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夜のキャンバスに色をからめて  作者: ぬりえ
六月

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十四、

「ど、どうしたんですか。らしくないですよ」


 絨毯に押し付けられ、さすがに動揺してしまう。


「俺も男だよ?」

「そんなことは知っています! でもこういうことは他の女性のほうが喜ばれ」

「だめ。君じゃなきゃ」

「なんで」


 声が、震えそうになる。


「君は俺の大切なものを奪ったんだ。けれど俺は君からなにもとることができない。なら、奪ってしまえばいいって」

「私は先輩からなにかを奪った覚えなんて」


 !


 口を塞がれる。押し返したいのに、できない。


「んっ……わ」


「これで一つ」


 舌をなめてにやりと笑う目の前の男はもはや聖騎士ではない。正気でない。

 そう思ったとき、“あれ”が先輩の背後に見えた。あの、黒いどろどろのモノ。


「せ、せんぱい、それ……!」

「黙って」


 二度目の口封じ。数秒してやっと解放された口で、なんとか叫ぶ。


「やめてくださいっ」

「声が震えてるよ?」


 この人、楽しんでる。


「君もそんな顔するんだね。怯えてる顔。やっと見せてくれた、新しい面だね。これで二つ目かな」

「先輩、もとに戻ってっ」


 あのナイフはカバンに入っている。届かない。どっちにしろ、先輩を押し返すのに手いっぱいで、カバンにさわる余裕もない。


「そんなに暴れたら、ほら、スカートあがってるよ?」

「!」


 足をばたつかせ、体をよじっていたからか、制服のスカートが大きく持ち上がり、太ももが露わになっていた。


「奪えばいい。――そうだよね?」


 誰に対して聞いているの?


 しかしそれは口にできなかった。

 しゅるり、と首のリボンがほどけ……いや、外されたのだ。


「な、なに、を」


 ぷち、ぷち


 ブラウスのボタンが外されていく。先輩の湿気のある息が首元にかかる。


 助けを呼びたい。でも声が出ない。体に力が入らない。


 耳たぶを吸収される。びくっと体が震えてしまう。だめ、我慢して、私。


 怖い。


 先輩が背負う黒いモノではなく。


 首筋につつぅ、とまた粘り気のあるものがつたう。きゅっと反射的に首をすくめてしまう。

 くすりと声がした気がした。


「怖い?」


 こわい。


 目の前の男が。


 鎖骨に吸い付かれる。この人の手は、いま、どこにあるの……

 

 コワイ。


 小夜の思考は停止しかける。


 誰か……っ





「何してるんですかっ?!」


 ばしん、と部屋に大声が轟いた。聖騎士サマが小夜を絨毯に押し付けたまま身体を起こす。


「今、取組み中なんだ。ノックもしないなんて、マナーがなってないね。大佛(さとる)君」


 ドアの前に、聖が立っていた。


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