十二、
「お世話になりました」
翌日の夕方、睦美が帰宅する前に、お母様にお礼を伝えて帰宅した。
睦美母は心配したが、熱も下がったしこれ以上ご迷惑をかけられない。せめて睦美が帰ってくるまで、と睦美母は言ったが、暗くなる前にと理由をつけて帰らせてもらった。
それでも明日は休んで、明後日から登校することを約束させられた。
三日も休んでしまうことになる。皆勤賞を目標としていたが、それも途絶えた。それなら明日、事前準備をしているのがいい。登校して起こるだろうことに備えて。
あのナイフを使い、準備をする。調合した薬を使い、しなければならないことがある。
久々に登校。心配はしながらも、必要以上にあの件に触れてこない二人の心遣いに感謝する。
気を遣わせてしまい申し訳ないが、今回の件は今日で終わりにする予定だ。そのため、大介に一組のあの二人のところへ言伝を頼む。
昼休み、大介は一組に顔を出した。二人に黒沼が登校してきたことを伝える。
二人、特に大佛のほうはとても安心した様子だ。やっぱこいつ……とは思うが、決めつけはよくない。そこはとりあえず置いておくことにして、頼まれた仕事をする。大介は視野が広く、切り替えの早い男だ。
「で、羽鳥」
廊下のほうを示し、大佛と離れてもらう。黒沼からは羽鳥だけへの伝言があったのだ。羽鳥は快く移動してくれた。話すと、面白そうに快諾を得た。
「伝えてきた」
「ありがと、ごめんなさいね、人使い荒くて」
「いいよこれくらい」
今日の放課後も大介には任務が与えられている。むつにも。
黒沼がどんなことを考えているのかはわからない。でもきっと、こいつならどうにかするのだろう。協力を頼まれるのが、大介は嬉しかった。
ぱか
下駄箱を開けると、靴に一枚の紙が入っていた。
“今日の五時、技術訓練室でお待ちしています。三人でお越しください”
「なに、これ」
綾乃はつい口に出した。メッセージの意味を考える。
どうかした? と後ろから二人が覗き込んできた。ぴしっと表情が固まった気がした。
「これって」
「二人とも、心当たりあるの?」
二人は目を泳がせる。知っていることがあるのだ。そしてそれを、綾乃に隠している。
綾乃はそれを吐かせた。
「そんなことをしたの?!」
怒鳴る。三日間、あの女は学校を休んでいた。あの気の強そうな女があの程度の嫌がらせで不登校になるとは思えない。風邪をひくとも思えなかったが、体調不良だとばかり思っていたのに。原因はこの二人だったのだ。
「だって、私たちの話に聞く耳持たないんだよ?! こりずにさぁ!」
「そうだよ、綾乃だって嫌だったんでしょ?!」
私は悪くない。
それが彼女たちの言い分だ。
「行くしかないでしょ」
綾乃はくるりと踵を返す。下校せずに、指定された場所へ。二人も渋々ついてきた。
この二人があの女を呼び出したのは旧体育倉庫。でもあの女は技術訓練室を指定している。
技術訓練室は、魔法技術の訓練を行う、その名のとおり室内の訓練場だ。武術の試合もしたりする。
この私と一戦交えるつもりか。
でも負ける気はしない。だが油断もできない。
それに、綾乃は自分にやるべきことがあると自覚している。
やってやろうじゃないの。
一泡吹かせてやる。
綾乃の心は、様々な気持ちが複雑に絡み合っていた。




