、亜細亜あじあ

 運行路線は残念ながら青春18切符の範囲外、大連=ハルビン間。

 そう、歴史の授業と爆破でお馴染みの南満州鉄道ですね」


「さぁ御覧くださいこの流線型でいかにも速そうな車体!

 ミスマッチな煙突がまさにスチームパンクかSFにでも出てきそうな感を主張しています!

 これこそまさに、ファンタジー世界を走る超特急です!」


挿絵(By みてみん)

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mantetsu-pashina981_(pashina12).png


「凄いでしょう! 特に最終生産型のパシナ型981号機!

 見たことありませんかゲームでこういうの!

 機関車なのに最高速度は130km/h!

 大連ハルビン間の950kmを9時間半で結んだ、幻想の超特急なんです!」


「そしてこのあじあ号ですが、何かに似ていると思いませんか?」


「FF6の魔列車?

 まぁそれは明らかに似せてきてますね。

 からくりサーカスで出てきた?

 それは本物ですね。

 シベリア超特急で見た?

 ほんとにあの映画見たなら尊敬します」


「いや普通に!

 これですよこれ!」


挿絵(By みてみん)


「0系新幹線!」


「このあじあ号の技術が新幹線開発に活かされた、わけではありません。

 南満州鉄道は事実上日本の鉄道会社でしたが、後の新幹線と同じ人物が開発に関わっていたこともありません。

 しかし、当時の南満州鉄道に居た技術者、南安次郎。

 彼の息子こそ、島秀雄。

 後に新幹線の父と呼ばれる天才技術者です。

 かっこいいなぁ! シオンちゃんみたいです!」


「ただ、島秀雄は父の栄光を継いだわけではありません。

 むしろ、父の無念と屈辱を晴らしたというべきでしょう。

 実はこのあじあ号、こんなに速そうな見た目をしていながら、実は当時は世界的に『遅い』列車でした。

 イギリスもドイツも平気で150km/h以上の速度で営業運転し、アメリカに至っては最高速度180km/hに届いていました。

 後の第二次世界大戦と高度経済成長時代で全世界を驚愕させる日本の技術力は、この頃はまだ模倣と下積みの時代だったのです。

 そしてその成果が花開く前に、日本は絶望的な敗戦を乗り越えねばなりませんでした」


挿絵(By みてみん)


「本当に、嫌な話ですね。

 で、嫌な話といえば……」


 改めてため息をつき頭を抱えるマール。


「こういった技術の話はいつ聞いてもわくわくするでしょう。

 新幹線もですが、鉄道史でいうなら青函トンネルの開通に情熱をかけた技術者達の話はまさに歴史の華。

 しかし、新幹線の昔もリニアの今も、鉄道敷設で最も苦労するのは用地買収なんです。

 そしてそれは、本来なら話したくもないほどの闇を含みます。

 新幹線は新幹線でも成田新幹線とか!」


「まぁ成田新幹線の話が聞きたい方は東京駅から時間をかけて

 ホームが遠いことでお馴染みの京葉線に乗り換えてもらうとして。

 あ、実は京葉線使いたいなら東京より有楽町から乗り換えた方が早いですよ」


「と、現実での東海道新幹線の用地買収はかなりのトントン拍子で苦労なく進み、

 用意していた予算が余ってしまい拍子抜け状態。

 むしろそこで余った予算が後で別の問題を引き起こしたりする官僚の闇なのですが、それはさておき。

 この用地買収が簡単に進んだ理由が、戦前の弾丸列車計画。

 大陸を貫くあじあ号のような超特急機関車を国内にも走らせようという計画が既に立案、進行しており、既にほとんどの区間で用地買収が終わっていたためですね。

 まぁこの頃はJRでも国鉄でもなく、軍が動いていましたから、

 本当に『買収』だったのかは首を傾げますがね」


「こうしていろいろ言葉を濁す程度には用地買収は鉄道の闇なんですけど……

 なんで!? ねぇなんで!?」


 駄々をこねるように暴れ始めるマール。


「なんで総裁の私自ら買収交渉することになっちゃったの!?

 ていうか直線で繋ぐっていうけど、東京大阪間は直線じゃないじゃん!

 間に富士山あるじゃん!

 そこを南に迂回してるから『東海道』新幹線なんじゃん!

 エルフの里とかそんなド田舎迂回してよぉぉぉぉ!!

 この時の『交渉』さえ起きてなければ、後の悲惨な歴史に繋がってないんだからぁぁああ!!」


挿絵(By みてみん)


☆☆☆主信号、青! 運転再開!☆☆☆

普通 6両 8月27日10時20分 ひかりを止めるな!「地元民は無理難題を言う」

普通 6両 8月27日22時20分 ひかりを止めるな!「戦慄の紅」


第2号到着 8月28日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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