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四十五 不眠不休

 それからの五日間は、壮絶だった。


 例えでもなんでもなく、真白と京之介は不眠不休で働き続けやがったのだ。


「京ちゃん、データ上がったから。今やってるとこはアームに任せて、こっち優先してお願い」

「うす。あと十分待って」

「五分でなんとかできない?」

「がんばる」


 こんなやり取りが延々と続く感じだ。


 オレにわかるのは、真白がパソコンで設計図らしきもんを何個も作り続けて、それをもう一台のちっちゃいパソコンで受け取った京之介がロボットアームと作ってるってことくらい。


 最初の数時間でアホウドリの修理が終わるくらいまでは、二人にも笑ったりや軽口を叩いたりする余裕があった。

 だが、一日目が終わる頃には表情が消え、二日目でどっちもイラついた様子を見せだし、三日目にはそんな感情もなくなったようだった。四日目になると真白がオレではない幽霊らしきものに話しかけだし、京之介は京之介で「ささみ食いたい」とうわ言のように何度も口にしていた。


 五日間、眠らずにいると、生きてるやつは人間らしさの大半を失う。

 オレはそんなことを学んだ。


 そんな生きてんだか死んでんだかわかんない状態になって、それでも作業はまともに進めていくあたり、真白も京之介もすげえ奴だったんだなと思わざるを得ない。


 特に真白は寝るどころか、風呂にも入らず、あんだけこだわっていた化粧も忘れ、服は薄汚れたつなぎを着っぱなしで、パソコンや機械の部品と向き合い続けていた。


 目の下には濃いクマが刻まれ、目はうつろ。肌は脂と汗まみれ。多分、臭いもするだろう。

 ただ、なぜだかオレには今の真白の方が、今までより強く生きているように感じた。

 必死に、強かに、命を削って、何かを作っているように見えた。


「これで一応……終わった、と、思うわ」


 作業を始めてから五日目の午後、黒実が告げた一週間のタイムリミットまで一日を切った頃。

 真白がパソコンの前で呻くように言った。

 その声には久々に、疲れ以外の人間らしい感情がこもっていた。


 隠しきれない達成感だ。


「なんとか間に合ったわね。後は、ロボットアームたちだけでも仕上がるでしょ。あたしらは待つだけ」

「うっす。真白ちゃん、お疲れさん」


 充血し、半分閉じたような目をした真白の言葉に、京之介が息も絶え絶えな様子で応じる。


「アイビス、完成までどのくらいかかりそう?」

『全行程の終了まで十時間前後の予定です』


 誰にともなく言った真白の声に、頭のいい機械のねえちゃんが返事をした。

 この五日間、真白と京之介がこいつに話しかけて何かさせてるのは何度も見てきたからな。

 オレも今さら驚くことはねえ。

 ガレージの中の機械のほとんどはこのアイビスとかいうコンピュータが動かせるらしい。


 現に今も真白のや京之介の指示なしでロボットアームたちがせわしなく働いている。

 文句も言わず、実にお利口さんだ。


「そ。何かトラブルがあったら教えてちょうだい」

『承知しました』

「と、いうわけで京ちゃん、明日の朝まですることがなくなりました」

「やったー……」


 京之介がその場に崩れ落ち、そのまま天井を仰いで大の字で寝そべった。

 歓声にまるでハリがないあたりに疲れを感じる。

 無理もねえけどな。


「ちょっと! 眠いだろうけど、あと少しだけがんばろ。明日の計画の、確認だけでもしとかないと」


 そうたしなめる真白自身も、既に船を漕ぎ始めてる。


「これが、ネクストアースのぉ、さーばぁを、ハッキングして見つけた……」


 パソコンの前に座って、カタカタと数回指を動かしたところで真白は力尽きた。

 机の上で前に滑るようにずるずると崩れ落ちていく。

 デカい胸が引っかかって中途半端なところで止まったが、気にする様子もなく動かなくなった。

 やがて、すうすうと実に幸せそうな寝息が聞こえだす。


 沈黙が続き、地べたで寝そべっている京之介の傍を、ロボットアームの一台が邪魔そうに迂回していった。


 やれやれだ。

 ここまでやって風邪ひいて台無しになりましたじゃ目も当てられねえ。

 余計な世話焼かせるんじゃねえっての。


 オレは意識のなくなった京之介の体に憑りついて、立ち上がる。


 うわ、全然力入んねえ。

 とんでもねえダルさだな、これ。

 こいつこんな状態で作業してやがったのか。


「……この根性を、別のとこにも回せってのに」


 オレはそのまま真白の傍まで近づき、パソコンのディスプレイを覗き込む。

 映し出されているのは地図と、建物の見取り図だった。

 どこのものかは考えるまでもない。


 ネクストアースの研究施設だ。

 明日、オレたちはここに乗り込んで、黒実に会う。

 真白の気持ちを伝えに行く。

 邪魔する奴がいたらアホウドリでぶっ飛ばす。

 簡単に言えば、そんな計画だった。


 それに意味があるか、と聞かれたら、オレはないと思う。

 意味がなくても、真白や京之介にとっては大切なことだったわけだ。


 五日間、人間をやめるくらいには。


「仕方ねえなあ。おい、アイビス」

『はい、要京之介様の声帯データを認識しました』

「左利きの格闘家と喧嘩する方法を調べてくれ」

『……格闘家、左利き、対策で検索したところいくつかの資料が見つかりました。画面に表示しますか』

「あー、それでいい。そこに映しといてくれ……よっと」


 オレはパソコンの画面に小さな窓みたいなもんがぴょこぴょこ飛び出してきたのを確認してから、机で突っ伏していた真白を抱え上げた。


 やわこいし、ボリュームもあるんだが、やっぱ若干重いなコイツ。


「ほんと近頃、オレ様すっかり良い幽霊になっちまったなあ」


 ぼやきながらオレは京之介の寝床まで進む。

 相変わらずの狭苦しさの部屋に入ってすぐ、オレは抱えていた真白を薄っぺらいせんべい布団に横たわらせた。


「……んう、京ちゃん」


 安心しきったような表情で眠る真白。

 その横に、オレも静かに寝そべる。

 そして、そのまま京之介の体から抜け出した。


 これでいい。

 目を覚ましたこいつらが、どれだけぎゃーすか騒ぐか楽しみだ。


 まあ、それまで少し時間がある。


 ここでぼんやり浮かんでてもいいんだがな。

 やっぱ、ガレージに戻るか。

 どうせ暇なら、オレはオレに出来ることでもしてやろうかねえ。

 私は一晩くらいしか徹夜した経験がありません。

 それでも、相当機嫌が悪くなったし、しんどかった覚えがあります。

 四徹なんてのは、フィクションの世界だからできること……なんですかね?

 実際にやってる人はすげえなあ、と思います。

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