季節はもうすぐ新学期
「しーちゃんどうだった?」
「なんかズレてた。あーちゃんは?」
「こっちも」
「もう別れちゃおっか?」
「え、あうん。来月のクラス替えでいい人探そう」
ホワイトデーの翌日、私たちはひそひそと話す。
「恋愛は高校からって漫画やアニメでよく見るし」
「中学男子に求めるのは酷かなあ」
「高校生になったときの予行演習って思っとこ」
そう話を切り上げると金平糖が頭の上に置かれた。
「おはよ。仲良いね。バレンタインのお返しだよ」
人気者の委員長がお菓子を渡すと走り去っていく。
「……どう思う?」
「照れ隠しかなあ。これは」
「会話のやり取りは大切よね――あ!そういえば」
私たちは廊下を歩きながら金平糖を鞄に入れる。
「聞いたことがある。男の子の愛は量だって」
「えーどれだけ愛してくれてるかでしょ?」
「愛の質と量が考え方がズレる原因かも」
しーちゃんがそう答えたところで教室に着く。
クラスメイトにあいさつを交わし席に座った。
☆ ☆ ☆
「――このall correctはすべて正しいが訳になる」
英語の授業で担任の先生が話している。
「ちなみにこれはOKの語源でもある」
「先生、それだとACでは?」
「oll korrectと書いたアメリカ式のジョークかな」
「その冗談が今も続いてるんですか?」
「それも含めて欧米なりのジョークってやつさ」
先生は肩をすくめる動作をして切り返す。
「ならALL OKはどうなりますか?」
「そのままの意味で」
「allとallの重複は文章としておかしいのでは?」
「そうだね、白黒思考で考えるとそうなるね」
「白黒思考?」
おうむ返しにクラスメイトは聞き返した。
「重ね言葉に関しては次の国語の先生に聞こうか」
「今知りたーい」
先生の言葉に生徒から要望が出る。
「マルチタスクができていて先生はうれしいです」
「今は英語の時間。これはわかりますね?」
「はい」
「なら簡単です。物事には優先順位があります」
「優先順位?」
「一度にやれることはひとつだけです」
先生はそう言って口を閉じた。
(今は英語の時間だから英語に集中、ってことかな)
私はそう考えこれまでの会話のメモを取り終えた。
(先生の雑談用メモノート、いつか役に立つかな?)
★ ☆ ★
授業が終わり、部活が終わり下校へと時間は流れる。
「家に着いたら連絡入れるねー」
「私も。それじゃまた明日」
しーちゃんと別れどっと疲れがくる中岐路につく。
帰り道で人影がまばらとなり私ひとりになる。
再度周囲を確認して私は靴のスイッチを押す。
(ローラーシューズ装着完了っと)
スイッチを入れてローラーを出し道を滑る。
(時間が惜しいから早く帰ってゆっくり休もう)
人が来たのでシューズを通学用の靴に戻す。
(学校指定のローラーシューズかあ)
タイパと騒ぐほど時間に追われた結果なのだろう。
(時は金なり。ひとりの時間は大切だし)
医者の父も言っていた。
『がんばりすぎると脳が炎症を起こすこともあるよ』
『どうするの?部活とかがんばるときがあるよ?』
『だから変えてみよう。がんばるをがんばれるにね』
『がんばれる……うんそれならできる範囲でやれそう』
『自分が自分に言うのががんばれるだからね』
★ ★ ★
だから私はがんばれる。
(恋に友達づきあいに勉強、自分のペースで行こう)
またローラーを出し滑り始める。
吹っ切ろうという気持ちと共に風景が流れていく。
(帰ったらお気に入りの曲を聴きて癒されよう)
今日はなにを聞こうか考えることも楽しくなれた。
(ノイズキャンセリングヘッドホンどこ置いたっけ)
置き場を思い出しながら私は家路を急ぐ。