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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第2号:ひかりを止めるな!

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「英雄の凱旋」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

――線歴1946年、魔王ノヴァとの最終決戦当日


 3日前、魔王城に至る最後の50kmが完成した。

 大陸貫通弾丸装甲超高速特急亞里亞号にて魔王城へなだれ込む30万の人類軍。

 前線の将軍達が魔王との最終決戦の結果を祈るように待つ。


 しかしその頃、ファン・ライン本社総裁室で

 マールは鉄道模型を眺めながら呑気な書類仕事を続けていた。


「現地に行かないでいいのかい?」

「全線開通式典なら始発でやったでしょ」

「いや、魔王が倒せるかの天下分け目の戦いじゃないか」

「それ、本気で言ってるの?」


 ため息をついて一度ペンを置くマール。

 まぁ仕方ないのかもしれない。

 シオンの戦闘スキルルートは完全なノータッチ。

 下手をすれば汽車内で暴れたサラマンダーにすら殺されかねないほどだ。


「前にさ、私、グレーターデーモンまでなら負けないって言ったよね」

「あぁ、君を負かせる相手は魔王軍でも5人居るかどうかじゃないかい?」

「いや、グレーターデーモンが3体いたらこてんぱんだね。

 エンシェントドラゴンも夫婦のつがいだったら逃げ出すしかない。

 アイアンゴーレムですら10体いれば無理だね」


「あー、つまり、それは……」

「戦いは数。相手が世界最強の魔王といえ、20万の先鋭に勝てるはずがない。

 ていうか20万で十分だって言ったのに30万投入してるんだよ?

 こんなのもう戦いじゃない。

 文字通りのリンチだよ、リンチ」


 まぁもともと魔王はリンチで倒すつもりだったが、

 要求した戦力の1.5倍が投入されるとは予想外。

 戦後、兵隊が職に困った場合、

 優先的にファン・ラインへの就労を受け入れると

 宣言したことを今更後悔している。


「だが広域魔法で一網打尽にされたら……」

「前線の将軍達がそんなミスをすると思う?

 対魔法防御をカチカチに硬めた囮部隊を小出しにしてMPを削り、底が見えたところで本隊がなだれ込む。

 まぁ被害ゼロとはいかないだろうけど、せいぜい100人じゃないかな。

 ランチェスターの法則ってやつだよ」


 なるほど、そういうものなのかと頷くシオン。

 しかし、ここで1つ疑問が浮かぶ。


「しかし、それなら最後の50kmだが。

 わざわざシールド工法を用いても地下水に喘ぐ難工事など挑まず、

 30万の強行軍で行けたんじゃないかい?」


 ぴくりとマールの眉が動く。

 額からたらりと汗が流れる。

 目がそっぽを向く。口笛を拭き始める。

 そしてシオンも気付く。


(この娘、単に最後まで作りたかっただけだねぇ)


 ともあれ、こうして魔王との最終決戦すら余裕をぶっこいていた天才マール。

 しかし、そんな彼女ですら最大限の緊張をもって挑まざるをえない戦いが、今はじまる。


挿絵(By みてみん)


――線歴1947年、魔王ノヴァが倒れた翌年


 次々と民主化していく世界の国々。

 ファン・ラインは世界政府の直轄会社として税金の一部が使用される形となったが、

 英雄『鉄道女王』の人気は高く問題視はされなかった。


 これは戦後の兵隊をファン・ラインが優先的に雇用したという事情も合わさる。

 なにせ魔王亡き世界で軍隊が不要と判断された結果、

 事実上世界人口の5%が一気に失業したのだから。


 平和になった世界は旅客輸送需要が右肩上がり。

 経済の発展に伴い物流需要も高まったが。

 この時、既にいくつかの地方路線は赤字化していた。


 今はまだ平和になったばかりの特需で維持できている。

 しかし10年後はどうかわからない。

 廃線を前提とした早めの経営縮小は、もはや必須の急務であった。


 だが、戦争特需のイケイケムードがまだ拭えていなかったこの頃。

 まだまだファン・ラインの路線は拡張を続けていた。


 こうして新たな線路を敷こうとなった時の最大の難関。

 それは予算でもなければ、

 橋やトンネルなどの工事に関わる技術的な問題ではなく……


 用地買収交渉である。


「あの日からずっと目を背けてきた。

 私はずっと逃げてきた。

 そのツケを払わないといけない……

 大丈夫、やれる。だって私は……

 歴史上初めて、魔王を倒した英雄なんだ」


 鉄道が魔王を倒した力であることは間違いない。

 その鉄道網を管理していたマールは鉄道女王と呼ばれ、魔王を倒した英雄と扱われている。


 しかし、そんな世界の声をマールは鬱陶しく思っていた。

 別に、やれることをやっただけ。

 しかも最後は舐めプで趣味に走っていたことも自覚している。

 自分はただの鉄道オタクでいい。

 本来ならファン・ライン総裁なんて椅子も誰かに任せたいくらいなのだ。


 そんなマールが「自分は英雄だ」と自己暗示のように呟いて挑む戦いが、

 新たな路線開通に関わる用地買収である。

 普通ならこんな交渉に総裁自らが出向くことなどありえない。

 だが、そこに関してはマールが挑むしかなかった。

 その土地の名は……


 エルフの里、アールヴヘイム。

 75年前、長老たちの期待を裏切って逃げ出して以来音信不通を固持していたマールの故郷である。


「よくも今更顔を出せたものだな、マール」

「も、申し訳ありません……」


 最長老、ドゥール。御年7000歳(推定)

 文字通り人類の歴史を『見て』きた生き字引である。


「我らエルフにとって、時間の感覚が人と違うのは当然のこと。

 人にとっての悠久は我らにとっての刹那。

 だがしかし……」

「はい、この75年間、私は……」

「何故1年も遅れたのだ!?」

「……は?」


 怒りにまかせるように背後のカーテンを掴んで引きちぎるドゥール。

 そのカーテンの後ろから現れたのは。


――我らの英雄マール、おかえりなさい!


 うきうきなフォントで文字が書かれつつも埃が積もった歓迎看板だった。

 続いてくす玉が割れ、中から紙吹雪といっしょにハエトリグモとカツオブシムシが落ちてくる。


「魔王を倒しての故郷への凱旋が1年後とは……

 一体どういうつもりだ!

 この、馬鹿者がぁぁぁぁああああ!!」

「え? え? ……えぇ?」


 下手をすれば殺されてもしょうがない。

 そんな覚悟で挑んだ決戦の結果が。


「おかえりなさいマール!」

「よくぞ世界を平和にして戻った!」

「これまでに何人もの同胞が勇者と共に逝ったというのに……」

「お前こそ我らエルフの誇り!」

「あなたの名は伝説と共に語り継がれるでしょう!」

「鉄道女王! 鉄道女王だ!」


 これである。


(……だから英雄とか言われるのは嫌なんだよぉ)


 内心でそんなことを思いながらも、マールはこの75年で一番の笑顔で笑っていた。


挿絵(By みてみん)

普通 6両 8月26日10時20分 ひかりを止めるな!「新たな目的地、新たな夢、新たな光」

普通 6両 8月26日22時20分 ひかりを止めるな!「実は世界に電車はあんまり走ってない」


第2号到着 8月28日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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