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「大丈夫ですか?どこか怪我は?」


レオは凍りついたように立ち尽くす少女に向かってにっこりと笑顔を見せると、優しく問いかけた。


「いいえ…。あの、ありがとうございます」

「いえ。見過ごすわけにはいきませんから。私はレオナルド。第二騎士団の副長を務めています。怖い思いをしたところを申し訳ありませんが、一緒に来てもらえますか?」


縛り上げた男たちを街の警備隊に引き渡すから、とついてくるように私たちを促して、レオは歩き出した。


その後、すぐ近くにあった警備隊の詰所へ連絡して男たちを収容させたレオは、事情を聞かせてほしいから、と少女を村へ同行させることを承諾させていた。


「何で村まで連れていく必要があるのです?」

「あぁ、ルゥ。彼女も1人じゃ心細いだろうから付いてやってくれ。エドに報告する」


エドとの合流地に私たちを連れてきたレオは、私の問いには答えず、強引に私を彼女の側に押し付けるとエドへと向かってしまった。

少女と2人取り残された私は、このままでいるのも気まずくて彼女に向き直ると話しかけた。


「私は、ルゥよ。あなたは?」

「トーコ」

「トーコね。ねぇ、」


私は周囲を見回して声をひそめる。

幸い周囲に私たちを気にしている人はいない。


「あなた、聖女?」


彼女は驚く様子もなく、こくりと頷いた。

そして私を見てすぐにわかったよ、と笑った。

何が、とは言わない。

私が声を落としたことに気づいていたのだろう。

周囲に気づかれてはまずいのだと。

私もうん、と頷くだけだった。

彼女を見つけるまで、ずっと心を波立たせていたざわめきは、すっかり収まっていた。


◇◇◇


「ルゥ、お疲れ様だったな」


村に戻ると、レオがひょいと手を上げて声をかけてきた。

彼が通るであろう通路をわざと使ったことに、気付いているのだろうか。


「こちらこそありがとうございました。

……あんなタイミングで助けてもらえるとは思いませんでしたけど」

「たまたま通りがかったら、何だか不穏だったからな」


にっこりと爽やかさすら漂う笑顔でレオは言う。

でも、どこか作り物めいた笑顔に私は確信を得る。


「───尾けてましたよね?」

「さぁね。たまたまだよ」

「流石、脅して協力させようとした人たちだけありますね」

「脅しねぇ。まあ、なんとでも。俺はともかくあの人は王族だ。国と民を守るためなら、手段を選びはしないだろうよ。

───例えそれが自分の名誉に関わることだとしてもね」


作り物めいた笑顔を消し去って、レオは呟くように言う。

その表情は自嘲めいても見える。


「どういう意味?」

「ルゥが生きていることが判ったら、追ってくるのは王太子だけじゃないってことさ。

むしろ王太子だけならエドの相手にもならないよ。

18歳を超えているとはいえ、まだ学生の彼は正式には未成年だ。

使える駒はたかが知れてる。それにルゥが死んでると思ってるやつなんて、王太子くらいだろ。

王やパウジーニ公爵が───父親が娘を、何の根拠もなしに簡単に諦めるわけがない」

「……」

「ルゥだってよく分かっていているはずだ。自分が王都の防衛の要だったってことは。

大抵の魔獣なんて大した敵じゃないことも。

俺が王なら、ルクレツィア嬢の死を確認するよりも先に国境に警備を敷くね。

万が一にでもルゥが生きていて、森を抜けて他国へ流れないように。いや、きっと生きていて、国境を越えるところを捕らえられるように」

「私1人のためにそんなことは…」

「するよ。なにしろ救世の結界師だ。

おそらく魔術師の帰還命令が出た時点で、同時に国境警備にも貴女が現れたら捕らえるよう緊急手配されていただろうね」

「だったら、そう言ってくれたら…」

「あの時、それでルゥは納得したか?

できるだけ早く国境へ向かおうとしてただろう。

エドが守ると言ったら信用できたか?

エドはルゥを屠ろうとした王太子の叔父だ。

王は貴女の利用価値のためだけに貴女の自由を奪うことを躊躇わない。

貴女にとっては王族であるだけで、エドはやつらと同類だったんじゃないか?

俺たちも人員はかつかつだ。ずっとルゥに張り付いて監視することはできない」

「だから脅してここに縛り付けようと?」

「俺はね。でもまさかエドまで俺に同調するとは思わなかったけどな」

「え?」

「俺が貴女に脅しをかければ、エドは俺を諌めて貴女にここに残るよう説得すると思っていた。

今さら言い訳にもならないだろうけど、エドもルゥをどうにか引き留めようと焦ってたんだよ」

「だから脅しも納得しろと?」

「エドは王族だ。騎士団長としての責任もある。だから利用できるものは利用する。

だけどそれは民を守るためだ。ルゥもその民の1人ってことだよ」

「───詭弁ね」


遠くを見るように視線を投げていたレオが、ひたり、と私に視線を合わせる。

その目は真剣なのか冷たさすら浮いている。

しかしそこに潜む感情は伺えない。


「守るために搾取に応じろと言われてるようにしか感じないわ」

「それぞれ果たすべき役割があるだろってことさ」


もういいだろ、とレオはするりと私の脇を通りすぎて行く。

果たすべき役割は、誰のために?

私は声に出来ない問いを飲み込んで、その後ろ姿を角を曲がり消えるまで見つめ続けた。


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