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夜のキャンバスに色をからめて  作者: ぬりえ
六月

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47/230

十、

「あの人だって」

「え、どれどれ?」

「ほら、あの、噂の……」


 次の魔法訓練は屋内のグループにあったため、外よりは比較的落ち着いている。屋外訓練なら激しく魔法や剣が飛び交っている事だろう。それでも剣が交わされる音や体術で床に倒される音、わあという歓声にきゃあっという黄色い声が重なり合って響いてくる。模擬試合と指導をする時間である。


 まずは二、三年による見本、次に一年に実践させて指導。そんなかんじ。

 小夜は講習にこそ参加しているが、もっぱら見学側だ。そもそもインドア派である。いや、ここもインドアだけど。


 全校生徒の親睦を深めることを目的としているこの合宿に、先生はなるべく口を挟まないようにしている。ダンスの講習とは違い、監督として室内にいるだけだ。だからとりあえず、試合を見ていれば何もしなくても“参加”とみなされる嬉しい時間である。できれば薬の調合でも独りでやっていたいところだが、残念ながらそれはできない空間だ。


 と、そこへ数人の女子が寄ってきた。


「あの、……先輩? (とおる)先輩とペアになったって、本当ですか……?」


 遠慮がちに訪ねてきたのは一年生。青のピンが見える。良い噂のない小夜に話しかけてくるとすれば、話題は一つしかない。


「ええ、そうみたいね」


 ずいぶん強引だったこと、スケープゴートにされたことは黙っておく。

 一年生はわぁっと華やいだ。他の女子たちも聞き耳を立てているのは言わずもがなで。


「よ、よかったら、リングを、見せてもらえませんか?」


 これも予想済み。そんなに緊張しなくていいのに。そんなに私が怖いのかしら。それくらい見せてあげるわ。


「どうぞ」


 右手を見せる。中指には空気がくるくる渦巻く透明のリング。


 すてき! きれい! さすが聖騎士様!

 様々な称賛がとぶ。


「聖騎士様は黒……灰色っぽいのをしているのを見たんですけど、色違いなんですね」


 あの人はそんなのをしていたのね。気にもかけていなかったわ。


 小夜としては、まだうろ覚えのダンスをはじめての人と上手にできるかが心配だった。

 ランダムに組む人ならまだいい。注目など集まらないし、他の生徒全員が踊っているのだから。

 しかし指定しペアとのダンスは参加しない人もいる。生徒会役員に注目が集まるのは間違いない。下手なダンスなど披露したらどうなるか。女子は怖い。


 今のところは聖騎士サマの優しさ方面に焦点が置かれているためなにもなく済んでいるが、心の奥底に妬みを持つ女子生徒は多いはず。女王様のようにならなければいいのだが。平穏に合宿を終わらせるにはダンスを何事もなく終えることが一番だ。

 一度くらいは練習したほうがいいかしら。あの人と。

 そんな考えが頭をよぎる。


 いやいやいや、あの人は五十嵐啓よりもさらにひっぱりだこで小夜と練習などしている暇はない。

 どうしたものかしら。


 指輪を見に来た後輩がはけて、試合を観察しているふりをしながら小夜は無事に合宿を終えるための方法を必死で考えた。


 しかしもっとも頭を悩ませていた先輩とのダンスの案件は幸か不幸か、解決されることになる。


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