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逆行悪女は弟を愛でて生きたいです  作者: 朝吹はづき
第一章 「目覚めたら七歳でした」
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第14話 誕生日パーティー(1)

 もしかして、ベルナールが誰にも秘密で産まれた時を待って共に祝ってくれるのかと、扉の方を見ても音も光もない。

 八回目の誕生日前夜も誕生日当日も祝ってはくれなかった。誕生日なのに、誕生日になるのにベルナールは一回もその簡素的で質素な家の者だけで開かれる誕生日会には参加してくれた事もなくプレゼントを渡しに来てくれる事も無い。何時も放っておかれて家族じゃないような誕生日を過ごす。


 その寂しさに何時も独り、暗がりの中で眠れず嘆き喚き泣いていたのを想い出す。皆誕生日が嬉しく楽しみだと誰もが口々に言うだろうがイクシャは違った。より一層孤独を意識する日で何時も怖く心細く寒く、苦し辛かった。


 今回もまた、泣き声を押し殺して布団に包まっていたイクシャは代わりに窓の方にはすらっとした人影があるのを見つける。

 涙を覚られないよう急いで拭って口を開く。

 

「……ちょっと、乙女が眠る寝室に入り込むなんて不謹慎じゃない?」


 不機嫌そうな声をわざと出した。だけどこれでは嬉しさが込み上げているのが気付かれてしまうかもと思ったら顔の表情も隠しきれないだろうと思って俯かせる。

 

 ─────「誕生日、パーティーよりも先に祝いに来てやったんだろ。俺だって暇じゃねえ、さっさと終わらせて眠りたいわ、此処に魔法で来る俺の気苦労を無駄にするような事を軽々しく言うなよ」


 

 そう言ってもイクシャの祝い事や誕生日、クリスマス、パーティーで家の者が居なくなる日があると来てくれるようにアーノルドは変わった。

 家族の内情はよくアーノルドは知らないもの気付くものがあるようで、何時も来てくれる。寂しいと思う日は、必ず風のようにイクシャの気持ちの変化に気が付いて。

 何でタイミングよく現れるんだと訊いた事があるが『つまらなそうにしてるかなーって思って行ったら大抵勘が当たってつまらなさそうにしてる』と笑って言われ何だか腹が立った。けれど、嬉しく思うのは嘘ではない。


 来てくれるアーノルドに感謝してるのも本当の事だった。


「八歳、誕生日おめでとさん」

「どうも、ありがと。やっとアーノルドと同い年になった」


 アーノルドはもう夏に八歳を迎えている為、冬まで実質一歳年下と言う事になってしまう。それはアーノルドの方が子供だと思っているイクシャにとっては悔しい事だった。


「……ほら誕生日プレゼント」


 皮肉を何時になくして表情も変えずにするりと交わすアーノルドに手渡される物は煌びやかな玉石の髪飾り。月の光に反射してより一層綺麗に映る。

 イクシャの黒髪に瞳と同じ青、緑系統の玉石。これを付けたら凄く可愛くなれる気がして胸が高鳴った。その胸に生じた率直な言葉よりも先に外に出たのが。


「ねえ高かったんじゃない? 良いの?」

「別に気にしなくて良い……それに、お前誕生日だからよ、特別にな」


 そっぽを向いて告げるアーノルドに笑いを溢して。着飾らない楽で夢のような関係。心地良くて穏やかで唯一他人と居れる時、苦痛に思わない時だった。


「……そう、そう……ありがとう。凄く嬉しい! こんなに可愛いの……お母さまにもロゼにも貰ったことない……っ! 本当に、ありがとう」

「……おう」

 

 嬉しさを噛み締めるかのようにその言葉を言った瞬間にぱあ、と輝いて満足気に頷くアーノルドにイクシャは微笑みを返した。



 それからは一杯に話して、笑って、遊んで。『眠りたい』と言っていたアーノルドはイクシャがこの夜を眠って夢を見たくないのを察してか一緒に夜が明けるまで過ごしてくれた。


「じゃあ、な……また、明日っつーか……ああ、めんどくせえ。またな」

「うん。またね」


 七色に光り輝くアーノルドの身体は呟かれる瞬間移動の呪文が言い終えるの共に消えてしまう。引き留めたい気持ちもあるが婚約もしていない幼馴染と言う絆だけで繋がっている関係をそれで終えたくもないから伸ばした手を引っ込めて小さく振って誤魔化す。気付かれないようにと祈りながら。



「……またね」


 呟いた言葉はまた独りになった部屋の中で寂しく響き渡った。



 ▲▽▲


 豪華絢爛なこの空間を照らす大きな輝きをもたらすシャンデリア。此方の顔まで鏡のように映る磨きに磨かれた硝子に大理石のタイル。白い幾つもの連なるテーブル。

 赤い絨毯を歩くこのパーティーの主役を皆、待ち望んでいた。どんな娘なのか、どういう外見をしているのか。それぞれの思惑とそれぞれの感情が渦を巻くこの場、制限された人数でありながらもその人の口から他の人へと己が話され噂は尾ひれがつき、社交界へとその尾ひれがつきまくった幾つもの噂話は伝染するから。


「……イクシャさま、宜しいですか」

「え、ぇ」


 ロゼが肩を、背中を擦っていた手を放す。吐き気がする。恐い、と思う。だけどやらなければならない事だから、皆の為に。


「では、パーティーをお楽しみ、下さいませ……また気持ちが悪くなったらロゼは此処で待って居ます。速やかに部屋に帰りますので、無理をせずに……」


 その心遣いに頷いてドレスを人差し指と親指で持つ。一歩一歩歩きながら深呼吸をする。


「イクシャさまのご登場です! 手を叩いて迎えて下さい!」


 楽器が奏でていた演奏は緩やかで奥深く優しい弦楽器が主軸となる曲に変わる。それと同時に胸がやけに生々しく身体を響き大きな早鐘を鳴らし始める。


(早く終われ早く終われ……ッ)


 そう願ってもそう祈っても、終わりはしない。決してイクシャを放っておきはしないのが社交界、話しかけてより人々が深く知ろうとするのが主役。煌びやかなパーティーだ。

 己が其処に居るのが相応しくないと気付いたのはタイムリミットが過ぎた時だった。社交界に姿を現すのは今回とデビュタントの時だけだとイクシャは心に決めている、だから、今回がその最初。あと六年後の一回で終わる。

 我慢は出来る筈、曖昧な事を言って余計な詮索などを無視してかわせばいい。婚約者選びだ何て曖昧に終わらせればいい。


「美しいわ……」

「眼も反らすことを許さない言葉には形容できない幼いながら強い輝きを放つ美貌だ……」


 ふわりゆらりと白いドレスを身に纏って花や玉石に彩られるその姿に皆、瞬きもせず感嘆の言葉を吐く。長い睫毛でその翠眼が隠されていたが、やがて眼は開かれる。


 階段の前でイクシャを待って居たのは、─────灰色系統の髪に碧眼の少年だ

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