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夜のキャンバスに色をからめて  作者: ぬりえ
四月
8/230

八、

「これに魔力が、ですか」


 パワーストーンがついているわけでもない、なんの変哲もない古びたカッターナイフ。

 これ自体に魔力がある、とこの人たちは言っている。


 私なんかにはまったく感じられないが、エリート集団生徒会役員サマたちはそれを感じ取っているようだ。


「もしかしたら、人に危害を与える類なのかもしれない」


 聖女サマが言う。

 うんまあ、そう思われても仕方ない。既に一人、傷つけてしまったのだから。

 小夜は、はぁと頷くしかなかった。


「それで、言いにくいんだけど……その魔力の中に、黒沼の魔力も含まれてる」

「私の?」


 五十嵐啓の言葉に、今度こそ驚いた。


「つまり私が、そのカッターナイフに魔力を足して悪事を起こしたとでも言いたいの?」


 五十嵐啓が目を伏せ、他の人も小夜の言葉を肯定するかのようにきまり悪そうな顔をしている。


 そうなのね。


「それなら」


 小夜は感情的にならないよう、怒鳴りたいのを抑えて声を出すよう努める。


「そのカッターナイフは生徒会に差し上げます。煮るなり焼くなり実験台にするなり、好きに使ってくださって結構です。私は別のものを調達しますので」


 生徒会役員サマたちに困惑の色が広がる。やすやすと手を引くのがそんなにも意外だったのか。だとしたら心外だ。


「これだけは言っておきます。私に人を傷つける意思などありません。人目につくのは嫌いなのに、こんなふうに生徒会の方々に囲まれるのは迷惑です」


 小夜はぎりりと役員たちを睨みつけた。


「それは置いていきますから、もう私を巻き込まないでください。それでは失礼します」


 退出の許可もとらずに扉を開き、ぴしゃりと閉める。

 止める者はいなかった。


 外には野次馬がたむろっていた。暇な人たちだこと。


 野次馬たちは生徒会室から出てきた小夜を見てひそひそと囁き合っている。その視線でわかる。自分が悪者扱いされているということは。


 どいつもこいつも。

 私は悪者なのだ。


 人を傷つけてしまったのは事実。しかしそれが真実であるとは限らない。


 ちょっと見たり聞いたりしたこと、印象だけで決められてしまう世間からの目。そしてそれは簡単には覆らない。


 小夜はこの日から、“悪”になった。


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