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戦いの始まり

「……なるほど」


 一通り話を聞いて、アルマは顎に手を当て考える。

 審判の時だ。僕は嘘偽りなくすべてを話した。信じてくれ、と祈りながらアルマをじっと見る。


「……この世界には神がいるとされている。そのうちの一人は知識を好むそうだ」

「神? いきなり何を……?」

「神が想像の産物でなく、本当に実在するとすれば……その興味が君に向いたのかもしれない」


 ――知識の神が僕を選んだ、ということだろうか。

 データの身体に血の通った肉体を与え、ステータスやスキルを調整してその身体に取り入れる。非現実と現実の合成体(アマルガム)。普通に考えて不可能なことだ。しかしそれをやってみたいと思った。そして実行した。


「団長、それは……無理がないかな?」

「彼は嘘をつかなかった。自分に都合よく物語を書き換えることもなかったんだ。それがどれだけおかしな話でも、真実を語るなら私は信用する」

「そんなことがどうして分かるのよ」


 エスターの問いにアルマは微笑で返す。

 疑問に思ったのは僕も同じだが、信用してくれるならそんなことはどうでもいい。津波のように押し寄せてきた安堵に無表情(ポーカーフェイス)を崩しそうになりながらもどうにか堪える。


「それで、これから君はどうする?」

「元の世界に帰ることができるならそうしたい。その方法はありますか?」


 アルマは即座に首を振った。


「無い。転移魔法なら考えられていたけど、それすら完成には至ってないから。別世界への移動なんてできるのは、それこそ神様だけだろうね」

「……そうですか」


 実質、選択肢は一つということだ。僕はこの世界で生きていくしかない。そのことに軽くめまいを覚えふらつきかけたが、さっきの気絶で耐性がついたのかどうにか堪えた。

 生きていくにしてもこのままの調子では正気を失うのは時間の問題だった。今の僕は底無し沼の上を必死で歩いているような状態だ。時間とともに沈んでいく。それから逃れるために必要なものは何だろうか。

 沼ならなにかにしがみつけばいい。たとえば板のような。それにすがっている間は沈まない、あるいは沈むのを遅らせることができるだろう。では板としてどんなものが使える?

 ――『目標』。僕が思いついたのはこれだった。

 なにかのために必死で進む。他のことなんて考える余裕がないくらいに。ではなにをする? なにと戦う? ――ああ、ちょうどいいのがいるじゃないか。くだらないことに僕を巻き込んだイカレ野郎が。


「神様、か」

「うん? どうした?」

「神様が僕をこの世界に連れてきたんですよね」

「可能性の一つだけど、それが?」

「どうするか決めました。いつかそいつをぶん殴ってやります。迷惑料に利子も足して」


 僕の言葉を聞いたアルマの表情は困惑に固まっていた。何を言っているんだ、こいつは気が狂っているのではなかろうか――そんな声が聞こえるようだ。

 途方もない目標なのは分かっている。そもそもいるかどうかも分からないのだ。けれどそれくらいの目標でなければ正気を保つには足りないだろう。


「それをするためには生きていかなくちゃならないな。しっかり食べてよく寝て……そのためにお金が必要だ。アルマさん、仕事を紹介してもらえませんか」




 冷静になって考えてみれば、この世界で僕は学歴も資格も持っていない。地球ではそんな人間は仕事を得るのにも苦労するだろう。けれど僕は幸運だった。

 この世界では『冒険者』として依頼をこなせば収入を得られるそうだ。魔物の討伐などの労働の対価として金銭を得る。……まあ、つまりお約束のものだ。

 僕はアルマの勧めで冒険者になることにした。戦える身体は持っている。武器がないからしばらくは素手で依頼をこなすことになるが、それでも雑魚相手なら十分なことは先のゴブリン戦で立証されている。

 手続きをしていたら夕方になってしまったので、依頼に取り組むのは明日からだ。アルマが餞別として一泊分の宿賃をくれたので、僕は宿に泊まって眠りについた。

 そして翌日。


「ようこそ、冒険者ギルドへ!」


 ドアを開け木造の建物の中に入ると、正面のカウンター内に座る女性が元気な挨拶で迎えてくれた。

 初めての利用だと伝えると女性は施設の利用方法について簡潔に、それでいて分かりやすく教えてくれる。依頼書の貼られたボードから適当なものを選び、それを受付に持っていけばいいそうだ。


「……読めない」


 しかし適当な依頼を選ぶにも、僕はこの世界の文字が読めない。あの記号が文字なのだろうが、僕には子供の書く落書きにしか見えなかった。絵だけで魔物を判別するのは無理そうだ。

 これは困る。読み書きの勉強をしなければならないなと思いつつ、カウンターに戻って簡単な依頼はどれかと聞いた。


「じゃあ、これお願いします」


 そうして僕が挑む記念すべき初の依頼は『畑荒らしの尻尾退治』。標的はソリッドテイルという固い尾が特徴的な化け物だ。

 この初仕事にはお金以外にも目的があった。それは僕の身体について知ることだ。

 ――《Ruka》が持っていたスキルは八個。それらはどのようにして身体に組み込まれているのだろうか。

 《片手剣》《両手剣》《体術》《投擲》はそれぞれの武器を扱ったときに適用されると思われる。《体術》スキルが動作したのは確認済みだ。ゴブリンとの戦いでゲームと同じような戦闘ができたのはステータス補正とこのスキルのおかげだろう。

 では残る四個のスキル、《所持重量増加》《索敵》《疾走》《肉体改造》はどうなるのか。ゲームでの《疾走》はダッシュ時の敏捷力(AGI)増加、《肉体改造》はスキル熟練度に応じて筋力(STR)増加をもたらすものなのでまだ想像できる。その他はどうなるかさっぱり分からないので、これから検証していくしかない。

 仲間を募ることを勧められたが、それを断りドアへと歩く。ギルドの外に出て、誰に言うでもなく呟いた。


「さあ、始めよう」

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