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夜のキャンバスに色をからめて  作者: ぬりえ
六月

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58/230

二十一、

「悪いわね、ボディガードまがいのことさせて」


 聖騎士サマの部屋の外に待機させていた人に言う。

 まだ朝早いところ、こっそりと男子部屋の棟に忍び込んでお願いしたのだ。従者的存在である慎也が、小夜の気配にいち早く気付き、話を聞いてくれた。


 快く頼みをきいてくれた彼には、感謝している。たとえもう、“あれ”がないとわかっていても、昨夜のことがあった身としては、ずけずけと本人の部屋へ独り乗り込んでいくことはできなかった。


「いや、頼ってもらえたのは正直嬉しい」


 ボディガードまがいのことをさせられた(さとる)は、言葉通り嬉しそうだ。


「ちゃんと聞いてきたわ。祠、行ったんですって」

「そうか」

「関係、あると思う?」

「俺は思ってる」


 小夜も同じ。突然人が変わる人たちと祠は、なにかつながりがある、と。

 わからないのは、小夜が持つナイフのことだけ。


「巻き込んでしまってごめんなさい。でもこれ以降のことは私ひとりでどうにか」

「俺もやる」

「私に関わらない方がいいわ」


 関わらないで、とは言えなかった。


「俺が勝手に、好きで口を突っ込む。それに俺はすでに当事者だ。権利もある」

「痛い目に合っても知らないわよ」

「覚悟してる。それに」


 聖は小夜の目を見た。


「仲間は多い方が、心強いだろ」


 小夜は眉をひそめて口をきゅっと噤んだ。誰かが近くにいる、という心強さは、さっきも――今も感じているから。


「変な人」


 素直にありがとうとは言えなかったけれど、聖は意味を正確に受け取ってくれているだろうか。


「ねえ」


 この機会に聞いてみることにする。


「私が最初に倒れて、五十嵐啓に抱えられて保健室に連れて行かれたとき、あなたも近くにいた?」

「なんでそんなこと」

「耳に入ってきた言葉が、同じだったから」


 最初に倒れたとき。


 倉庫に閉じ込められて逃げ出したとき。


 昨夜、襲われかけた後。


 一番に聞こえたのは、「おい、大丈夫か」という男子の声だった。


「……いた」


 少し間が開いたが、聖は素直に認めた。


「声をかけてたら、たまたまそこにあいつがいて、俺が連れてくって黒沼を抱えていったんだ。結局、俺は何もできなかった」

「そう。助けてくれたのが五十嵐啓にせよ、あなたにせよ、話題になってしまうのは変わらなかったわね。でも」


 ちょっと続きを言うのをためらう。


「でもありがと。心配してくれて」


 早口に伝えた。なんだか恥ずかしくて。

 らしくない、と自分で思う。こんなことを言う相手がいるとは、思いもしなかったから。


「お礼はどうすればいいかしら」


 恥ずかしいのを誤魔化すため、話題を変える。

 もともと借りは作りたくないたちだ。お礼は考えていたこと。剣の整備に使うなにかとか、手作りの茶葉とか、それくらいならできる。


「それなら、俺と昼休み、ダンスの練習付き合って」

「そんなんでいいの?」


 物を考えていた小夜にとって、意外な要望だった。

 でも聖にとっては超重大。口にするのも勇気がいった。


「それならこちらからお願いするわ。まだ慣れてないし」

「じゃ、場所は昨日練習してたところで」

「ええ、わかった。大介と慎也にも伝えておいて」

「え」

「仲間は多い方がいいんでしょ?」

「……」

「ここでいいわ。朝早くからありがとう」


 聖騎士サマのお部屋に行くだけのために時間をとらせてしまったのだ。


 ん、そういえば、昨日……


「ねえ」


 思いたってつい声をかけてしまった。


「昨日、……見た?」

「なにを」

「……先輩の部屋に入った時のことよ」


 思い当たる節があったのか、ぼん! と聖の顔が赤くなる。


「見たのね……?」

「えと、ちょっと、黒いのが、その……」


 もごもごと口ごもる聖に、ぱしん! と平手打ちしてやった。


「ごめんなさいね、これは八つ当たりだから」


 見えていた黒いそれのはスパッツだとは言わないでおく。

 ちょっとすっきり。


 ということで、微妙に気を悪くしたような聖とお別れ。

 大介へのお礼は睦美との仲をとりもったことで相殺してもらおう。慎也には疲れ目に効果のある目薬でも用意しようと考えている。





 一方聖は、小夜と二人きりで、練習とはいえダンスをできると一時心踊ったのに、がらがらと夢は崩れずーんと沈んでいた。しかも八つ当たりの平手打ちまでくらって。


 慎也に一部始終を伝えると、楽しそうに笑われた。大介には憐みの目でなぐさめられた。


 とりあえず、黒沼とダンスはできる。それだけでよしとしよう。だがそこで、指にまだ風のリングがついていたのを思い出し、また気分が沈んだのだった。


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