表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/58

四 その姉妹は悪霊の心をかき乱す

 メインヒロインが出てきます。

 余談ですが、私は黒ギャルとメカニック娘が大好きです。

 トラックの助手席から一人、そして、荷台からもう一人が顔を出す。

 ちょいとアテが外れちまったな。

 トラックなんて、おっさんの乗り物だと思ってたんだが。


 まあ、いいか。

 相手が女だってんなら、色々と楽しみようがある。


 体があれば、こんな時に舌なめずりでもするんだろう。

 どうやっていじめてやろうか。

 どんな悲鳴をあげて怖がるのだろうか。


 オレはわくわくしながら、二人の女がこっちにやって来るのを待つ。


「……夜鳴トンネル、ここで間違いないわね」


 トンネルの入り口までやって来た女の一人が、懐中電灯を取り出して、錆だらけのプレートの文字を確認した。


 すると、もう一人の女が、何やらよく分からない箱のような機械を構え、トンネルの中に向けてくる。


 なんだこいつら。

 やっぱり、粗大ごみを捨てに来た手合いか?

 だったら……


「お姉ちゃん、これ、見て」

「なるほど。電波と磁場に、微弱ではあるけれど不自然な乱れがあるわね。期待できるかもしれない」

「そ、そそそそそ、そうよね!」

「多くない? そ」

「だって、ここ、いかにも何か出そうっていうか、不気味っていうか」


 懐中電灯を構えた女は、差し出された機械についた画面と、それを持つもう一人の顔を見比べる。


「真白、もしかしてあなた、怖いの?」

「ま、まさか! あたしが、ちょっと不気味な心霊スポットごときでそん……」

「あ、がいこつ」

「にゃああああああああああああっ! うそ、どこっ!」

「あるわけないでしょ、そんなもの。しっかりしてちょうだい。ここに来るって言いだしたのは、あなたでしょうに」

「わかってるけどぉ。てか、お姉ちゃん! がいこつって、何その古いチョイス」


 片方の女は淡々と、もう片方の女は騒々しい。

 対照的な二人のやり取り。


 へえ、ここじゃ、あんまり見ないパターンの人間だな。こいつら。

 女が二人でってのが、そもそも珍しい。

 加えて、肝試しに来たってわけでもなさそうだ。


 オレはすぐには脅かさずじいっと、二人の様子を眺めさせてもらう。

 向こうにゃこっちのことなんか見えちゃいないからな。

 どんだけ近づこうが、際どい角度から眺めようが、バレやしないってのが幽霊の良いところ。


 二人組の女は、それぞれ正反対の雰囲気をまとっていた。


 先にトラックから降りてきた女は淡々とした話し方の通り、とにかく無駄がない。

 カラスの羽根のように真っ黒で、光沢のある長い髪。

 雪のように透き通った肌に浮かぶ瞳の色も黒。

 凛とした眼光からは頭の良さと、落ち着きが感じられる。

 背筋はピンと伸び、脚はすらりと長い。


 同性の目から見て「羨ましい」とか「かっこいい」とか言われそうなスレンダーな体型ってやつ。


 それに対して、やかましく騒ぎ立て、ビビりまくってる方の女は実にけばけばしくて、無駄だらけだ。

 まず、髪がとにかく派手な金色。

 後ろで一つに結い上げているが、髪を括っているゴムにはド派手な飾りが付いているうえ、波打った髪質のせいでキツネの尻尾のようにふわふわと膨らんでいる。

 そして、肌の色もどうなってんだってくらい茶色い。

 よく見たら眉毛もご丁寧に金色になっていて、まつげも不自然に長かった。


 あと、これは非常に大事なポイントだが、乳と尻がすっげえでかい。

 いやほんと、無駄にでかい。

 この場合の無駄は、良い無駄って意味だが。。


 いや、待て。しかしだ。

 この二人、特徴だけ見れば印象は真逆なのは間違いねえんだけど。


 どことなく、似ているような気もするんだよなあ。


「ここで躊躇っても仕方がないわ。真白、中に入るわよ」

「ええ……お姉ちゃん、ちょっと男前すぎない?」


 なるほど、お姉ちゃん、ね。

 こいつら姉妹ってわけか。


 言われてみれば目鼻立ちがよく似てる。

