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夜のキャンバスに色をからめて  作者: ぬりえ
八月

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96/230

二十、

「お世話になりました」


 みんなでメイドさんたちに頭を下げ、別荘をあとにする。

 青くキラキラした海が次第に離れていく。


「夏満喫したーってかんじ」

「すごく楽しかったね」

「気持ちよかったわ。海なんて久々で」


 まだ興奮の余韻が収まらない大介は、わーっと両手を高く上げている。それでも手が車の天井にぶつからないのがすごい。


「気が向いたらまた招待するよ」

「えー。気が向かなくてもお願い!」

「次は(さとる)のほうに行ってみてーな」

「え、俺?」

「おまえんちもあるんだろ? どうせ」

「どうせって……」


 聖は嫌そうな顔をしながらも、ぽつりと、「ある」と答えた。


「そんなら冬は聖んちな!」


 わいわい、とまだ先の冬休みの話が始まる。

 そんななか、小夜は車窓から外を眺めていた。


 もう海は見えない。会話に混ざらず、山中の道から人家がぽつぽつと流れていく。そんな景色の向こうに、小夜は昨日とそれよりも前――睦美と仲なおりしたときのことを見ていた。

 無意識に微笑んでいる。たしかに、いい思い出になったのかも。


「そうだ、あとで写真アルバムにして送るね」


 送る、というのはスマートフォンのメッセージアプリ内でのことだ。


「昨日の夜の?」

「それも含めるけど、別荘の全部」

「写真なんて、撮ってたっけ?」

「撮らせておいたに決まってるでしょ」


 しれっと答える綾乃。そういう力を持つ執事さんがいたのだろう。


「思い出は共有しないとね」


 ぱっちん、とウインクする綾乃はとてもかわいく決まっている。

 しかし小夜にはちょっと意地悪く見えた。


「セクシーショットもあるよん。女子も男子も」


 やっぱり。


「こ、この六人だけの共有にしようねっ」


 睦美の提案に、綾乃以外の全員がかくかくとうなずいたのだった。


 思い出は、記録として形に残るものはもちろんいいけれど、小夜はそれよりも心のなかで記憶として残しておきたい。そう願うのは、小夜だけだろうか。


 スマートフォンを持っていない小夜は、そのアルバムを見ることができない。どっちにしろ、見なくていいのかもしれない。いろんな意味で。


 とにかく楽しんだ夏休みの海。

 太陽の陽射しを反射する海、夕日の輝き、夜空の星々の煌めき。

 どれよりもずっと、その思い出はキラキラと輝いている。


 来週からは学校が始まる。何事もなく、普通に、学校生活を送れることを祈った。


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