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十三 コンプレックスその1

 誰にだって逆鱗というものがあるのです。

 ドタバタと騒ぐ真白と京之助を眺めながら、オレがの悦に浸っていると、


「こんな朝早くから、何の騒ぎ? まあ、大方見当はつくけれど」


 呆れたような呟きと共に、黒実が脱衣所に入ってきた。


 上下灰色のスウェットに、もじゃもじゃになった黒髪。

 機嫌が悪そうに半分閉じている三白眼を見ると、こいつも寝起きなんだろう。


 こうなると冷静っていうより、だるそうな感じが目立つなコイツ。


「ふわ……京ちゃん、また憑かれたのね」

「うう、面目ないっす」


 あくびを噛み殺しながら、黒実は手に持っていたゴーグルを着けオレの方を見る。


 京之助は黒実の言葉に首を縮めて謝った。


 お前は悪くないんだから堂々としてりゃあいいものを。どこまでも気の小さい奴だ。


「真白、とりあえず私たちは出てくから、服を着なさい。そんな恰好じゃ話もできないわ」


 黒実は真白にタオルを投げて渡した後、京之助の手を引いて脱衣所を出る。


 オレはその場に残ろうとしたのだが、


「ほら、デンジくん、あなたもこっちに来て」


 すかさず釘を刺されちまった。


 ゴーグルで見えちまってるからな、ま、ここらが潮時か。


「デンジくん、あなた、いい加減にしてちょうだい」


 脱衣所の外に出るなり、黒実は深いため息を吐いた。

 腕を組み、空中に浮かぶオレを見上げてくる。


 なんだよ、お説教でもするつもりか?


「あなたがこの家にやって来て三日、セクハラの回数は今ので十七回目になるわ。そのうちの十六回が真白で、私は一回だけ。納得いかないんだけど」

「……黒実ちゃん、怒るとこそこ?」

「結構傷つくのよ。これだけ露骨に差をつけられると」


「そりゃ人には好みってもんがあるっすからねえ。黒実ちゃんは顔はいいっすけど、ちっとばかり体つきに色気が足りないと思うっす」


「…………京ちゃん?」

「ちっが! 今のはデンジさんっす! まあ、オレもそう思うっすけどっていだだだだだっ!違う違う違う! 今のもデンジさん! 黒実ちゃん、耳千切れるって!」


 ずずずずずっと、悪霊のオレも顔負けな黒い雰囲気をまとって京之助の耳を引っ張る黒実。


 京之助に憑りついて喋っていたオレはするりと体から抜け出す。


 こいつもちゃんと怒るんだなぁ。

 ちなみにオレがこいつを狙わねえのは体形云々の問題じゃねえ。


 リアクションが薄いから、触っててもつまんねーんだわ。


「あのね、デンジくん。私はあなたが協力してくれてることには、本当に感謝してるの」


 黒実は片手を額に当て、そんなことを言う。

 ちなみに京之助の耳は引っ張られたままだ。


「長いトンネル暮らしで退屈だったのは、わかるわ」


 へーへー、さいですか。


 それで?

 オレの気持ちを分かってくれてる黒実ちゃんは何が言いたいわけ?


「だけど、いい加減手に余るわ。もう少しでいいから、大人しくしていてくれない?」


 やなこった。

 こちとら住み慣れたトンネルから引っぺがされて、よく知りもしねえ場所まで連れてこられたんだ。

 このくらいの暇つぶしくらいさせろや。


 そう。オレがこの家にやって来たのは三日前のこと。


 三瀬の野郎と一戦かましたあの後すぐに、オレはこいつらと暮らすことになったんだ。

 黒実と真白は双子ですが、見た目も中身も全く似ていません。

 二人とも、あえてそうなるようにしてきたという設定です。

 現実にいらっしゃる双子の皆さまは、自分とよく似た相手にどんな感情を抱くんだろう、と疑問に思うことがあります。

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