 どっちもでらがつくほどべっぴんな、カワイ子ちゃん。

 ただ、片方は賢そうで、片方は馬鹿っぽい。

 同じ親から生まれて、どこでこうも差がついたんだか。


 ま、そんなのはオレの知った事じゃねえんだけど。


 よっしゃ、決めた。

 狙うのは、妹の方だ。


 姉の方は美人だが、落ち着き払った感じがオレの好みじゃねえ。

 悪戯して遊ぶなら、リアクションと、良い悲鳴を上げそうな方に決まってる。

 それに、このむちむちした体の感じ。

 もしかしたら、これまでの挑戦者が積み上げてきた記録を更新するかもしれない逸材だ。


 全身はねえけど、全霊で、おもてなしといこうじゃねえか。 


 トンネルの中に先に踏み込んできたのは姉の方だった。


 オレは、その後をきょろきょろしながらついていく妹に接近。

 まずはあいさつ代わりに、背中を撫でてやる。


「うひょわあ! なにっ? なんかぞわってしった!」

「真白、うるさい。びっくりするでしょ」


 まるでびっくりした様子は見せず、悲鳴をあげた妹を切って捨てる姉。

 おーおー、ドライだねえ。可哀想に。

 幽霊さんが慰めてあげようじゃないか。


「みぎゃあ! 今度は脇……って、きひぃっ、脚もっ! お姉ちゃん! これ絶対なんかいる! ねえ、なんかいるってば助けてぇ!」

「……いい加減にしなさい」

「だってぇ!」

「どうせ水滴とか、草があたったんでしょ。先入観があるから冷静になれないの」

「ちが、ほんとに違うもん! そんなんじゃないもん!」


 涙目で訴える妹の周りを漂いながら、オレはちょっかいをかけ続ける。

 ちょっと触れるたびにビクンビクンと身をよじらせるのが実にいい。


 あまりの反応の良さに調子も上がってきた。

 そろそろ動くたびに揺れてる乳でもつっついてやろうかと、オレが意気込んだ時だった。


「おーい、二人ともー、なんか見つかったっすかあー……ってうわあ! 真白ちゃん何それ!」


 トンネルの入り口から、驚く男の声が響いてきた。

 そうだ、忘れてた。

 姉の方が助手席から、妹の方は荷台から降りて来たんだったな。

 つまり。


 あのトラック、運転手がまだ乗ってやがったのか。

 俺としたことが。

 この女二人のインパクトが強くて気が回っていなかった。


「ええ! 京之助、何っ? なんかいるのっ?」

「もしかして見えてないのっ? ほら、真白ちゃんの胸の下、なんか白いモヤみたいなのが」

「ぴゃあああああっ! キモイ! うそ! もうやだあ!」


 ちぃ、しかもあの男、オレが見えるタイプの人間かよ。

 こりゃめんどくせえことになったかもしれねえ。


 オレはいったん妹の方から離れ、トンネルの天井の方へ移動する。

 すると動くオレを目で追うように、男も視線をあげてきた。


 どうやら適当に言ってるわけじゃなさそうだ。


 きょうのすけ、とか呼ばれてたか?

 ごくたまにだが、こういう奴もいるんだよな。

 霊感が強いっての? 

 オレがここにいると、見抜きやがる奴が。


 まあ、初めてのことじゃねえ。

 こんな時は、力技だ。


 オレは一度意識を集中させ、一気に広げる。


 トンネル全体の地面、壁、空気、その全てに自分を乗り移らせるのだ。

 そして、壁を揺らし、風をうねらせて、叫ぶ。


『キエロ……ココカラ、デテイケェッ!』


 同時に地面も小刻みに震わせる演出のおまけつき。

 ぱらぱらとトンネルの中に積もった埃が崩れ落ち、転がった石がカチャカチャと鳴る。

 長い年月をかけてオレが覚えた技だ。

 このお手本のような心霊現象を見せられて、逃げなかった奴はいない。


「ややや、やばいっす。なんか白いやつ、めちゃめちゃでかくなってるっす」

「やだやだやだ! 祟り? 呪い? マジ有り得ないんだけど!」


 案の定、オレのことが見えているらしい男も、顔を青くして後ずさりを始めている。

 二人の女のうち、妹の方は立っていられなくなったのか、地面で頭を抱えて丸くなっていた。


 そうだ、脅えろ! もっと悲鳴をあげてくれ!

 オレ様に脅えて、こっから逃げ出しちまいな!


