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日陰者聖剣士伝【第一章完結】  作者: 夏目彩生
一章『彼』と残る想い
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6、邂逅と対峙(5)


「 ──お前の考えていたことを当ててやろうか?」


 ひとしきり笑い終わり、満足したのだろう。


 アラクスはこれから大演説をするぞとばかりに、パッと手を広げた。


「まずお前が彼女と会ったという事実については、本当の話だろう。

だが俺に会いに来たのは、 警察に相談するためなんかじゃない。

お前は無謀にも、自らこの事件について、捜査するつもりでいた。

だからこの事件について、何か情報を持っていそうな俺に近づいたんだ。


身内だからというのもあって 、ポロっと情報を聞き出せるとでも思ったんだろうな。 全く、なめられた話だが──」


 アラクスは少し、ミレナを睨んだ。


「そしてお前は話の中で、現在俺たち警察も、まだ事件性があるかもしれないと仮定して捜査しているんじゃないかと──そこまでは気がついた! 

急に俺の服をチラチラと見はじめたのは、署が今繁忙期かどうか見当をつけるためだ。


事件性があるかもしれないにもかかわらず、一旦彼女が自殺とされている理由について、……単に俺たちが忙しすぎて、いい加減なことをしてるとでも思ったんだろう」


 「全く、いかにもガキの発想って感じだな。 今や警察で組織はもう少し複雑なんだが──」アラクスはそっぽを向いて、ブツブツとささやく。

ここの部分は 独り言、心情の吐露なのだろう。


 再びアラクスは、ミレナを見つめた。


「そして彼について 。

──実のところお前は、全く心当たりがないんだろう?

だからこそ俺が知っている可能性を信じて、カマかけをしたんだ。どんどんボロが出ていたがな!」


「……」


  ミレナはそこまで言い当てられたら、もはや白旗をあげるしかなかった。

 完全なる敗北。敗北者だ。


  しかしそこまで、自分は分かりやすかっただろうか。 もちろん今そんなことを考えるべき 段階ではないことも分かっている。


 しかし それでも どこか納得したい 気持ちが 見れなの胸の中でヘドロのように 渦巻いて消えない。


 そんな考え すらも見透かされたのか、アラクスがまたニヤリとしてミレナを見下ろした。


「 どうしてバレたんだって顔してるな 。理由は2点だ」

 アラクスはそう言って、指を1本立てた。




「まずそもそもお前がわざわざ俺のところに来る時点で怪しかったし、お前が俺の話をこんなに真剣に聞いたことなんて今までなかっただろ? 

普段からお兄様の話は真面目に聞けってことだよな!」


 アラクスは2本目の指を立てる。


「その2、俺はこれで確信を持ったわけだが──まぁ『彼』を知ってる体でのカマかけがまずかったな。


そもそもお前がその『彼』と知り合いだったんなら、そいつと相談の上で俺のところに来るはずだろ?  色々辻褄が合わないんだよ!

まあもっと頭を使えって話だよ!」


  言ってアラクスは 挑発的な顔で 、自分のこめかみを指先でトントンと叩いた。


 ……確かにアラクスの言うことは全て最もな話だ。


  補足するならば、仲の悪いシスターがいるというのも、アラクスからするとバレバレの嘘だったのだろう。


 なぜなら絶縁状を叩きつけてきた実兄には会いに行くほどには、 メリーの件について必死であろうという妹が、単に仲が悪いというだけのシスターに話しかけられないというのは、あまりにも筋が通らないからだ。


「 ……驚いたな。兄さんがこんなにあからさまに楽しそうにするだなんて」


 ミレナはとっくに 白旗をあげてしまっている。


  もはや 開き直ったとばかりに、軽薄とも言える笑いを浮かべた。


そんな ミレナにアラクスは「ふん」と鼻を鳴らして答えた。


「 これが笑わずにいられるかってんだよ──?」



 ここで、アラクスはコホンと咳払いをした。そして今からが本題だと言わんばかりに表情を引き締める。



「──さてここからは質問だ。

お前は何の目的で、独自でこの事件を調べることにした? 

俺たち警察の鼻を明かしてやろうとでも思ったか?

それとも単純に好奇心か? ……もしそうだったら、まあさすが俺の妹と言ってやってもいいんだが……」


「そんなんじゃないよ 」


 ミレナは遮るように言った。


「 私は今日、 一人のシスターとしてここに来たんだ。

メリーさんはあの日、 確かに警察に頼った方が良かったんだと思う。

……けれど現実に彼女は、うちの教会に来た。


私をあの場にいたシスターとして、一時でも頼ってくれた。

──だから彼女に、少しでも報いたいんだ…… 」


「…………?」


 アラクスは心底不思議だといった風に目を丸くして、首をかしげた。今日一番、驚いた顔かもしれなかった。


 ……本来、ミレナの聞き込みの作戦は、最悪の形で失敗に終わったわけだから、ミレナのするべき事は、いかに上手く尻尾を巻いて敗走するかである。


  例えば「ここまで考えていることがお見通しだったら戦意喪失。完全に諦めたよ」とでも言えば今後お咎めがない可能性が高い。


  今後の動きだって制限されないだろう。


 しかし、ミレナはあえて本音を言うという選択肢を取った。取ってしまった。

警察に 思惑がばれた上に、喧嘩を売るような真似など、 もはや常軌を逸しているのに。


 ミレナ自身も何故こんなことを言ってしまったのかわからない 。ただ、ここ一番で打算的になれない、一人の少女がそこにいた。



「……だから兄さん、もし何か知っているならヒントだけでもいいから教えてくれないかな?」



 ミレナはアラクスの目を真っ直ぐに見据えた。

先ほどの開き直った様な薄ら笑いはすっかり消えている。



「……はぁー……」



 アラクスはミレナから目をそらし、ブンブンと頭を振った。


  口角は上がっているが、明らかに怒っていた。


  何かが、逆鱗に触れたのだろう。



 アラクスは改めてミレナを見下ろし、睨みつける。


  ──それは先ほどとは違って、明らかに 敵意を孕んだものだった。

 それが ミレナに対してなのか、もっと向こうの先にある何かに対してなのかは、分からないが。



「──何も隠す必要もないから教えてやる。

最近あの辺りの街が“ある噂”が広がったせいで、賊いっぱいでな。

治安が恐ろしいほど 劣悪なんだ。

だから彼女の件の自殺も、もう一度調べた方がいいんじゃないかという意見が上がった。


そんなわけだから まあ あの手紙には少しは感謝してやるが、……間違ってもあの街を調べようだなんて思うなよ」



 ──「特にお前、こんなに頭にキラキラをつけた状態だと簡単に死んでしまうぜ」


  そう言ってアラクスはミレナのティアラ風の頭飾りを、カンカンと指でつついた。



「……ある噂って、一体何?」



「 それは教えられない。

警察の守秘義務に反するからな。

……だがお前がどうしても そこまで 気になるのなら、方法がないわけでもない 」




 「何?」とミレナは問いかける。アラクスは ニヤリと笑った。



「──シスター なんてくだらねぇ遊びはやめて、俺の助手にでもなることだな。

それなら守秘義務違反に引っかからない」


「──…っ」

 今度はミレナが、目を丸くする番だった。





お読みいただきありがとうございました!


【キャラクターひとくちメモ】

■アラクス=ナノコロイド

有能な警吏であり、無神論をポリシーにしているミレナの兄。頑固者。

ミレナとは10歳以上歳が離れている。


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