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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第1号:騎士の鉄道クオリティ

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13/85

「最速のライバル」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

――5年後、線歴1946年


「解散!? 王の鉄道連隊が、解散ですと!?」


 部隊長オオタニは激怒した。

 かの邪智暴虐の王を取り除かねばならぬと……


「待て待て。話を聞くのじゃ騎士オオタニ」

「しかし!」

「というか、わし、明日から王じゃないのじゃ……」

「は?」


 玉座の横からいかにもなインテリ官僚が歩み出る。

 メガネをクイっと上げて。


「2週間前、ファン・ラインが魔王城ベドログレードに至る最後の50kmを全線開業。

 同時に30万の人類軍が魔王城へとなだれ込み、魔王ノヴァを討ち取りました。

 人類の勝利です」

「な……!」


 聞いてない。聞いてないぞ!

 工事は牛歩以下の進捗で500mも進んでいなかった!

 俺はそれを確かにこの目で確認したばかりだぞ!


「バカなっ! どうやって!?」

「シールド工法。

 その最新技術とドワーフ達の協力で、

 ファン・ラインは最後の50km区間を世界初の

 ()()()()で開通させたのです」

「地下……鉄……!」


 そんな……そんな発想が!

 いやそもそも路線が開通したにしても、

 魔王ってこんなあっさり倒せたのか?

 数千年の間ずっと人類の宿敵だったのに!


「そしてこの勝利を機に世界中の国々が王政より民政に移行。

 これよりシモフサ王国はチバラギ民主共和国と名を改め、

 選挙により選ばれた代表により管理運営されます。

 王直轄の軍である騎士団はすべて解体。

 鉄道連隊とて例外ではありません」

「で、では! 現在敷設中の……」

「中止です。不要ですから」


「いや不要とまでは!

 隣国との間を結ぶ流通網として……」

「既にファン・ラインが直線で線路を繋いでいます。

 こんなS字カーブだらけの線路は、役に立ちません」


――廃線です。


 廃線。

 オオタニの頭の中にその2文字にゼツボウのルビを振られて浮かび上がる。


 こんなのはあんまりだ!

 王の急行隊解散の危機を乗り越え、今日まで名誉を賭けて挑んできたのに!

 去年は嫁さんだって貰ったのに!


 ……そうだ、止まれない。


 俺達はもう、止まれないんだ。


(ATS、解除)


 オオタニの頭の中で常識(ATS)が無効化される。

 虚空の中、存在しないレバーへと手が伸びる。


(指差し確認。前よし、後ろよし)


 こんな時でも忘れない。

 安心と安全。それが自分たちのモットーなのだから。

 そして、そのレバーを、動かす。


(出発、進行!)


 すぅ、と大きく息を吸い込み。


「ともあれ、民政で動かしていく以上不要な物にカネを使うわけにはいきません。

 線路を片付けるまでの給料は払いますので、それをもって……」

「カネか。カネなら……ある!」


 そう、たとえクビを切られても。

 自分には万が一のための、退役軍人年金がある!


「この線路と土地! 俺が買った!」


 城を飛び出し『自分の』線路の元へと戻るオオタニ。

 そこでは既に情報が伝わっていたのか、困惑する隊員達。そして。


「センイチさん! あ、いや……隊長!」


 去年籍を入れたばかりの妻、ヴィクトリアが不安な表情でこちらに駆け寄る。


「隊長! 本当なんですか!?

 ファン・ラインが最後の50kmを完成させて、魔王が討たれたって!」

「世界は平和になって、俺達の王様が王様でなくなるって話も!」


 もはやあの時とは違い、誤魔化すことはできない。


「あぁ……すべて、本当だ」


 主任達の顔に動揺が走る。

 それは。それはつまり……

 誰もがその答えを理解しつつも口に出せない中。

 ヴィクトリアがその重い口を開く。


「私達は全員クビ。

 この線路も、もう作る必要がない、って……」


 主任達が一斉にヴィクトリアへと振り向く。

 この小娘が!

 それは! それは言っちゃいけないことだろう!

 俺達の思いが、こんな簡単に否定されていいはずない!

 だが、現実は彼女の言う通りで……


「それは違う!」


 オオタニが目を見開き、カバンの中から1枚の証書を取り出す。


「この線路は、俺が買った!

 そして……! お前たちの人生も、俺が買う!」

「た、隊長!? それって……」

「王の鉄道連隊は解散する!

 俺はもうお前たちの隊長ではない!

 そして今日から……今日から俺は!」


 隊のシンボルである赤字に白の円の旗。

 そこに筆でKの文字を書き入れる。


挿絵(By みてみん)


(King)の頭文字を引き継ぎ、K!

 俺はKの急行隊、K急の初代社長!

 センイチ・オオタニだ!」









――79年後、線歴2025年


「行ってくるよ、アンタ」


 老婆が墓標に手をあわせる。

 老婆とは言え、体は筋肉の線が浮き出る筋骨隆々としたもの。

 そして老いてなお、エルフの血を引く顔は美しいまま。

 シーナ・オオタニ・ヴィクトリア、御年108歳。


「指差し確認。前よし、後ろよし。

 出発、進行」


 こうして今日も二代目社長として出勤した彼女を老練の職人集団が迎える。


「おう、コタニちゃん、今日も定時通りじゃねぇか」

「主任もだね」

「あたぼうよ。それに、言ったろ?

 いいとこの出だって、遅延は認めねえってな」


 当時の主任達は皆逝ってしまった。

 残っているのは、あの日、自分に檄を飛ばしたこの1人だけ。

 どこかでドワーフの血でも混ざっていたのか。

 まだまだくたばる気配がない目の上にたんこぶだ。


「だがいい加減名前くらいちゃんと呼んでくれないかい?

 私の名は……」

「コタニちゃんだよ。

 あのオオタニ=サンには、まだまだ到底及ばねぇ。

 だから、コタニちゃんだ」

「やれやれ。いけ好かないジジイだよ」

「うるせぇよババァ」


 軽口を叩き合いながらもにやりと笑みをかわし、手を掲げて。


「今日も1日」

「安心、安全」

「そして私達こそが……!」


 パァン、と手を叩き、続く言葉はずっと変わらぬK急のモットー。

 それこそが……


――最速だ!

挿絵(By みてみん)

普通 5両 8月25日10時20分 騎士の鉄道クオリティ「そしてなにより狂気が足りない」

普通 6両 8月25日22時20分 ひかりを止めるな!「英雄の凱旋」



第2号到着 8月28日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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