 オレはさらに激しく、トンネル内の風を唸らせた。


 なぜならまだ、恐怖に屈していない奴がいるからだ。


「ただごとでは、ないみたいね」


 その女は、目の前の出来事がまともではないのが分かっていて、冷静さを失っていやがらなかった。


 姉の方の女は揺れるトンネルの中を見回し、上着のポケットに手を突っ込んで何かを取り出す。


 それは分厚いレンズが二つついた、黒いゴーグルのようなものだった。

 女はそれを目元にかけて、顔を上げる。


 なんだそりゃ、何をしようってんだ。

 何で怖がらねえ。何でここから、いなくなろうとしねえ!


 自分の思い通りにならないことに怒るのも、焦るのも久々だった。

 オレは女を見下ろす。

 そして、女もまた、俺を見ていた。

 ゴーグルのレンズ越しに、確かな視線を感じる。


 まるで、目が合っているような。

 それが無性に腹立たしいような。


 なんでオレは、こんなにムキになっちまってんだ。


「すごすぎ、なに、これ。私が見ているのは、何なの?」


 そう呟いた女は、逃げるどころかオレに向かって一歩、脚を踏み出した。

 そしてあろうことか、宙に浮かぶオレに、手を伸ばしてくる。


『帰れえっ!』

「嫌よ!」


 一際大きく風を唸らせたはずのオレの叫びを、女の凛とした声が切り裂いた。


 さっきまでの物静かな話し方が嘘のような、力強い響きをもって、女は続ける。


「あなたが見えるわ! 何なのかはわからないけれど、私には、あなたの姿が見える!」


 それがどうした。

 見えるだけの奴なら、これまでも居た。

 妙なゴーグルをつけて、見えるようになったからって、なんだってんだ!

 オレはこのトンネルの幽霊で、悪霊で、ずっとずっとずっと一人だった。

 誰とも話せねえ。来るのは半笑いでオレを無視する連中ばかり。


 面白半分で、オレに近づくな。

 人として向き合うつもりもないくせに!

 オレが見えるだなんてことを言うな!


 見せもんじゃねえんだ! こっちは……っ!


「私は、あなたのことが知りたい!」


 ……は?


 その女の切実な叫びに、激しく揺さぶられるのを感じた。

 何がだ? オレの中の、何が揺れてる?


「そこに、いるんでしょう? 教えて、あなたのこと」


 差し出した両手を、オレに向かってさらに伸ばして。

 それでも届かねえもんだから、精一杯、背伸びまでして。

 女はオレに、話しかけてきた。

 

 なんなんだよ。意味わかんねえよ。

 なんでこの状況で、オレが見えてて、そんな顔ができる。


 なんで笑いながら、幽霊に話しかけてきてんだ。

 コイツ、頭おかしいんじゃねえのか。


「揺れが、止まった?」


 ダメだこりゃ。オレらしくもねえ。

 興が乗らなくなっちまった。

 脅かすのは止めだ。

 どうやら目の前の女を怖がらせることは、できねえみたいだしな。


 お化け屋敷で、げらげら笑ってる奴がいたら盛り下がっちまうだろ?

 オレは今、まさにそんな気分ってわけだ。


 オレがトンネルを揺らすのを止めたことに気付き、京之助とかいう男が不思議そうに呟く。


「ごめんなさいごめんなさい呪わないで祟らないで取り憑かないでえええええ」

「どうやら、大丈夫そうよ、真白。そんなところで丸まってないで、顔を上げて」

「えふぇ? あれ、おさまってる?」

「そうみたいね。あなたも、これ着けて見てみなさい。驚くわよ」


 地面にひれ伏し、涙で顔をぐしゃぐしゃにした妹に微笑みかけ、俺の方を指す姉。


「幽霊の、正体見たりとは言うけれど……枯れ尾花にしては美しすぎるわね」


 そいつは、興奮を隠しきれていない様子で呟いた。


 妹の方は不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに姉がかけているものと同じゴーグルを取り出した。

 それを頭に巻き、おっかなびっくりオレの方を見てから。


「なあぁにこれえええええええええええっ!」


 さっきの悲鳴よりも大きな、叫び声をあげた。

 姉も姉なら、こっちはこっちでいちいちやかましいな。


 うざってえこと、このうえねえっての。

 霊感が強い、と言われる人が世の中にはいますよね。

 その存在が本当なのだとしたら、普通の人とどこが違うのかなあと思ってしまいます。

 目が違うのか、脳が違うのか、それとも人智の及ばない何かの影響なのか。

 解剖とか、大真面目にやってる組織とか、現実にはないんですかね?

 気になります。


 少しでも面白いと思っていただけたのなら、ブックマークと評価をお願いします。

 時間があられる方は、感想もくださるととっても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