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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第2号:ひかりを止めるな!

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17/85

「新たな目的地、新たな夢、新たな光」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

「ここにあったもの、覚えているか? マール」

「はい、覚えています」


 一通りのどんちゃん騒ぎを終えて、2人がやってきたのは里の中央にぽっかりと空いた広場。

 仮に駅を作るなら最適な用地だろうが、そういうわけにはいかない。


 なぜなら、ここはエルフにとって神聖な場所。

 正確に言えば、神聖『だった』場所。

 ほんの100年前まで、ここには里の象徴にして

 すべてのエルフの親とも言える巨木、

 世界樹がそびえ立っていたのだから。


「美しく……生命に満ちた木であった……」

「私が10歳の時でしたね。

 魔王配下の魔物の襲撃があったのは。

 あの時、私が戦えていれば……」

「過ぎたことを悔やんでも致し方なし。

 我らエルフが悠久の時を生きるとしても、

 時の矢の向きを変えることまではかなわんのだ。

 たとえ、あらゆる想像を可能にする魔法であっても」


 あらゆる想像を叶える魔法の力。

 その力で叶わないものが2つある。

 死者の蘇生と、時間の逆行だ。


「だが、命は続き、再び芽吹く……」

「それは……!」


 最長老ドゥールが指さした先にあったのは小さな祠。

 そしてその前に芽吹いていたのは。


「これはまさか、世界樹の苗ですか!?」

「あぁ。お主が魔王を倒した日、芽を出した」


 エルフにとってみれば、

 それは亡くなったはずに母親が息を吹き返したようなもの。

 思わずマールの目にも涙が浮かぶ。

 1年前、私が魔王を倒し、世界を救った日に、

 この苗が芽吹いて……!


 …………


 ……私その時、舐めプを極めて鉄道模型で遊びながら

 オフィスで書類仕事してましたけどね。

 とは口が裂けても言えないマールである。


「1年で、ここまで育った」

「……改めて、申し訳ありません。

 帰省が……遅れました」

「良い。生きて帰ってきたのなら、それで良いのだ」


 世界樹に手をあわせ、祈り。


「お前以外は、帰ってこなかったからな」

「あ……」


 エルフの魔道士は勇者パーティーに加わるのが習わし。

 そして最長老はその全員の顔を覚えていた。

 マールは改めて、最長老の心の底の哀しみに触れた。


 魔王を倒した英雄。

 マールはそう呼ばれるのが嫌だった。

 だが、目の前で芽吹いた世界樹を見た今。


(私は、歴史に名を残すことをした、英雄なんだ)


 彼女はその名を受け入れるに至った。


「それで?

 わざわざ放蕩娘が戻ったのだ。

 何か話があるのだろう?」


 ごくりと息を呑むマール。

 ついに、それの願いを口にする時が来てしまった。


(ここからが本当の……交渉たたかいだ)


 マールは改めてドゥールに目的を告げる。

 グランサカーツ=アールヴヘイム=ニューブリッジ間の路線開通。

 そのため、神聖なるエルフの森、グォーサヴァイトを切り開きたいという申し出である。


 未だ人間との間に一定の距離を取っているエルフの里に線路を敷く意味は大きく無い。

 だが、そのアールヴヘイムが世界最大の都市となったニューブリッジと、

 2番目の都市であるグランサカーツのちょうど間にあるとなれば話が別だ。


 数カ月前。

 シオン技術主任はうきうきでマール総裁に

 その計画をプレゼンしていた。


『稲妻列車計画……?』

『そうさ! 今大陸を貫通している亞里亞よりも速い列車!

 音よりも速い君の雷撃魔法に匹敵するような速さの超特急……

 私は、そんな新型車両を開発したいのだよ!』


 ファン・ライン技術主任として新型車両の開発に関わるポストについたシオン。

 彼女は魔王討伐という目標を達成した今、新たな目標にねらいを定めていた。


『まだ設計図すら想像できていないのだがね!

 名前はもう決めているんだよ!

 ひかり! ひかりだよ!』

『ひかり……』


 マールはあらゆる魔法の中で、光魔法が最も速いことを知っていた。

 なるほど、確かに稲妻よりも速いとなれば光しかない。

 しかし……


『あのさ、シオンちゃん』

『どうした?』

『私、シオンちゃんは天才だと思うんだけど』

『天才様に言われるといささか私も照れるねぇ!』


『最初に私達が見つけた蒸気機関火車は時速70km/hが限界だったのに、

 シオンちゃんはそれに改良を改良を重ね、どんどんその速度を伸ばしていった。

 今走ってる亞里亞の最高速度は130km/hでしょ?

 そろそろ私の全速力に追いつかれそう』

『いや君の全速力って、一度測ろうとしたけどわからなかったよねぇ?

 少なくとも1234.8km/hよりも速いんだがねぇ?』


『まぁ少なくとも、どんどん速くなることは事実だよね。

 で、その稲妻列車の名前、なんだっけ?』

『ひかりだよ!』

『私の知る限り光より速い物って無いんだけど、

 その後に開発されるだろうひかりより速い車両には

 なんて名前つけるつもりなの?』


 沈黙が2人のホームの間を通過した後。


『たきおん?』

『ありもしない粒子を捏造するのはやめて』

『じゃ、じゃぁスーパーひかりとかハイパーひかりとか……』

『マスターの次はどうするの?』


 天才は自分を過小評価する生き物だ。

 その時の自分の全力が未来永劫の全力ではないことを忘れてしまう。

 これ以上先がないと決めつけて最速の名前をつけてしまうと、

 後にその時の自分を過去に戻って殺したくなっても仕方ない。

 だから「ひかり」なんて名前を最初につけるべきではないのだ。

 その先にはどれだけ速そうな名前をつけても現実的に光より速くはない。

 「はやぶさ」とか「はやて」とかいかにも速そうではあるけど、

 隼の最高速度は390km/hだし、疾風に至っては観測史上最高風速はたったの85.3km/hでしかないのだ。


『まぁ出落ちの名前はこの際いいとして……

 確かに今よりも速い特急を作るって夢はいいね!』

『そうだとも! そうだとも!』

『で、どの路線を走らせるの?』

『それはもちろん! 世界最大の経済圏同士を結ぶ直線さ!』


 バンと地図を広げ、ニューブリッジとグランサカーツの間に線を引くシオン。

 わぁ! と笑顔になっていたマールの視点が、その一点で止まる。


『……ねぇ、シオンちゃん?』

『大丈夫さ! 既にトンネルや橋梁の工事技術なら……』

『いや、そうじゃなくてさ……これ、どう見ても私の故郷通るよね?』

『あぁ! だから……』


 シオンは最高の笑顔で。


『用地買収の交渉は総裁自ら頼んだよ!』


 という流れで今に至る。

普通 6両 8月26日22時20分 ひかりを止めるな!「実は世界に電車はあんまり走ってない」

普通 6両 8月27日10時20分 ひかりを止めるな!「地元民は無理難題を言う」


第2号到着 8月28日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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