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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚 「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~  作者: 猫長明
第1号:騎士の鉄道クオリティ

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「エルフ流軍国主義」

この物語は、あなた達の世界ではフィクションに該当します。

――線歴1895年


 今からわずか130年前。

 この世界初の路線が完成してから23年後のこと。

 既に世界中の主要都市の間を鉄道が結び、流通網の効率は圧倒的向上を見せつつあった。


「ねぇ、シオンちゃん」

「マール。いい加減その呼び方はやめたまえ。

 君も私も既に立場のある身なのだよ、総裁」

「人前ではちゃんと技術主任って呼んでるでしょ?

 私、小さい頃から猫かぶるの得意だから。

 まぁ今もまだ小さいけどね」


 この年、ファンラインはついに株式上場を果たし、

 エルフの小娘でしかなかったマールも今やこの巨大な組織のトップ、

 『総裁』の席に座る身である。


「人間の基準では58歳ともなれば大御所なのだろうよ。

 私のような65歳ともなればもはや仕事は定年らしいしねぇ」

「えー? 65歳とかようやく成人と認められて仕事をはじめるくらいだよねー?

 本当に人間って私達と生きている時間が違うんだねぇ」


 エルフとドワーフの寿命は数千年。

 改めて人間とは時間の感覚が違いすぎる。


「でさ。私、そろそろ行けると思うんだよね」

「ふむ。今度はどこに線路を伸ばそうというんだい?」


 ここまで路線網を拡大する道は決して一筋縄ではいかなかった。

 最初の路線となったニューブリッジは商業都市で、商人ギルドが統治していた。

 つまり、鉄道の商業価値を認めさせることができれば、敷設は簡単だったということだ。


 一方、人間はどうしても新技術にはアレルギー反応を返してしまいがちな生き物。

 特に歴史と伝統を重んじる封建国家ともなれば新技術への拒否反応はもはや憎悪を伴うレベルだ。

 こういった国家の場合「周りはみんなやってますよ」というこれまた人間の悪い特徴となる同調圧力を用いることで新技術を広めるしかない。


 ニューブリッジをはじめ、商業都市同士を次々と鉄道で繋いて10年。

 鉄道の噂が広まったタイミングでこれらの封建国家に切り込んでいった。

 現状でまだ鉄道を認めていないのは絶望的に頭の硬い国王に統治された小国に加えて宗教国家のみ。

 これらに関してはもはや変わらないことを教義としている故、下手に手を出しては人間同士の戦争にもなりかねない。


 しかし、マールが新たに鉄道網を拡大しようと心に決めたのは、これらの抵抗勢力ではない。

 別の理由でこれら以上の絶望的な難易度を持っていた場所。すなわち。


「北の大地、ベリア。魔王領に鉄道を伸ばすよ」


 決意の宿ったその瞳にシオンは思わず背筋が震える。


(こいつは……この天才様は……

 本当に、常識に縛られない……!)


 魔王領に鉄道を伸ばさない理由。

 それはもちろん、魔物の攻撃により安全な運行が約束できないためだ。

 しかし、それ以上に。


「そもそもだよマール。

 鉄道は人と物を運ぶ、流通インフラだ。

 線路を繋いだ場所同士に人や物の行き来がなければ利益が出せない。

 君も総裁として理解しているだろう?

 結局人間の世界はカネがなければ動かない。

 魔王領に線路を伸ばしたとて、赤字路線が増えるだけだぞ。

 それとも、無人の在来線に爆弾を詰め込んで魔王へ突撃させようとでも言うのかい?」

「ははは。確かに、足止めはできそうだね」

「本気かい?」

「まさか! 冗談だよ。

 でも、鉄道で魔王を倒すというのは正しいかな」


 魔王を討つことは人類種共通の宿願。

 基本的に人間達とある程度の距離を取っているエルフも、対魔王では同じ目的を共有している。

 故に、魔術の才覚を持つ者は人間達の頂点、所謂「勇者」のパーティに加わり、共に魔王を討つ旅に出るというのが伝統だ。

 実際、天才的な魔術の才覚が認められていたマールは本来ならば2年後の60歳の成人と同時に里を離れ、勇者パーティに加わるつもりでの教育を受けていたわけだが。


「数人の勇者パーティで魔王を討つ。

 そんな舐めたこと考えてたからずっと魔王を倒せてなかったんだよ。

 5~6人で数万の魔物の軍勢に突っ込むとかバカなの?」

「それはそう」


「戦いは数だよ、シオンちゃん。

 そして、大軍で戦う時に一番重要なことと言えば?」

「うーん、優秀な将軍による指揮統制かい?」

「違う。前線までの補給網を盤石なものにして、兵士のみんなに毎日美味しいご飯を届けることだよ」

「腹が減っては戦はできぬ、というやつだねぇ。

 つまり、君の目的は……」


 にやりと笑って。


「既に世界中のほとんどの人間の王は鉄道の力を認め、受け入れてくれている。

 なら、それを使って軍を動かし、ご飯を届けられることもわかるはず。

 最強の勇者パーティで魔王を討つなんて荒唐無稽な夢から覚めてもらうのは今だよ。

 人類の総力をかけて、魔王領に軍隊を派遣するんだ」


 マールが魔術師になることを嫌っていたのは、魔法がつまらないからでもなく、平和主義だったからとかそういう話ではない。

 少人数のパーティで魔王を討つという伝統が、ただの自殺行為でしかないことに気付いていたからだ。


 もちろん彼女はそれ以外の方法で魔王を討つ方法も考えていた。

 1に、魔王によって分断された世界を結び、人類種をひとつにする。

 2に、国家間の機動防衛協定を締結し神出鬼没の魔族の攻撃から人類種を守る。

 3に、万全の補給を約束した上で魔王領に大規模派兵を行う。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そのために必要だったのが、

 自動で大量の美味しいご飯を作る仕組みと、

 馬より速い移動手段を魔法を使わずに供給すること。

 最初からマールはそれを目指して、

 シオンに全自動卵割り機爆発させていたのだ!


 そう、この天才様は、変わり者ではあったが夢想家でも平和主義者でもなかった。

 超のつく現実主義者で。そして……


「人間を無礼る歴史を、終わりにしてもらおうか」

挿絵(By みてみん)


 超のつく軍国主義者であった。

普通 5両 8月23日22時20分 騎士の鉄道クオリティ「戦争と鉄道」

普通 5両 8月24日10時20分 騎士の鉄道クオリティ「もういらない。勇者も英雄も鉱山労働者も」


第1号到着 8月25日10時20分

最終話到着 9月26日22時20分


駆け込み乗車は事故につながる恐れがありますのでお控えください。

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