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十七 仮の身体

 サンタの日常生活に関わるアイテムが、ちょこちょこ出てきます。

「さて、と、二人とも、そろそろいいかしら?」


 そう言って黒実がオレや真白、京之助をガレージまで呼び出したのは、小一時間ほどたってからだった。


 オレと真白が一歩も譲らない争いを繰り広げている間に、自分はがっつり二度寝を決め込んできたらしい。

 その証拠に、さっきよりも寝癖が酷い有様になっている。

 長くて光沢があったはずの黒髪は見る影もなく、まるで局地的な竜巻にでも巻き込まれたみてえにうねってた。


 どんだけ寝相が悪いんだよコイツ。

 今度部屋を覗きに行こう。


「ちょっと! お姉ちゃん、頭ヤバいよ! なおしたげるから、そこ座って!」

「別にいいわよぉ、今日は外に出るつもりもないんだし」

「ごちゃごちゃ言わない! ほら、そこ座る! 髪はいじられながらでも喋れるでしょ」

「うあー、あうー、めんどくさいー」


 あまりにも見苦しい姉の姿に耐えられなくなったのか、真白は黒実をガレージに置いてあった椅子に無理矢理座らせ、乱れた髪をとかし始めた。


 ガレージの中に当たり前のように櫛やら寝癖直し用のスプレーらしきもんが置いてあるのを見ると、黒実のものぐさな態度はしょっちゅうなのかもしれねえ。


「いたたた、真白、櫛が引っかかってる。もうちょい優しくお願い……えーと、それじゃまず、サンタくんにはこれをあげるわね」


 後ろから髪を引っ張られる間抜けな姿勢のまま、黒実はスウェットのポケットからゴルフボールくらいの大きさの黒い球を取り出した。


 なんだこりゃ。

 まさか、さっきの鉄砲みたいにオレを痛めつける道具じゃねえだろうな。


「ん、今はちょっと見えないけれど、警戒してるのかしらね? 安心してちょうだい。これはあなたにとって、とても役に立つものだと思うわ」


 どうだかな。信用できるかってんだ。

 どんなもんかわかるまでは迂闊に近づかない方が良さそうだ。


「返事がないから先に説明してしまうけれど、この球は、そうね。名付けてサンタボールといったところかしら」


 サンタボール?

 なんだ、その愉快な名前の代物は。


「簡単に言うと、あなたの体の代わりになってくれるものね。いつまでも京ちゃんの体やスマホに憑いていたのでは都合も悪いことも多いわ。今の形のままだと分かりにくいけれど、このサンタボールの中には、あなたがお話するための小型スピーカーと、移動するための脚が内蔵されているの」


 へえ、こんな小さい球にそんなもんが仕込んであんのか。


 確かに、何かにいちいち何かに憑かねえと、こいつらとしゃべれねえのは面倒だったしな。


 小回りが利く体があるのは、便利かもしれねえ。


「あまり時間はかけられなかったけれど、真白が設計して、京ちゃんが制作したものだから性能はお墨付き」


「ま、あんたが使う場合、中に複雑なAIを仕込む必要もないから、このサイズにするのも簡単だったけどね。それでも普通ならけっこーな値段になるわ。感謝しなさいよアホ幽霊」


 黒実の髪を手際よく整えながら偉そうに言う真白。


 なんでこいつはこう、いちいち癇に障る言い方しかできんのかねえ。

 素直に礼を言う気分になれやしねえ。


 ま、いいか。物は試しだ。

 オレはとりあえずサンタボールとやらに憑いてみることにした。


 小ぶりなおかげで意識を染みわたらせるのも簡単だな。

 声を出す感覚は、すまほとほとんど同じ。

 後は、脚があるんだっけか? どれどれ。


「あ、動いたわね」


 脚、脚、と意識しながら中で探りを入れると、それらしい感覚にたどり着いた。

 根元から先っちょに向けて伸びるように感覚を走らせると、カシャンと球体の中に収まっていた脚が飛び出す。

 数は、一、二、三……六あるな。ちょいと移動してみるか。


「サンタくん、そこでちょこちょこされるとくすぐったいわ。なんだか、虫がいるみたい」

『へいへい、今降りるっての』


 動きの具合を確かめるために手の平の上でもぞもぞしていると、黒実が嫌そうな声をあげた。

 オレは早速スピーカーを使って返事をして、黒実の手の上からぴょいっと飛び降りる。


 一メートルくらいの高さはあったと思うが、着地も問題なし。

 この脚、細っこいようでなかなか頑丈らしいな。


「問題なく動けているみたいっすね。流石、真白ちゃんの設計」

『ああ、そうだな。悪くねえ』


 そのままガレージの床をチョロチョロ這い回るオレの姿を見下ろして、感心したように呟く京之助。

 オレはその足元から六本の脚を駆使して、その肩まで登りつめてみせる。そして。


『ちなみに真白のパンツ白だったぞ。あんまし気合入ってない感じのやつ』

「うえっ?」


 京之助の耳元でたった今知った情報を伝えてやった。

 そりゃこんな低い視点ならスカートの中覗くなんて楽勝だわな。


「死ねっ! クソサンタ!」

『もう死んでますぅー』


 間髪入れずに真白がサンタコロースを撃ち込んできたが、もう慣れたもんだ。


 オレは京之助の肩からひらりと飛び降りて、その攻撃を回避する。

 その後、数発の追撃がやって来たが、こっちのボディが小さいせいか狙いも定まらないらしい。

 避けるのはそう難しいことじゃなかった。


「こんの、チョロチョロとゴキブリみたいにっ……京之助! あんたも忘れなさいよ!」

「む、無理だよ!」


 苛立った真白は京之助に八つ当たりを始める。


 寝癖を中途半端に直された状態で放置されることになった黒実は髪の毛の先をいじりながら、


「当分はそのサンタボールがあなたの体よ。私たちと話したい時は京ちゃんに憑くんじゃなくて、それを使ってちょうだいね」


 溜息交じりにそう言った。まあ、このサンタボールとやらに特に不満はないが。


『黒実、まさか、これがお前が言ってたオレの体ってわけじゃねえよな?』


 オレがこいつらに協力するのは、こんなおもちゃで満足するためじゃねえ。


 そこんとこは、はっきりさせとく必要がある。


「もちろん、違うわ。いずれ人間に近い体もちゃんと用意するつもりよ」


 オレの質問に黒実は頭を振った後、


「でも、そのためにあなたにはやってもらいたいことがたくさんあるの」


 スッと目を細めた。

 それだけで、さっきまでの寝ぼけた面が嘘のように黒実の雰囲気が鋭いものになる。


 やってもらいたいこと、ねえ。

 この仏頂面の女が食えねえ奴なのはさっき思い知ったしな。


 やれやれ、どんな交換条件を持ち出されるのやら。

 サンタボールですが、爆丸という玩具がありまして。

 あれを思い浮かべていただければ、相違ないです。

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