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日陰者聖剣士伝【第一章完結】  作者: 夏目彩生
一章『彼』と残る想い
21/39

21、調査──夜(10)


 警察 一人一人への声かけは、終わった。

 結局誰一人として 目を覚ますことはなく、依然として意識があるのは、ミレナとライヤーだけだ。


 おそらくこの魔法の特徴として、アイテムなどで防御することは比較的容易だが、その代わりもろに食らうと、絶大の効力なのだろう。というのが、彼の意見だ。


 声かけをしながら進めた荷物チェックでは、やはりライヤーの言っていたことが正しかったようで、 一つだけ無線機を持っていないものがいた。


 チェックした荷物の中には、小型のライトが入っていた。明かりを灯しながら静かに二人の話し合いは再開した。




 ライヤーはミレナが先ほどの話でのリアクションがどうにも薄く、要領が得ていなさそうだったことが不満なのか、再び口を尖らせている。

 ……未だにミレナが剣を返さないことのせいかもしれないが……。


 そんなライヤーの様子を察して、ミレナは「失礼しました」 と軽く頭を下げた。



「……別に謝ることはないよ。 君は案外、聡明なところがある。

だから僕が言ったことに関しても、薄々気づいていたことなんだろう。


──けど、僕の案を君は採用するつもりはないんだ。

……それは君が賊たちの、身体の負担がそろそろ限界に達しつつあることに気づいているから──だろう?」


 あまりにライヤーの言うことが 図星だったので、ミレナは少しの驚きとともに、苦笑をする。


 そんなミレナを見て、

「……わからないな」ポツリとライヤーは言った。



「警察はまだ捕まって二日も経っていない。

だからもう少し助けを待っていたとしても、 命にまでは関わらないはずなんだ。


……仮に危険だとしたら、賊だけ。

彼らは罪人だ。どうせ警察に捕まったら、死刑になる。

君はそんな彼らのために、あるいはあの女性に殺されかねない、リスクのある方法を取ろうとしている。


……実に不思議だ。 君は聖職者ではあるが、見たところ、そんなにお人よしってタイプでもないんだろう?」


「……」


 この監禁場所で目を覚まして、おそらくもう数時間ライヤーともそれなりに会話を重ね、彼が案外物言いがはっきりと言うタイプ……──むしろ毒舌寄りだというのは、ミレナも気づいていた。



 ……しかしそれでもミレナとしては「なんだかんだ君は聖職者なんだね」とでもいった風に言ってもらえるものだと思っていたから、ライヤーの反応は内心複雑だ。


(そんなに、人が悪そうに見えるのかな?)


 なんて思いながら、ミレナは木箱──いや、木の棺桶の方を見つめた。


「もちろん私だって、命は惜しいですよ。

立場上、罪人だろうが命を救う努力はするべきだとは思いますが、それでも普段だったら自分の安全を優先するかもしれません。 ──しないかもしれませんが」


 最後の一言はちょっとしたミレナの反発心だ。


 ミレナは思う。

 木箱の遺体が、メリーの父親というのが本当ならば、おそらく今回の件は彼女の父親が 要因の一つとなっていると、推測される。


 そうなると当然、メリーも無関係ではなくなる。


 きっとあの少女は、どれだけ間接的であろうと、自分が要因で誰かがなくなるというのを喜ばない。

──その人物が、どれほど悪人であろうと。


 ほんの少ししか話はしたことがなかったけど、そう確信が持てる何かが、メリー=ロナインにはあった。


 だからこそ 本来のミレナよりも( ライアーの言葉を借りるならば) お人好しな判断をしているのだろう、と。



 けれどミレナは、あえてライヤーにそれを言うのをやめた。


 昼間彼と話した時、彼はメリーの名前をあげるだけでも涙を流していた。その姿を、思い出したからだ。



「……実は、妙案があるんです。

奇策ですが、彼女に無線機の使用がバレたとしても、無事に脱出できる方法が」



 その代わり、ミレナはある作成を打ち明けた。 実は女の正体が人工生命体だと聞いた時から、密かに思いついていた案を。



「──何だって!?」


 ライヤーは、僅かに眉を上げた。



「この話をする前に。ライヤーさん、改めて聞きたいのです。

彼女の正体についての、お話。


……実際ライヤーさんは、自身の憶測にどのぐらいの自信がありますか?

パーセンテージで言うなら、100%?」


「おいおい、なんだか子供みたいなことを言うなぁ」



 ミレナの言葉に 拍子抜けしたのか、ライヤーはふっと笑みをもらす。



「そうですね。……ですが、もしあなたの推測が間違っていた場合、かなりまずいことになるのです。 そういう意味では、これはかなりリスクの高い作戦でして」


「それは随分と 恐ろしいことで……パーセントか……。

90……いや99.9 、…、いや、あまり学者としては、こういう言い方は好きではないだろうないけれど、 100%で間違いないと思う」


「かけてもいいですか?」


「かけてもいいよ」



 ライヤーはドンと自身の胸を叩いた。

 割と線の細い彼は、傍から見ると頼もしい姿ではなかったかもしれない。

 それでもミレナは深くうなずき「そこまで言うのなら安心しました」と 口元を緩めた。


「ではまず作戦の説明のなんですが──」



 ミレナは 右手でライアーの剣を持ちながら、 左手で額から ティアラ風の頭飾りを外した。



「──奥の手を使います」

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