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森にて、小鬼たちと

 戦いを始めるにあたって、まず知らなければならないことは『この身体はどちらなのか』ということだ。

 見た目はゲームのアバター《Ruka》だが、中身も同じだとは限らない。強そうなのは外側だけで、内側はもやしっ子である現実の僕の身体かもしれなかった。


「そうだな……とりあえず殴ってみるか」


 どちらなのか知るために手っ取り早いのはやはりそれだろう。もやしっ子が殴りつけたところで奴にたいしたダメージを与えられるとは思えないが、《Ruka》が持つステータスとスキルが適用されているならば――。

 ぐっ、と地面を踏みしめる。低く構え、走る方向に向かって視線を固定する。体重を乗せた右足で、思い切り地面を蹴り飛ばす。

 小さな爆発みたいな音を立てて僕の身体は前へと動いた。ゴブリンとの距離はおよそ二メートル。それを詰めるのにかかった時間はほんの一瞬だった。

 ――なるほど、こっちの身体か。

 僕はにやりと笑う。《Ruka》ならこいつらに苦戦はしない。驚愕に固まったゴブリンの顔面めがけて右の拳を振りかぶった。

 拳が化け物の顔に沈む。最初に当たった鼻が骨を粉々に砕いて潰れ、血や牙の破片を振りまきながらゴブリンは木の向こうまで吹っ飛んだ。


「よし、これなら……!」


 仲間がやられたのを合図にしたように、他のゴブリンが一気に突っ込んできた。

 まっすぐ振り下ろしてきた斬撃を躱し、後頭部に肘を打ち込む。間髪入れず後ろに向けて回し蹴り、突きにきていた一体を吹き飛ばして、その向こうのゴブリンをボウリングのピンみたいに仲間の身体でなぎ倒す。仲間の身体を足場にし跳びあがってきたゴブリンは顔面を掴んで地面に叩きつけた。


 戦闘は一方的であったが、あまりに数が多すぎる。倒したそばから湧いてきて、このままでは一撃貰うのは時間の問題だろう。

 この世界の傷がどのようになるのか、ここで試す気にはなれなかった。もしゲームのような抑制された痛みでなく、現実と同じ傷を負う、つまり激しい痛みを伴うのなら戦いはそれ以上続けられない。


「さっさと散らさないと……!」


 二十を超えて数えるのを諦めたゴブリンの頬を殴りつけたとき、左の中指になにか光るものがあるのに気が付いた。隙を見てそれを確認すると、それは小さな宝石がはまった指輪だった。

 これは脳筋装備の僕が物理攻撃に対して耐性をもつ相手に使う武器だ。武器として使ってはいるが、実際はダメージを与えられる効果を持つ『アクセサリ』なので《武器解除》で装備から外されることがなかったのだろう。


「これは使えるな」


 ゴブリンたちがいつまでも諦めない理由は僕が素手、丸腰だと考えているからかもしれない。それならばいつか必ず殺せると。

 ――では、すこし驚かせてやるとしよう。

 懲りずに突っ込んでくるゴブリンの攻撃を躱し、すばやく背後に回り込む。がら空きの背中を開いた左手で軽く叩く。

 パァン! と風船の割れるような音がして、ゴブリンが激しい閃光を背負って吹き飛んでいく。二転三転してゴブリンは普通に起き上がったが、それは想定内だ。これによるダメージがそれほど大きくないことは知っている。

 同じようにして三体のゴブリンの背中を指輪で叩いた。四回もやれば十分だろうと、バックステップで距離を取る。


 指輪の攻撃には二種類ある。ひとつはさっきのような小ダメージ+ノックバックの攻撃だ。ただしこれはダメージを期待しておこなうものではない。ダメージはあくまで追加効果、本来の効果はもうひとつの攻撃のための下準備(チャージ)だ。

 下準備を終えればようやくもうひとつの攻撃が使えるようになる。チャージ量に応じた放出攻撃――それこそが指輪によって与えられる大きな魔法ダメージ、武器として使える威力を持った攻撃だ。


 足を肩幅に開き、左手を開いて前に突き出す。攻撃の反動に耐えるために右手でその手首を固く握る。

 その姿勢を隙と見て、ゴブリンたちが一斉に襲い掛かってきた。数は五体。このまま動かなければその剣が僕を斬り裂くだろう。

 手を引き迎撃したくなるのを必死に堪え、殺意を込めて呟く。


「くたばれ……!」


 一瞬の溜めの後、蓄積されたエネルギーが幾本もの光線となって指輪から放出される。それは向かってきていたゴブリンたちの頭や腹を貫いて、一瞬で絶命させた。

 光線は貫通し、さらに奥へと跳んでいく。後ろに控えていたゴブリンの身体を穿ち、さらに木に穴を開け――やがて焦げた匂いを残して消滅した。

 予想もしなかった攻撃にゴブリンたちはたじろいで、攻撃の手を止めてしまう。

 ――奴らは怯んでいる。だがまだ不十分だ。少しでも隙を見せればまた攻撃されるだろう。『まだやれる』と化け物どもに思わせるな!

 大きく息を吸い、僕は叫んだ。僕が強い、お前たちは勝てないと、ゴブリンの群れに向かって吠える。


「まだ死にたいか! どっちが強いか分かったなら、今すぐお前らの巣に帰れ!」


 ぎっぎっと耳障りな鳴き声を上げるゴブリンに、僕の言葉は通じているのだろうか。少なくとも殺意は通じたようで、一体、二体と背中を向けて去っていく。

 やがて生きているゴブリンは辺りに一体もいなくなった。周りに残っているのはすべて死体だ。


「はぁ……ぁ」


 ――どうにか、生き残った。

 安堵に大きなため息をつく。戦いが終わると、どっと脱力感が押し寄せてきた。座り込んでしまいたいが、ここはまだ安全ではない。

 頬を叩いて気を引き締める。まずは森から出る必要があった。しかし、


「どっちから来たっけな」


 戦闘によって激しく移動したせいで、どこから歩いてきたかなどさっぱり分からなくなってしまっていた。

 ぼりぼりと頭を掻いて辺りを観察する。見覚えのある植物はないかと探すが、どれも似たような植物ばかり。太陽の位置から考えようとしても、森の中だからどこに太陽があるか分からない。


「適当に歩くしかないか」


 来た方向を探すのは諦めて、僕は正面に向かって歩く。

 しばらく歩くと思っていたが、歩き始めて五分と経たず森の出口が見えてきた。

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